実質賃金の目減りをどうするか
人口減少は確かに良くないことかもしれないが、人口減少で人手不足であるため、日本経済が低成長でも失業率が低く抑えられる側面はある。そしてこの低い失業率は、日本社会の安定を支えていると考える。
ここでは失業率の低さをまず確認し、つぎに賃金の上昇が、物価の上昇に追いついていない点、つまり実質賃金の伸び率がマイナス、つまり実質賃金は減少して目減りしている=実質賃金は増えていないことを確認する。
最初に完全失業率の推移を見る。以下の表に見るように、日本の完全失業率は概ね3%未満で推移している(2024年5月の失業率で比較すると、米国は4.0%、ユーロ圏6.4%、韓国は3.0%、台湾は3.3%。なおイギリスは4月に4.4%だった。つまり日本の失業率は国際的にみて低い方にある。)
季節調整済失業率
23/12 24/01 24/02 24/03 24/04 24/05
男女 2.5% 2.4 2.6 2.6 2.6 2.6
男 2.8 2.5 2.7 2.7 2.8 2.9
女 2.1 2.3 2.6 2.6 2.4 2.3
ところで、消費者物価指数は今、早いテンポで上昇を続けている。その一因は、円安に伴う輸入物価の上昇である。
消費者物価指数(全国、前年同月比)
23/12 24/01 24/02 24/03 24/04 24/05
総合 2.6% 2.2 2.8 2.6 2.2 2.8
東京インターバンク市場為替相場(月中平均)
1$あたり円
2023/12 144.09 2022/12 134.85
2024/01 146.59 2023/01 130.28
2024/02 149.41 2023/02 132.69
2024/03 149.70 2023/03 133.86
2024/04 153.57 2023/04 133.40
2024/05 156.21 2023/05 137.39
問題は、賃金の伸びがこの物価上昇に追いついていないことである。こうした賃金の伸びとの関係で、物価を見るときには、消費者物価指数として帰属家賃を除いた総合指数という数値を使う。帰属家賃の数値は比較的安定しているので、この数値を使うと、物価指数の伸びは以下のように大きくなる。また帰属家賃を除いた総合指数の方が、物価についての消費者の実感に近いとされる。
帰属家賃を除いた消費者物価指数(全国 前年同月比)
23/12 24/01 24/02 24/3 24/04 24/05
総合 3.0% 2.6 3.2 3.1 2.8 3.3
これに対して名目賃金の前年同月比の伸び率は、以下の通りであり、消費者物価指数の伸び率を考慮した、実質賃金の伸び率はマイナスになっている。単純に考えれば消費者は消費を抑制し、国内消費は落ち込み、景況悪化になる。2024年春の労使間交渉で、大幅な賃上げが期待されたのには、この懸念の存在があった。ところがこの懸念とは裏腹に、円安で輸出が伸び、また外国人観光客の増加で、インバウンド需要が伸び、内外需ともに堅調であり、企業の経営環境は、良好である。つまり個人消費の低迷を、企業が意識しないで済む経営環境が成立している。この状況で今後、実質賃金が伸びて、賃金の目減りが解消されるかを注目したい。
名目賃金と実質賃金の伸び率の変化(前年同月比)
23/12 24/01 24/02 24/03 24/04 24/05
名目 0.8% 1.5 1.4 1.0 1.6 1.9
実質 -2.1 -1.1 -1.8 -2.1 -1.2 -1.4
従業員30人企業の実質賃金伸び率の変化(同上)
23/12 24/01 24/02 24/03 24/04 24/05
実質 -1.4 -0.9 -1.4 -1.4 -0.8 -0.5
通関統計 金額単位は億円
輸出 前年 輸入 前年 輸出入
同月比 同月比 差額
2023/12 96,429 +9.7% 87,868 -6.8% -14,979
2024/01 65,500 +11.9 100,781 -9.7 -35,280
2024/02 76,540 +7.8 85,829 +0.6 -9,289
2024/03 88,230 +7.3 95,739 -5.1 -7,509
2024/04 82,909 +8.3 87,207 +8.4 -4,289
2024/05 82,766 +13.5 94,979 +9.5 -12,213
外国人入国者の推移(月間 単位:人 速報値)
総数 再入国者 新規入国者
2019/05 2,742,806 266,846 2,475,960
2020/05 4,485 4,320 165
2021/05 17,371 12,253 5,118
2022/05 173,929 59,431 114,498
2023/05 1,983,255 198,324 1,784,931
2024/05 3,042,210 246,911 2,795,299
経済団体連合会 大手企業の賃上げ率(一次集計) 2024/05/20 平均で5.58% 1万9480円 集計可能な16業種89社
日本商工会議所 中小企業の賃金改定 2024/06/05 賃上げ率(加重平均) 正社員3.62% 9662円 パート・アルバイト3.43% 回答企業数1979社