空想日記〜快速⭐︎ふくろう権助〜

 居酒屋で飲んでいたら隣に座っていたおじさんに話しかけられた。
「お前、権助知らんか。」
「権助ですか……存じ上げませんが、どなたでしょうか。」
「ああ、いいんだ。知らねえんだったらいいんだ。」
 おじさんは「お勘定!」と言い店を出っていった。私は権助の正体が気になりながらもだし巻き卵を頬張っているうちに忘れてしまった。


 ほーほー

 ほーほー

 夜も深くなればどこからかフクロウの声。

 ほーほー
 ほーほー

 ほーほー
 ほーほー
 ほーほー

 んーうるさいなぁ。

 ほーほーほーほー
 ほーほーほーほー
 ほーほーほーほー
 ほーほーほーほー

「あー!うるさいぞほくろう!あ、フクロウ!」 

カーテンを開けるとそこにはフクロウがいた。
「あ、どうも。初めまして、福浪権助です。」
「え?」
「いやー久しぶりにこの街に帰ってきたもんでちょっと道間違えちゃったんですよ。」
「はあ。」
「私ねぇ、人間で言うところの飛脚って言うんすかね、あれやってまして。」
「飛脚?」
「ああ、今の子は言わねぇんですよね。遠くにモノ運ぶ仕事ですよ。近頃は僕たちもだいぶ注目されちゃいましたのに知らねぇんぇですか?ほら、ハリーポッターっての。」
「金ローで見たことあります。」
「そうかい、そうかい。うちらその時間働いているもんで見たことはねぇんですけどね。」
「あー、えっとお名前なんでしたっけ?」
「福浪権助です。」
「ああ、権助さん。ん、権助さん。」
「権助です。」
「もしかして権助さんって頭頂部の髪が薄めで鼻の横に大きいホクロがある困り眉のおじさんと知り合いですか。」
「ああ!なんで知っているんですか?正次さんのことですよね。正次さん、会いてぇなぁ。」
「マサツグさんって言うかは知りませんが先日そこのコンビニの隣の居酒屋で飲んでましたよその人。権助は知らないかって聞かれました。」
「そんな奇跡が……。正次さんは私の帰りを待っていてくださったのだなぁ。」
「そうなんですか。」
「あの人にいつこの街に帰ってくるかと聞かれまして秋は金木犀が散る頃と申しました。」
「へえ。何で僕に権助さんのことを聞いてきたんでしょうね。」
「それは旦那が魔法使いだからに決まっているからじゃぁないですか。」
「ええ!?」
「正次さんは偉大な魔法使いでありますぞ。この近辺だと公園によくいる汚ねぇキャップのおじさんが闇の魔法使いで、コンビニの姉ちゃんが次期巫女候補ってのは有名な話ですねぇ。」
「魔法使い、全然話が入ってこない。でも、魔法使いにフクロウということは……魔法学校入学のご案内ですか!?」
「いいえ、ワタクシ『快速⭐︎ふくろう権助』として活動しております、全国どこでも即日配達、最も速いお届けを実現します!」

 権助と正次さんは再会したようだ。そして僕は魔法使いらしいが魔法の使い方がわからないのでこれまでと何ら変わらない日々を過ごしている。今日もだし巻き卵が美味しい。

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