VC Finance/剰余金配当規定も実は重要
「Startupは剰余金配当を行わないからVCファイナンスでの剰余金配当規定は重要でない」と言われます。しかし、実は剰余金配当規定もしっかり意識しておかないと意図せず大変なことになり得ます。その点を解説しました。
「VCはスタートアップからの配当によるインカムゲインを期待しておらず、会社の成長に伴う株式価値の増大によるキャピタルゲインを狙う」というのは、(一部レイトステージを除き)全く正しい説明です。
しかし、VCファイナンスでは、剰余金配当規定は場合によりキャピタルゲインの場面にも(時に甚大な)影響を及ぼします。
それは、優先分配条項と剰余金配当規定とが組み合わさった場面です。
実質的に高マルチプルの優先分配条項になっていないか?という観点
高マルチプルな優先分配条項がM&Aエグジットの際にいかに普通株主に甚大な負の影響を及ぼしうるかについては、以下の記事にて解説しました。
(本記事をご覧になる前に下記記事をご覧いただくと、本記事の理解が早いかと思います。)
優先分配条項と剰余金配当規定とが組み合わさると、「表面上は『マルチプル1倍の優先分配条項』の体裁をとった実質高マルチプルの優先分配条項」が出来上がります。
具体的には、剰余金配当規定および優先分配条項の両者において、以下のような規定の仕方をした場合です。
剰余金配当規定:
優先配当率を定めた上で累積的配当とする
例:会社が剰余金配当を行う場合、優先株主に1株(100円)あたり毎年8%の配当を行う。会社が剰余金の配当を行わない場合には、当該未配当額は翌年以降に持ち越されて累積する。
優先分配条項:
未配当の累積的配当を優先分配額に加算する
(1)累積配当が単利だった場合
VCの想定エグジット期間は典型的には投資後7-10年頃です。
上記例では、仮にM&Aエグジットが投資後8年目であった場合、累積配当が単利での累積だったとしても、一株100円あたり合計64円の未配当の累積的配当が積み重なります。
その時点でM&Aエグジットを迎えた場合、優先分配条項のマルチプルが1倍だったとしても、一株(100円)あたり164円の優先分配をする必要が出ます。これは、優先分配条項のマルチプルが1.64倍と規定されていた場合に相当します。
(2)累積配当が複利だった場合
上記は累積配当が単利だった場合です。もし累積配当を複利で積み重ねる規定になっていた場合、年利8%の複利ですと約9年で元本が倍(※1)になります。
そのため、もしM&AエグジットがVC投資から9年目だったとしたら、優先分配条項のマルチプルが2倍と規定されていた場合にほぼ相当します。
(※1:いわゆる「72の法則」に従ってラフに計算しています。)
起業家サイドは要注意
そのため、起業家およびそのカウンセルとしては、VCとの投資契約等が上記のような規定になっていないかを確認する必要があります。
その上で、上記のような規定になっている場合には、「その規定ぶりは実質、優先分配条項のマルチプルが設定されているのと同じである」という点を意識しつつ(カウンセルにおいては、起業家に注意喚起しつつ)、投資条件として受け入れ可能かご検討ください。
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