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1989~1990年初の海外旅行

 初めて海外に行ったのは、自分が大学3年の冬。行先はトルコ。イスタンブールを拠点にほぼ一周した。滞在はほぼ1カ月。当時部活(アメフト)をしていたため、旅行資金を確保するために、市内の吉野家で深夜アルバイトをしたが、睡眠時間を削ったりなどして相当無茶をした。
 利用航空会社はパキスタン国際航空。往きは成田から、マニラ、バンコクに寄り、カラチで乗り換え、アテネに着き、この空港でたまたまこのあと2時間後くらいに出発するトルコ航空のイスタンブール行きを購入した。本当はアテネではなくイスタンブールへ直接行くはずだったのだが、直前になって突然パキスタン航空の運航スケジュールが変わってイスタンブール行きに乗り継げなくなり、仕方ないので近場のアテネへ行った。今から思うとひどい話だ。帰路はイスタンブールからカラチに行き、乗り換えのために1泊、そこからバンコク、マニラに寄り、成田に到着するというルート。いわゆるヨーロッパへ行く南回りルート。時間がかかるので比較的運賃が安い。今回はこのパキスタン国際航空、愛称「パキちゃん」についてお話しする。

 パキちゃんの3レターコードはPIA。Pakistan International Airlinesの略。これは一説によると、Perhaps I Arrive (もしかしたら到着する)の略でもある。毎日飛んでいないので、もし最初に乗る飛行機が遅れたりして、乗り継ぎに間に合わなかったら、次の飛行機が飛ぶ日まで待たなければならない。で、飛行機を待っている人の心境がさっきの「PIA」。全てはそんな航空会社を選んだ人の責任である。パキちゃんは北京経由で成田に行くルートもあるが、当時は成田に夜遅く到着する。ところが成田は深夜離着陸できない。もし北京に数時間遅れで到着すると、北京空港で野宿する羽目になる。そこで「PIA」。ついでに、ウルドゥー語の機内放送で「当機はまもなく成田空港に着陸いたします」とアナウンスする際は、最後に「インシャッラー」を付け加えるらしい。「インシャッラー」とは「神が望めば」という意味。到着ばかりか着陸も神頼みです。
 今もそうなのかわからないが、カラチで乗り換えのため長時間待つ場合は、航空会社がトランジットホテルを無料で用意してくれる。空港内のとあるエリアに待機させて、客が集まったら誘導されて入国審査場をすり抜けて、空港の外に待機させてあるバスに乗り、5分ぐらいでホテルに到着する。空港の出口には深夜にもかかわらず、一体何の用なのか、暗い照明の中で色の黒い人がたくさん群がっていてきわめて不気味だ。ホテルは高層ビルではなく、広大な敷地に1階建ての平屋が並んでいるようなタイプ。チェックインして係員に部屋まで案内してもらったが、えんえんと歩いていくので、いったいどこまで連れて行かれるのかと思った。で、部屋に着いたら係員は無表情な顔でチップを求めてきた。1ドルでいいからと言ってきたが、その時はうかつにも日本円しかもっていなかった。500円玉を渡したら、コインは両替できないと言われた。いつまでたっても部屋を出て行かないので、結局根負けして泣く泣く千円札を渡した。係員はサンキューといったが、その言葉には全く感情がこもっていなかった。
 夕方成田発のジャンボジェット機は、日本発の便にもかかわらず、日本人はほとんどいなかった。小心者の私はそれだけでとても不安だった。飛行機に乗る前からこんな航空会社を選んだことを後悔した。窓から見えるきれいな夕陽が暗くなっていくにつれて、私の心も沈んでいった。機内のギャレーからはカレーのような香辛料料理の匂いがぷんぷん漂ってきた。隣に小学生程度の子供が座ったが、ずっと鼻水をたらしていて、鼻をすする音がとても不愉快だったが、安い航空会社とはこういうものかと思った。このいわゆる南回り便、当時は安かったから選んだのだが、何時間乗っても一向に目的地に着かないので、ここでも後悔した。まさしく「PIA」。
 途中のマニラに到着すると結構乗客が入れ替わる。なんだかバスに乗っているみたいだ。深夜のカラチ空港でアテネ行きに乗り換える時のこと。タラップを降りたところでバスが何台か停まっており、係員が「パリ!」とか「ローマ!」とか叫んでいた。行先によってバスが異なるらしい。アテネは英語でどう発音するんだっけと思いつつも、自分が乗るべきバスを間違えたら、二度と元に戻れないような恐怖感に襲われて、自分も必死に行先を叫んでいた。みんながみんなそんな具合なのであたりは大混乱。
 空港のトランジットルームで飛行機を待っていたら、売店のおっちゃんがなぜか「お前はアントニオ猪木を知っているか」と聞いていた。昔プロレスファンだったので、猪木が昔パキスタンで興行をやったのは知っている。だからおっちゃんは知っているのか、しかしよくそんなこと知ってるなと思いつつ、リップサービスで「もちろん知っている。彼は私のベストフレンドだ」と答え、なぜかその時私のバッグに「闘魂」という文字の刺繍が入っていた鉢巻を持っていたので、それを見せて「この意味はファイティングスピリット、彼の好きな言葉だ」と説明したが、ほとんど食いついてこなかった。ちなみに売店には買いたくなるものは何もなかった。
 最後にもう一つ。飛行機は着陸態勢になったら乗員も席についてシートベルトを締めるが、ある男性乗員は、ずっとギャレー内の後片付けをしていて、「いいのかな」と思っているうちに、とうとう着陸してしまった。きっと彼にとって飛行機は空飛ぶ絨毯と変わらないのだろう。
 数々の強烈な思い出を残してくれたが、二度と利用することはないだろうインシャッラー。

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