金融政策 monetary policy
中央銀行の金融政策については何をいうべきだろうか。私たちの学生時代には、政府の財政政策が支出拡大的に動き勝ちであるのを、牽制するのが中央銀行だと教えられた。中央銀行は物価の番人でそのため独立性が守られる必要があると。しかしその議論を昔初めて読んだ時、これは中央銀行内部の人間が自分の位置を高める印象操作をしているという疑いを実は感じた。この疑いは、中央銀行が実際の金融政策で誤りを犯す可能性を感じたときに更に深まった。しかし現実に今の日本で起きていることは、財政は財政赤字が増えすぎていて出動余地がないとして、デフレ化した経済を立て直すために、中央銀行が超金融緩和措置(異次元金融緩和)を実行する、という事態である。財務省出身の黒田総裁は異例の長期政権になり、日銀は自ら掲げてきた独立性を放棄して、その機能は国の経済政策の中に完全に包摂されたように見える。そしてそのおかげで、金融政策の限界もはっきりしてきた。金融政策は実態経済の環境を調整し整えることはできるが、実態経済の内実まで変えることはできない。
コロナウイルス対策の時代に入ると、緊急事態の声の中で財政立て直しの議論は霧散して、財政赤字は一段と拡大した。結果として、財政破綻を避けるためには、超金融緩和を継続するしかない、と議論されている(超金融緩和を辞めれば金利が上昇し、国債費も急増し国債の発行額が急増する、と予測される)。超金融緩和とは、市場に出された国債を中央銀行である日本銀行が、速やかに買い上げることを意味している(日本銀行の保有国債も急増している。金利上昇は日銀保有国債の評価損を急拡大するとも指摘される)。日本銀行は自ら国債市場に深く深く介入している。その過程で、これまで国内で国債の保有者であった、銀行や保険・年金が保有していた国債の多くを日銀が吸収した。銀行には外債、投信へのシフト、保険・年金には株式、外債、投信へのシフトを促した。そして日本銀行は、上場投信ETFを買う形で、株式市場へのコミットをも深めている。このような日銀の金融政策を見ると、現在の姿は様々な要請の帰結であり、新たな裁量の余地、裁量的政策の余地に乏しいように見える。
以下は近年の日銀総裁一覧である。
32代 植田和男 1951- 東大経MIT 東大 2023-
31代 黒田東彦ハルヒコ 1944- 東大法Oxford 財務省 2013-2023
30代 白川方明マサアキ 1949- 東大経 日銀 2008-2013
29代 福井俊彦 1935- 東大法 日銀 2000-2008
28代 速水優マサル 1925-2001 東京商科予科 日銀 1998-2000
27代 松下康雄 1926-2018 東大法 大蔵省 1994-1998
26代 三重野康ヤスシ 1924-2012 東大法 日銀 1989-1994
25代 澄田智サトシ 1916-2008 東京帝大法 大蔵省 1984-1989
24代 前川春雄 1911-1989 東京帝大法 日銀 1979-1984
以下は故ジェームス・トービン(1918-2002)が米国の「金融政策」について論じたものである。金融政策の目標について学派を超えた共通の理解があるとして、景気変動という言葉で表されるような景気の波をできるだけ抑えて、実質的な経済成長をもたらすことを、一番目の目標に挙げている。日本の中央銀行の金融政策の目標としてかつて掲げられていた、物価の番人的役割は目標としては二番目になっている。また金融政策は総需要の変動を刺激したり抑制したりすることで役割を果たす、その意味で金融政策は経済活動のブームや後退に影響するが、生産性や生産能力など経済のサプライサイドの操作はできないとしている。
James Tobin, Monetary Policy
Cited from Econlib.com
以下は近年の連邦準備制度議長の一覧である。
16代 ジェローム・パウエル(1953-) プリンストン 2018-
15代 ジャネット・イエレン(1946-) ブラウン イエール 2014-2018
14代 ベン・S・バーナンキ(1953-) ハーバード MIT 2006-2014
13代 アラン・グリーンスパン(1926-) ニューヨーク 1987-2006
12代 ポール・ボルカー(1927-2019) ハーバード 1979-1987
以下はCorporate Finance Instituteの解説。金融政策は、財政政策、外国為替政策と並んで政府が、経済に影響を及ぼす政策の一つ。中央銀行が経済における貨幣量に影響を及ぼす行為で、貨幣を借りるコストを変化させるものとしている。ご参考まで。
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