数値評価は人のモチベを下げる?
さてさて,続いては,私の業界の人たちの間で話題になっていた(と私が思っているだけかもしれんが),この本。
従業員を数字で評価することへ一石を投じる本。自分の会社がだんだん大きくなってきて,自分の思いを理解してもらうためには従業員を何で評価すれば良いか,なんてことを考えている社長さん向けには参考になるかもしれない。もっとも,一般的な日本企業のサラリーマンがこの本の理屈通りの行動パターンを示すかどうかは,私もよくわからないです。
というわけで,この本は,納得半分,違和感半分。
同書は言う。「ほとんどの組織には複数の目的があるが,測定され,報酬が与えられるものばかりに注目が集まって,ほかの重要な目標がないがしろにされがちだ。同様に,仕事にもいくつもの側面があるが,そのうちほんのいくつかの要素だけ測定すると,ほかを無視する要因になってしまう。……プロフェッショナルは自らの職業倫理や判断と矛盾する可能性のある目標の強制を不快に思う傾向があり,このために士気が低下する。その結果,多くの人々がほぼ必然的にさまざまな手段を通じて実績指標を操作するようになる」(p.19)
まぁ確かに,管理会計研究でも似たようなことが言われてきました。50年くらい前から。会計数値はその人の努力部分だけを完全に切り分けて評価することができないので,数字に固執しすぎると従業員のモチベが下がりますよー,って話は,50年近く前からすでに言われておりました(Hopwood 1972)。
ところが現実には,数字で評価しているからといってみんなモチベが下がってるわけではない。
てことは,実際には数値目標の達成度だけではなくて,上司の主観で点数つける仕組みも合わせて使われてるんじゃないのか,とも言われてます(Ross 1995)。
数字は万能じゃない,会計は万能じゃない。よぅくわかります。
しかし,悲しいことが二つ。
一つは,筆者なりの代替案がほとんど示されていないこと。
そりゃ数値目標に弱点があるのはそうでしょうけど,その一方で従業員に「キミの仕事の核心部分はこれをやり遂げることですよ」と示すこともある程度必要だと思うのですよね。それをどう示せばよいのか? 最終章に「いつどうやって測定基準を用いるべきかチェックリスト」というのがあるけれど,どうも総花的な内容になってしまってて。なんというか,もう少しモデルとして整理してもらえたらなぁと。
もう一つの悲しいことは,これは私より先にこの本に触れていた後輩がツイッターで言ってたのだけど,かなり学術文献を参照しながら論理展開しているわりには,その文献の中に管理会計の文献が全くと言っていいほど見当たらなかったってこと。
数字で組織の人を評価することがモチベにどう影響するかなんて,管理会計学者の一番得意とするところなんだけどねぇ……。世界的に見ても,管理会計学のステータスって,そんなに低いのでしょうか。。。我々はもっと情報発信するべきなのか,あるいは隣接分野の方々と連携していくべきなのか。。。これはこれで考えさせられた問題であります。
……と,ちょっと暗い気持ちになりつつも,我々管理会計学徒はもっとアクティブにいかないといけないのかもと奮起させられたのが,この「測りすぎ」でした。