省令の様式で定められた規定の意味
全くの門外漢で、法律だけを見て思ったことをつらつら書いてみたい。
婚姻届がA3以外のサイズで出されて不受理になったケースを想定したい。
(以下、さまざまな都市で、A3以外は受理しないと明示されているので、私見と違った法令の解釈・根拠や法定受託事務なので通達等があるのかもしれないが、とりあえずそれは無視して勢いで書いてみたい。)
戸籍法第28条は、第1項で、「法務大臣は、事件の種類によつて、届書の様式を定めることができる。」と規定し、第2項で、「前項の場合には、その事件の届出は、当該様式によつてこれをしなければならない。但し、やむを得ない事由があるときは、この限りでない。」と規定している。
第二十八条 法務大臣は、事件の種類によつて、届書の様式を定めることができる。
②前項の場合には、その事件の届出は、当該様式によつてこれをしなければならない。但し、やむを得ない事由があるときは、この限りでない。
法律によって、定められた様式で出すことを明文で義務付けているものは珍しいように思うが、定められた様式での届出が法律上の義務であることは確かである(これが手続的な要件なのか実体的な要件なのかは後述)。
同法第34条第2項は、「市町村長は、特に重要であると認める事項を記載しない届書を受理することができない。」と記載しており、重要な記載事項が欠けている届出を不受理とできるとされている。ここでいう不受理は、申請に対する不許可処分と同じである(たしか)。
第三十四条 届書に記載すべき事項であつて、存しないもの又は知れないものがあるときは、その旨を記載しなければならない。
②市町村長は、特に重要であると認める事項を記載しない届書を受理することができない。
もうこの時点で、「届書の様式が違う場合は、不受理にできないのか?」という疑問が生じる。34条2項を素直に読めば、「記載事項が欠けていれば不受理にできる」となっているからである。
28条2項は、34条2項と両立するので、28条2項違反も、当然不受理にできると読むのだろうか。
同法第29条は、届書の記載事項を規定しており、
第二十九条 届書には、次の事項を記載し、届出人が、これに署名しなければならない。
一 届出事件
二 届出の年月日
三 届出人の出生の年月日、住所及び戸籍の表示
四 届出人と届出事件の本人と異なるときは、届出事件の本人の氏名、出生の年月日、住所、戸籍の表示及び届出人の資格
と規定している。また、これに加えて婚姻届でいえば、第74条で、
第七十四条 婚姻をしようとする者は、左の事項を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。
一 夫婦が称する氏
二 その他法務省令で定める事項
と規定している。ここでいう法務省令は、戸籍法施行規則第56条である。
第五十六条 戸籍法第七十四条第二号の事項は、次に掲げるものとする。
一 当事者が外国人であるときは、その国籍
二 当事者の父母の氏名及び父母との続柄並びに当事者が特別養子以外の養子であるときは、養親の氏名
三 当事者の初婚又は再婚の別並びに初婚でないときは、直前の婚姻について死別又は離別の別及びその年月日
四 同居を始めた年月
五 同居を始める前の当事者の世帯の主な仕事及び国勢調査実施年の四月一日から翌年三月三十一日までの届出については、当事者の職業
六 当事者の世帯主の氏名
これらの中で重要な記載事項が欠けていれば(どれが重要なのかはよくわからないが、省令に委任しているような事項であれば欠けてもよさそうだろうか。)、34条2項で不受理にできる。
戸籍法施行規則第59条は、「出生の届書は、附録第十一号様式に、婚姻の届書は、附録第十二号様式に、離婚の届書は、附録第十三号様式に、死亡の届書は、附録第十四号様式によらなければならない。」と規定している。
第五十九条 出生の届書は、附録第十一号様式に、婚姻の届書は、附録第十二号様式に、離婚の届書は、附録第十三号様式に、死亡の届書は、附録第十四号様式によらなければならない。
同省令の付録第十二号様式の見出しは、「婚姻の届書」(日本産業規格A列三番)(第五十九条関係)となっている。
どうやら、A3の根拠は、これにあるようである。
省令の、それも、様式の見出しだけである。
「その事件の届出は、当該様式によつてこれをしなければならない」と戸籍法が定めているのだから、A3であることも含めて、様式であり、これに反するのは手続的ではなく実体的に違法である(=不受理となる)ということだろうか。
有名な、山形地判平成30年8月21日判時2397号7頁は、行政手続法7条のケースであるが、
「本件山形県規則が,森林開発許可申請において,規則所定の計画書に添付すべき書類として保全協定等を規定しているのは,当該申請に関して法令の規定する実体的要件の判断のために不可欠となる必要最小限のものとして申請の形式上の要件とする趣旨ではなく,申請に係る審査をより厳密に行うこと等を目的として資料の提出を求めているものにすぎない」
として、その提出がないことを理由に不許可にできないと判断している。
しかし、戸籍法第127条で、
「戸籍事件に関する市町村長の処分については、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二章及び第三章の規定は、適用しない。」
とされており、申請書の記載事項の不備、申請書に必要な書類が添付されていない、申請をすることができる期間内にされていないなどの法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請だとして、行政手続法第7条で不受理とすることはできない。
仮に、戸籍法のケースにおいても、この考え方が妥当するとしたら、果たして、A3であることは、
「当該申請に関して法令の規定する実体的要件の判断のために不可欠となる必要最小限のものとして申請の形式上の要件」
となっているのであろうか。
やはり、よくある省令や長の規則で定めた様式のケースとは異なり(この場合は、手続的なものであり、様式の大きさは許認可等の実体的な要件には影響しないから、A3以外も認めることになると思われる。さきの裁判例にもあるように、許認可等の要件に不必要なものは、行政手続法7条で不許可とできないからである。)、法律で受理の”実体的な要件”として様式に忠実であることが定められているのだからA3以外は認めないと解釈すべきであろうか。
ネットで調べると、自治体オリジナルの婚姻届や、自作の婚姻届でも、記載事項に不備がなく、A3横書きであることを守れば、可能とされている。A3であることと、横書きであることは、様式上で明示されているが、装飾をしてはいけないといった記述がないからであろう。
なかなかに難しい問題である。