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アジャイル契約は何がいいの?(IPAソフトウェア調査1)

アジャイルソフトウェア開発のときの契約はどのようになっているのでしょうか。IPAのソフトウェア開発に関するアンケート調査では、ソフトウェア開発のときの契約状況を調査しています。その調査で一番多いのは自社のひな型を使っているもので、次に多いのは取引先のひな型を使っているものです。またケースバイケースも多いのですが、逆にIPAのモデル契約を使っているのはほとんどありませんでした。なおIPAのアジャイル開発のモデル契約では最低限の価値を決めて、そこを請負契約的に締結し、残りはSES契約的にするというものです。
そしてアジャイル契約のベターなものとして、儲かっている会社の契約と考えてみます。これを上記のIPAの調査から分析すると、答えは自社のひな型を使っているものになります。これは当然です。契約も含んで自社のベースで開発できるのですから。

次節:ソフトウェア開発手法


アジャイル契約はどんなものがいいの?

アジャイルソフトウェア開発をするときの契約はどんなものがいいのでしょうか。それよりも前にアジャイル契約はどのような感じになっているのでしょうか。

ここではIPAの「2023年度ソフトウェア開発に関するアンケート調査」を元に見ていくことにします。
なお「2024年度ソフトウェア動向調査」を現在(2024/12/23)実施中ですので、後日見ていくことにします。

アジャイル契約はどうなっているのか?

それでは上記のソフトウェア調査で、ソフトウェア契約がどのようになっているかを見ていきます。以下にこの結果を示します。

アジャイル開発をしている企業のソフトウェア開発に関する契約
「IPA 2023年度ソフトウェア開発に関するアンケート調査」のデータから筆者が作成

一番多いのが自社のひな型を使っている場合で全体の約半分を占めています。次に多いのが取引先のひな型を使っている場合とケースバイケースでぞれぞれ約2割になっています。IPAのモデル契約を使っているのはわずか2%になっています。また不明というものが約1割もあります。

なおIPAのモデル契約を使っているのが少ない言い訳としては、選択肢が「IPAのモデル契約をベースに契約することが多い」となっており、「IPAのモデル契約を参考にした自社または取引先のひな型」のように間接的に参考にしているものが入らないことに注意してください。このため2024年度の調査の選択肢では選択肢を上記も含むように変えています。
# 筆者はIPAの回しものでなく、弁護するわけではありません(たぶん)。

IPAのモデル契約(アジャイル編)

アジャイル契約の例として、IPAのモデル契約を見ていくことにします。

その概要は、必要最低限の機能(価値)(MVP: Minimum Viable Product)をベンダとユーザ企業で取り決め、この部分は従来の契約で行います。MVPは仕様も明確であり、将来の変更も少ないコールドスポットになっているので、請負契約が採用される場合が多くなっています。

MVP以外の残りの部分は、仕様が明確でなく、その仕様も将来的に変更されるホットスポットになっています。このホットスポットの契約では請負契約を行うのが難しく、SES契約などの準委任契約になり、変更に耐えうる契約形態にする必要があります。

詳細は情報システム・モデル取引・契約書(第二版)にありますので、参照してください。また情報処理学会のLIP版契約もありますが、大きな差異はありませんが、こちらも参考にしてください。

アジャイル契約はどのようにすればいいのか

前述の(わずか2%しか使われていない)IPAのモデル契約の概要を紹介しましたが、各社のアジャイル契約もこれに近いものになっていると推測しています。

ここではこのモデル契約を前提にして、アジャイル契約はどのようにすればいいのかを考えてみます。そこでIPAの調査から、儲かっている会社はどのような契約をしているかを分析してみます。

そこで儲かっている/儲かっていない会社と各契約の2x2の関係をP値と連関係数で調べてみました。

(余分な情報)
なお「P値(有意確立)が5%未満」とは、20回に1回(5%)未満の確率で意味のある差がないことになります。そして5%未満であれば、そのデータには有意な差があると言っていいと世の中的に信じられているものです(たぶん)。
また連関係数とは定性的な変数(質的変数)における相関係数のようなものです(すみません、ざっくりな説明で)。強弁できる人であれば0.10でも許す人がいるかもしれません(ってなぜか予防線を張っています)。

儲かっている/儲かっていない会社と各契約の2x2の関係は以下のようになりました。

(1) 儲かっている会社と自社のひな型の契約書を使っている会社は P値0.4% 連関係数 0.12で「正方向」の関連がありました。

(2) 儲かっている会社と取引先のひな型の契約書を使っている会社は P値0.1% 連関係数 0.14で「逆方向」の関連がありました。

(3)儲かっている会社とIPAモデル契約やケースバイケース、不明の会社はP値が大きく関連は認められませんでした。

つまり儲かっている会社は自社のひな型の契約書を使い、儲かっていない会社は取引先のひな型の契約書を使うというようになりました。
# 関連係数が0.12、0.14って、あれ、関連係数ってなんでしたっけ

この結果は当たり前です。自社のひな型を使うということは、自社ベースの開発が行える素地があるということで、逆に取引先のひな型を使うのはペースが取引先にあるということで一事が万事です。きっと。

ということで、今日辺りの結論。「アジャイル契約はIPAを参考に(宣伝)」「契約は自社のひな型で」以上です。

参考:(1) ソフトウェア研究会「とある技術のソフトウェアエンジニアリング」 | Facebook


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五味弘
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