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ケンカの後の、キスの香り【完結】
ケンカの後の、
ケンカなんてしたくない。
不安になんてなりたくない。
泣く恋にしたくない。
私と翔琉は違うことが多すぎる。
それをわかっているのに、
お互いに歩む寄れないのは…
なんで?
「翔琉のばか!!!!」
一番の理解者だと思った彼氏に、
本気の怒りをぶつけた。
「なんで、なんで…っ!全部ばか正直にいうのが、誠実ってことじゃないんだよ!!」
電話の向こうにいる翔琉は、私がこんなに泣いている姿が想像できる?
翔琉が、どうしても大事な部下だから、優先したい用事だから、って。
私との約束より優先した人は、翔琉が昔、関係をもった女性だった。
翔琉は嘘をつかれることが嫌い、浮気が許せない。
だから、自分も全部正直に話す、と言って、私と出会う前に好きだった女性のことを話してた。
映画を見にいって、泣いている姿を抱き寄せて、もうじき結婚する彼女に、気持ちを伝えることなく終わったって…。
そういってたのに、しっかり手を出して生でやって、しかも、それが大事にしている部下の一人だったなんて…!
なんでもかんでも正直に話されて、知らなければ気にならない、知らなければ傷つかないことが、たくさんあるんだよ…!
私の涙の訴えなんてわからない翔琉は、電話口で責める私の様子に気持ちが冷めていくのが、伝わった。
溜息と共に、吐き出された言葉で、私の心は大きくえぐられる。
「…ごめん、正直、気持ち冷めてる。あんなに好きで、出会ってすぐに結婚考えるほど好きだって思った星菜のこと、今、なんとも思えない。約束ドタキャンして部下を優先した俺が悪いかもしれない。けど、そんな責められること?あいつとは今はなんもないし、結婚してるし、いちいち気にすることじゃないだろ?」
「…っ、冷めたって簡単に口にするの?頭で理解できても、感情が追いつかないことって、あるんだよ?翔琉が好きだから…、感情が理性に追いつかないことが、あるんだよ…っ」
「やましいことが一切ないから、正直に話してるのに、信用できないってことだろ?今の星菜と話しても、どんどん気持ち冷めるだけ。もう、今日はここで話終わりにしない?俺、明日の泊まりもなしにするから。星菜に会いに行きたいと思うほど、気持ち残ってないわ」
「…別れるってこと?」
「そうなるかもな。気持ち、冷めちゃったから」
翔琉の言葉に、もう、何も言えなかった。
今までの恋愛は、自由な彼氏に振り回されることばかりで、自分が安心する恋愛ができていなかった。
寂しい、会いたい、甘えたい、頼りたい、そういう気持ちを我慢して、相手が求める私でいることを強いられる、そんな恋愛だったと思う。
『甘えていいよ、弱みを見せていいよ。我慢しなくていい、寂しかったら電話してこい。1人で我慢するな。会いたい、寂しいって泣くのが普通の恋愛なんだよ』
そういって、私を強く抱きしめてくれたのに。
『離れていかないから、安心していいから。』
翔琉の腕の中でそう言われてる気がして、安心したのに…。
切られた電話の向こうにいる翔琉は、私に安心なんて一つもくれない。
知らないままでいたら、部下を優先する翔琉を責めなかった。
責めすぎた私が悪いかもしれない、感情的になった私が悪いかもしれない。
だけど、我慢しなくていい、俺には素直になんでもいっていいって言ったから、気持ちを分かってほしかった。
好きな人が、好きだった女性を優先したら、傷つくよって。
翔琉を好きになって、会えない寂しさを覚えて、恋しい気持ちを教えてくれて。
いきなりこんな風に突き放されたら、どうしていいか、わからなくなる。
翔琉は、安心と不安を交互にもってくる。
私に本当の「恋」を教えて、天国と地獄を両方、味合わせるの。
こんなにたくさん泣いても、翔琉には私の気持ちは届かない。
傷ついている私に気づいて、抱きしめてくれる優しさはもう、ない。
頭の中で、翔琉が残した「気持ちが冷めた」事実が、何度も何度もこだまして、涙が止まる様子はなかった。
「あ、すごい腫れてる…」
冷やす余裕がないと思って、泣きっぱなしにした瞼は、見事にぷっくら。
重たい瞼をあげてコンタクトを入れたら、自分の泣きっ面がはっきり見えた。
しょうがない、そんな簡単に気持ちを切り換えることなんて、できないから。
泣くのにも体力を消耗する。
そのおかげで寝落ちができたのに、ぐっすり眠るほどの心の余裕はなかったみたいで…。
いつもより短い睡眠時間で目が覚めるし、起きてすぐに確認したスマホに翔琉からの連絡もなし。
「ほんと、どうしよう…」
洗面台でつぶやいた本音が、寂しく消えていく。
今日は一日、何も手につかない自信がある。
だからといって、連絡を待って屍のようになるのもいや。
今までだって、一人に慣れてきた。
翔琉が、…たまたま、私の拠り所になってくれただけで、本来の私は強いはず。
メイクをしよう、着替えをしよう。
いつも通り、朝ご飯を食べて、掃除をして、洗濯をほして…。
ルーティンをこなしているうちに、気持ちが落ち着くはずだから。
用事が済んだら日記を書こう。
日記を書き終わったら、借りてきた本を読んで、お昼ご飯を食べたら、ギョーザ作りを始めて…。
頭の中で予定を組み立てながら、支度にとりかかった。
どうせ会えないから、翔琉は来ないから、今日のギョーザはニンニクとにらをしっかり入れて作ろう。
一人に慣れていた私に戻ればいいだけの話。
いつも通りの行動が私の心に安定をもたらしてくれた…と、思っていたのに。
ギョーザの皮を包んでいると、涙が溢れてくる。
『俺、星菜のギョーザ好きなんだよね』
聞こえるはずがない、翔琉の声が頭の中に蘇る。
記憶の中の翔琉は、慣れた手つきで私を抱きしめて、邪魔をしながら甘えた声を出す。
『早く食べたいなー…』
『星菜が美味しく作るから、いつも食べ過ぎるんだよ』
『見て!最近、腹が出てきたんだけど』
そういいながらめくる服の下には、しっかり割れた腹筋が見えていたのに…。
「ばかだなー…翔琉、やせの大食いで、本当に…」
思い出す記憶の中の翔琉は、昨日の翔琉の姿と正反対。
明るい記憶と、昨日の悲しい記憶が交互に襲ってくる。
翔琉が濃い味が好きだから、ギョーザの味もしっかりした味付けにしていた。
匂いにまで翔琉の記憶が残っているなんて…。
「末期だよ…」
この部屋には、翔琉が残した記憶の香りが、多すぎる。
「本当に別れたら、…どうするの…。私の頭の中の記憶、全部もっていなくなってよ…」
ギョーザを包むすぐそばに、鳴らないスマホがずっとある。
もしかしたら、もしかしたら…が消えなくて、スマホを手放すことができなかった。
鳴らないスマホが悲しくて、気にしないようにしてても、見えるところに置いておかないと落ち着かなくて…。
ニンニク多め、ニラたくさんにしても、どこかで期待するの、翔琉が連絡してくれるって。
「会いたいって、寂しいって泣くのが普通の恋愛だって、…いったくせに…」
平気で放置できる翔琉に腹が立って、会いたいと思ってくれない翔琉に傷ついて、また涙が出てきて…。
いつまでも鳴らないスマホに背を向けた。
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