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スタンフォードロースクールの紹介・受験プロセス

企業法務に関わる弁護士・法務部員の皆様の中には、海外ロースクール留学を目指される方も多いと思います。そうした皆様のために、私が卒業したスタンフォードロースクールのLLMプログラムについて、その受験プロセスを含めて紹介します。

スタンフォードロースクールについて

スタンフォードは、シリコンバレーの中心に位置します。ロースクールランキング(https://www.usnews.com/best-graduate-schools/top-law-schools/law-rankings)的には、ここ20年程毎年のようにハーバードと入れ替わりで2位を争っています(ロースクール業界不動の1位はイェールですが、イェールのLLMは基本的に研究者用です。)。

大学の横を走るPage Mill Road等に米国大手ローファームのシリコンバレーオフィスがずらりと並びます。また、大学すぐ横のSand Hill Roadには大手ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティが勢ぞろいし、特にベンチャーキャピタル業界にとってはウォール街的位置づけです。

場所的な近さから、ロースクールの実務家教員は大手ベンチャーキャピタルのキャピタリストや大手ローファームのパートナーが多いです。

GAFA、テスラ、Airbnb、Twitterや有名スタートアップの本社が近く、アラムナイも多数いるため、そうした企業への訪問イベントがよくあります。Google、Facebook、Airbnbなどの本社の超豪華設備は必見です。

シリコンバレーで世界最先端の分野に触れることができるため、世の中の潮流をいち早く把握できます。そこで得た知見を日本に持ち帰ることで、いち早く新分野の第一人者を目指すこともできるかと思います。

強みのある分野

場所柄、テクノロジー、環境分野、スタートアップ、ベンチャーファイナンスやM&A等に強みを有します。

テクノロジー分野では、AI・ディープテック関連の授業が大変充実しています。
環境分野はLLMにもそれ専用のユニークなプログラム(ELP)が存在しますし、大学全体としても注力しているエリアです。

スタートアップ関連はロースクールを超えて大学全般に数えきれない種類の授業が提供されており、ロー生も履修できます。

ベンチャーファイナンス関連は、場所柄、普段ではお目にかかれないような超一流キャピタリストや弁護士が教えに来てくれます。例えば、トップVCのアンドリーセンホロウィッツのマーク・アンドリーセン本人が授業に来たりします。一流ローファームまで赴きVC投資交渉を実際にシミュレーションする授業も提供されていますし、シリコンバレーでの最先端のプラクティスが授業の中で惜しげもなく披露されます。

シリコンバレーではスタートアップのイグジットとしてM&Aが盛んに行われていることから、M&A関連についても強みがあります。私が在籍した時は、「ポイズンピル」の開発者がM&Aの授業の教鞭をとっていました。

リーガルテック・起業

スタンフォードロースクールはリーガルテック分野にも注力しています。CodeXという多数のリーガルテック専門家や起業家が所属する専門の研究機関を有し、毎週会合が開かれたり、リーガルテックのビジネスアイデアを作る授業やイベントがあったりします。LexisNexisに買収されたRavel Lawなどはスタンフォードロースクール発祥です。

学生起業をサポートする多数のインキュベーターが学内に存在し、実際にアイデア出しから会社設立までをやってしまう授業も複数あります。また、Ignite(https://www.gsb.stanford.edu/exec-ed/programs/stanford-ignite-full-time)という、LLM卒業後にわずか500ドルで受講できる1ヶ月程の起業プログラムが存在し、そこで一通りの起業に必要なノウハウを高速習得できます。これらを利用して、在学中や卒業後すぐに起業まで行うロー生もいます。

LLMプログラムの特色

① 少人数制の4つのプログラム

LLMプログラムの特色は、少人数であることと、毛色の違う4プログラムが置かれていることです。

スタンフォードLLMには以下の4つのプログラムがあります。

Corporate Governance & Practice (CGP): M&A、ファイナンス等
Law, Science & Technology (LST): IPやテクノロジー分野
Environmental Law & Policy (ELP): 環境分野
International Economic Law, Business & Policy (IELBP): 通商、競争法等

それぞれのプログラムの学生数は15人〜20人弱です。
出願の際は、出願先のプログラムを選んで出願することになります。

② 学生の構成

学生の関心領域ごとにプログラムが少人数に分けられていることから、共通の話題も多く、非常に密度の濃い交友関係を容易に育むことができます。

どこか特定の国に偏りがあるわけではなく、世界中からバランスよく学生が集まってきます。私の時は、最大勢力でもインドからの全プログラム合計10人程度でした。日本人は全体で毎年3〜7人ほど入学します。JDも含めて特定人種への偏りがありません。男女比もだいたい1:1です。

授業は、LLM専用の一部授業を除き、JDと合同で行われます。他校では100人を超える授業が当たり前のところもあるようですが、スタンフォードはJDの規模も小さいので、授業は総じて15〜50人程の少人数です。小規模ゆえに、JDとの交流機会も多く、JDの友人も作りやすいです。

LLMの学生の構成は、その国の最大手ローファームの弁護士、一流グローバル企業法務部員が多数です。官僚や裁判官も一部在籍しています。年齢は30歳過ぎ位が多いかと思います。

③カリキュラム

少なくともCGPとLSTについては、カリキュラムの自由度は大変高いです(他方で、ELPは必修科目が多いことから、本当に環境系に関心がある方の出願をお勧めします。)。他学部の授業がとりやすく、各学部間で他学部生の履修が奨励されていたりします。

スタンフォードは、全米最高ランクのビジネススクールやコンピュータサイエンス学部、世界的に有名なデザインスクールなどを擁します。そのため、LLM生の中にも、こうした他学部の授業を履修している学生が多数います。

要求される英語力

要求される英語力は学科によりますが、基本的に高度です。学校関係者の話によると、高い英語力を要求する理由は、少人数でのディスカッションを授業の中心に据えるためで、ディスカッションに有意な貢献ができるレベルの英語力を求めているそうです。

例えば、私が在籍していたCGPの英語力要求水準は非常に高く、私の時は学生の大半が英語ネイティブまたは英語圏長期居住者でした。日本人も歴代では帰国子女または英語圏居住者が大半で、TOEFL110でやっと最低ラインに乗るかどうかという印象です。

他方、ELPやLSTなどのプログラムでは英語のスコアが必ずしも高くなくても合格している例がありますので、プログラムごとに要求される英語力は異なります。

良好な周辺環境

スタンフォードの周辺環境は非常に良好です。とても短い冬を除けば一年中晴れで昼の気温は20~28度程度で安定しています。治安は日本並みかそれ以上に良いです。

新しい大規模な寮が完成したため、ロー生全員が大学内の寮に入れると思います。
家族連れは、エスコンディードビレッジという多数の公園・遊具・保育園に囲まれた大学院生用の寮に入ることができます。同世代の子供同士の交流も盛んで、子供同士を通じて親とも仲良くなれます。

単身者または子供なしカップルはロースクールすぐ隣のマンガーというロースクール用の寮に入ることができます。新しい建物で、空調その他の設備も万全。ロースクール生に囲まれ生活ができ、皆とすぐに仲良くなれます。

寮費は、1200〜2300ドル程度です。周囲が全米一家賃が高いシリコンバレー(ワンルームで3500ドル以上が通常)であることを考えると、リーズナブルです。

ヨセミテ等の様々な国立公園へのアクセスが良好で、自然系アクティビティが充実しています。

キャンパス内に多数あるテニスコート、ジム、温水プール、ゴルフ練習場、ゴルフ場(タイガーウッズ等がプレーした名門コースです。)等のスポーツ施設が年中利用できます。

スタンフォードLLM受験プロセス

① 合格率

スタンフォードLLMの合格率は、学校関係者によると、CGPで5%程度とのことです。他方、他のプログラムでは合格率が10%台中盤のところもあるようです。そのため、プログラムを問わずどうしてもスタンフォードLLMに行きたい場合には、各プログラムの受験母体数を推測して戦略的に出願先プログラムを決定されるのも一つの手です。

② 英語・国際感覚

少人数制・ディスカッション中心の学風ゆえに、高い英語力や国際感覚が求められます。TOEFLは出来る限り110、CGPについては110中盤を目指したいところです。レジュメやパーソナルステートメントも、自分の海外業務での経験を強調し、いかに自分が国際舞台で活躍できる人材であるかが読み手に伝わる内容にすると効果的かと思います。

③ インタビュー

スタンフォードLLMは20分程度の電話インタビューが課されます。インタビューまで進めば合格可能性は相応にあり、インタビューはどちらかといえばネガティブチェック要素が強いようです。インタビュー内容は、基本的には自分のパーソナルステートメントで書いた内容の深掘りが多いようです。

出願後の2月の中旬以降に突如インタビューのための電話が大学からかかってきます。何の前触れもないので、不意打ちをくらうことになります。

準備方法としては、①自分のパーソナルステートメントの内容を再度読み返し、パーソナルステートメントの内容を自分の言葉にて口頭で説明できるようにしておくこと、②突っ込まれそうな部分についてざっとQ&Aを考えておくことで足りるかと思います(英語力に自信がない場合には、Q&Aを実際にワードファイルなどで作成し、回答をある程度暗記してしまうというのもあり得ます。)。

④ キャンパスビジットのすすめ

スタンフォードLLMはキャンパスビジットを重視するということを、複数の学校関係者から聞いています。キャンパスビジットをして直接そのプログラムのティーチングフェロー(=各学科の担任の先生のようなもの)と面談し、自身の経歴やPSの内容、英語力・国際感覚をアピールされると合格可能性が高まるかと思います。


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Hiroshi Watanabe
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