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デンマークの働き方を支える「フェアで対等な雇用契約」

前回の記事では、デンマークのシンプルな解雇ルールを紹介しました。

法律に定められた期間(従業員の就業年数に応じて1ヶ月〜6ヶ月)を以て、事前通知すれば、会社は従業員を比較的簡単に解雇できちゃうよという内容です。

日本に比べると社員をクビにするのがかなり容易なので、労働者保護が弱いような印象を受けるかもしれません。

でも実際、デンマークの会社で雇用条件交渉をしてみると「日本よりもフェアな形で労働者の権利が保護されてるなぁ」と感じるところが多々あります。

例えば、退職したい時にどのくらい前に退職届を出すべきかという事前通知の期間。

日本の場合は、民法627条により「雇用期間に定めがない場合、労働者はいつでも退職の申し入れができ、申入れの日から2週間を経過することによって雇用関係は終了する」と定められているので原則は2週間前。

ただし、引き継ぎや代わりの人を探さないといけないので、雇用契約や就業規則において「退職は1ヶ月前に通知すること」と、民法よりも期間を長く定めている会社も多かったりします。

そして、1ヶ月ぐらいなら妥当な範囲なので、普通に従うのが一般的だと思います。

一方デンマークでは、Funktionærloven (The Salaried Employees Act) において、退職届は1ヶ月前に通知することと決まっています。

ですが、雇用契約においてこの事前通知期間を2ヶ月前・3ヶ月前と延ばすことが可能です。

辞められると困る中核社員や、代わりの人を採用するのが難しい技術職の場合によく適用される条件です。

ただし、事前通知期間を延ばす場合、会社が解雇する際に必要な事前通知期間も同じ期間だけ長くしないといけない、というのがデンマークのルール。

例えば・・・、

退職届は3ヶ月前に通知すること」と、雇用契約に入れた場合、通常の1ヶ月前通知よりも2ヶ月延長しているので、もし会社がこの社員をクビにしたい場合、会社側も法定で定められている解雇事前通知期間に2ヶ月プラスしないといけないのです。

社員の勤続年数が3年の場合、解雇事前通知期間は3ヶ月なので、解雇したかったら5ヶ月前に通知を行うことになります。

つまり、会社の都合で従業員が辞めにくい(退職の事前通知期間が長くなっている)のであれば、会社が従業員を辞めさせるの同じだけ難しく(解雇の事前通知期間も長くなる)ならなければならない・・・という考え方です。

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日本の就業規則では、「競合他社への転職の禁止条項」というのも一般的だったりします。

でも、デンマークでこのような条件を雇用契約書に記載する場合、会社は、社員が退職してから12ヶ月に渡り、給料の60%に相当する金額を社員に払い続ける(最大時・条件による)必要が出てきます。

これは、「社員の職業選択の自由を狭めているので、会社はそれに対する補償をしなければならない」という考え方。

※ 一見すると会社に厳しい条件のようにも見えますが、実は会社側にとってもメリットがあります。日本では、「職業選択の自由は憲法で守られている」と反論することで、競合他社への転職の禁止条項は無効にできる可能性が高く、実質的にあまり強制力を持っていないと言われています。
一方で、デンマークでは補償金を払う代わりに強制力が生じ、もし退職者が禁止条項を守らなければ、契約違反として民事裁判を起こすことが可能です。

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いずれの場合も、「会社と従業員は対等な立場であり、会社の都合で従業員が一方的に不利にならないようにする」というフェアな考え方が大前提にあるのだと思います。

一方、日本の雇用契約や就業規則は、どちらかというと雇用主である企業が決めており、企業側の都合が優先されているイメージ。

だから、本当にフェアな条件になっているのかどうかは、ちょっと疑問だなぁと僕は感じることがあります。

ブラック企業という言葉が一般的になって久しいですが、それはフェアじゃない労働条件が多すぎるということなのだと思います。

だから、政府や関連省庁がすべきことは「会社と従業員は対等な立場である」という考えを徹底させ、「会社と従業員が双方にとってフェアな雇用条件」となるよう、旗振りや法整備をすることなのかもしれません。

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