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元本確保のお話

●いつもご高覧賜りありがとうございます。我が国のマイナス金利政策が解除されそろそろ一年が経とうとしてますね。滅多に起きない事を体験できたというと聞こえは良いですが、百年に一度と言われたリーマンショック、千年に一度と言われた東日本大震災と、この手のものはネガティブインパクトですよね。マイナス金利時代はコールローン100億円を朝放出(他社に貸し出すこと)して、翌朝帰ってくるときには目減りしているという摩訶不思議な状態でした。


現在価値のイメージ(2025年2月下旬。キャッシュフローが5年後だとした場合)

●この「金利」を活用して投資信託や仕組債などの金融商品では元本確保なるものが仕組み(ストラクチャ)でできます。銀行の預貯金ではないので元本保証は出来ないのですが、国債や信用力の高い発行体の債券に付くクーポン(利息)を上手に活用して仕組みが考えれます。2025年2月下旬ですと、日本だと国債を5年保有すれば年1.082%程度の利回りが、米国国債を5年保有(米ドルベース)すれば年4.271%程度の利回りがそれぞれ期待できるそうです。これを言い換えますと、日本国債では現時点で94.76程度の資産があれば、米国国債であれば81.13程度の資産があれば5年後に100の価値が得られます。これをディスカウントファクターとか現在価値とか言うそうで、お手持ちのPCでMicrosoft-EXCELがあれば以下計算式で簡単に出せます。

  K=G/(1+R)^T
   K:現在価値
   G:将来価値・・・・ここでは100で計算
   R:リスクフリーレート
   T:運用期間(5年なら5)
   ^:かい乗の記号

●上の図の青緑色の部分が現在価値、濃黄色が5年間の利回り部分をイメージしてますが、利回りは今後各国政府の政策や金融情勢で変わりますのでこにイメージも変わります。また海外資産では外国為替変動リスクもあります。これを言い換えると、リスク資産で運用損となったとしても、青緑色の部分の資産を国債等の極めて信用力や安定性の高い資産かつ、利回りが期待できる資産で保有するなら、5年経過すれば運用損の相殺が狙えるということです。日本円の世界であれば100万円のうち、日本国債95万円程度と上場株式5万円程度に分けて運用するというイメージです。
●世の中に出回っている仕組債では、この濃黄色の部分を金融派生商品(デリバティブ取引)に投資をして、通常より高い収益を狙っているものがあります。商品によっては元本確保の比率を下げて、デリバティブ取引の投資比率を高めて投資家の需要にこたえるような仕上げをしています。米ドルなど外貨建てが多いのは安定資産といえる利回りが日本円建てより相対的に高いためです。

●先ほどの仕組債に例示される場合、ある指数や株価等が一定水準を下回るあるいは上回ると、投資元本の全額あるいは一部(たとえば80%とか、成功した場合は120%とか)で償還されたりするものがありますが、一部の投資信託(ヘッジファンドやCTA等を含みます)では、投資信託の中に含まれる積極運用資産やリターンエンジン等と呼ばれる運用資産(アンダーライイング資産)と、国債や信用力の高い発行体の債券(安定的資産、リスクフリーアセット)を組み合わせて運用開始時点の投資元本の全部または一定割合を確保する仕組みを取り入れたものがあります。ボンドフロアー式とかCPPIとか呼ばれるもので、一定の数式にてアンダーライイング資産と安定的資産の比率を変え、アンダーライイング資産の運用が成功すれば資産全体にしめる比率を上げ、アンダーライイング資産の運用が失敗した場合には資産全体にしめる比率を下げる(または全資産を安定的資産にする)ものです。計算式自体は結構複雑ですので御興味にあるかたは検索してみてくださいね。

●ここでは米国金利年4.25%、5年後100米ドル(100%)元本確保、クッション3で試算したCPPIのイメージ図を描きます。当初アンダーライイング資産60米ドル、安定的資産40米ドルで運用し、一定期間経過後、アンダーライイング資産が仮に5%下落の57米ドルまで下落した場合、アンダーライイング資産を決められた計算式により比率を下げます。これにより更に下げた場合の元本確保の確実性を高めます。
(クッション3×(アンダーライイング57-安定的資産40)=51
      ・・・リバランス後のアンダーライイング資産
 全体資産97-アンダーライイング51=46・・・リバランス後の安定的資産)

CPPI、TからT+1の間にアンダーライイング資産が5%下落した場合のイメージ図


●逆に(これが狙っているシナリオですが)一定期間経過後、アンダーライイング資産が仮に5%上昇の63米ドルまで上昇した場合、アンダーライイング資産を決められた計算式により比率を上げます。これにより運用成績の向上を狙いますが、元本確保も考慮し一定割合の安定的資産は保持します。
(クッション3×(アンダーライイング63-安定的資産40)=69
      ・・・リバランス後のアンダーライイング資産
 全体資産103-アンダーライイング69=34・・・リバランス後の安定的資産)

CPPI、TからT+1の間にアンダーライイング資産が5%上昇した場合のイメージ図

●さらにアンダーライイング資産が5%上昇した場合、決められた算式により再度リバランスが図られます。

CPPI、TからT+1の間、T+1からT+2の間に
アンダーライイング資産が連続して5%上昇した場合のイメージ図

●CPPIなどのボンドフロアーによる運用の弱点は、高度な管理が必要となるため運用経費が余分にかかること、アンダーライイング資産(積極運用資産)の価値下落により安定的資産の比率が高いポートとなり、いったん下落した後にアンダーライイング資産の価値が上昇してもポート全体では資産価値の上昇が狙いにくくなることです。
基準価額(NAV)が市場の方向性を狙わない独立した絶対リターンを目指すヘッジファンドやCTA等でCPPIを採用されるケースもありますが、それなら元本確保のストラクチャーを入れない方が運用経費の節約や期待リターンの向上も狙えますし、逆に計量的リスクが大きい場合にはクッションが小さくなりボンドフロアーによる運用の弱点が出やすくなるのではないでしょうか?

●ボンドフロアー式はCPPIの他に、ボンドフロアー(投資開始時期から満期までのゼロクーポン債の現在価値)と、アンダーライイング資産の期待ボラティリティの関係から計算を導いて運用する方式などもあります。
カメラのズームレンズが焦点距離を変えて様々な状況に対応できるように、アンダーライイング資産の保有比率を変えてポートフォリオ全体の価値毀損を避けることを目指しています。

【注釈】CPPIとはConstant Proportion Portfolio Insuranceの略で、André F.Perold (1986), Fischer Black と Robert W. Jones (1987), Blackの各氏ほかにより開発された手法です。
【おことわり】この文書は投資手法の紹介であり、特定の金融商品の勧誘や推奨を目的としてません。当方は投資助言や金融資産のお預かりや仲介など一切行いません。高度な金融運用手法はそれ自体がリスクを内包してますし、これが成功するなんていう保証も示唆も一切できませんし、この文書の正確性も保証できません。投資は自己責任です。焼き鳥屋あきままは金商業者ではありません。文中のグラフは説明として数値を出しただけで、このような金融商品が存在するわけではありません。


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