キタサンブラックに関する異論あれこれ
サクラバクシンオーの長距離血統説に続いて、ネットで見かけた自分の認識と違う競馬豆知識について、正誤を確認する作業をします。
前回(サクラバクシンオーは長距離血統なのか?|Hirose|note)も書きましたが、自分は血統派ではありませんので、専門的な考察はできません。上級者の方と語り合うよりも、自分が勉強しつつ初級者の方に考え方の一つを紹介するのが主要な目的になります。
「キタサンブラックは母の父がサクラバクシンオーなのにステイヤーという突然変異の馬」
今回はこの説について考えてみます。ですが、ある程度書く内容がまとまったのちに、自分の意見の半分以上が既に書かれているブログ記事を発見しました。
母父サクラバクシンオー - 血は水よりも濃し 望田潤の競馬blog (goo.ne.jp)
とても良い記事でした。こちらを読んでもらえばもういいような気がしましたが、記事の当時とは異なるデータなどもあるので、こちらはこちらで書いていきます。
反論したいポイントは3つ。
1.「キタサンブラックはステイヤー」
2.「母の父がサクラバクシンオーなのにステイヤー」
3.「キタサンブラックは突然変異」
サクラバクシンオーがそもそも長距離血統なので突然変異ではないと言う方もいますが、前回、サクラバクシンオーの長距離血統説は否定したので取り扱いません。
1.「キタサンブラックはステイヤー」
この賛否は、競馬ファンの中でも割れるところで、「ステイヤーである」派の意見を真っ向から否定する気はあまりありませんが、自分は「ステイヤーでない」派。
キタサンブラックは長距離GⅠを3勝した馬です。しかし、長距離路線は中距離路線より層が薄く、スタミナの要らない展開になると、中距離馬の地力がステイヤーの適性を凌駕してしまうことがよくあります。
キタサンブラックが勝ったうち、菊花賞と一度目の天皇賞(春)はそのパターンに当てはまると思います。菊花賞で僅差の2着はリアルスティール。この馬は1600~2000mがベストの中距離馬です。キタサンブラックは、皐月賞・ダービーではこの馬に先着を許していますが、1800mのスプリングSで勝利しています。もしキタサンブラックの本質がステイヤーであれば、もっと離して勝ったのではないか?というのが自分の意見です。
本質的には中距離の馬が持ち前の根性と操縦性の良さとトレーニングによって長距離でも強い競馬をするようになった、というのが私的なキタサンブラック像です。2度目の天皇賞(春)の内容は、ケチのつけようのない素晴らしい内容だったと思います。
2.「母の父がサクラバクシンオーなのにステイヤー」
ステイヤーの中に短距離の血が入っている例は、多くはないものの珍しくはありません。近年の芝レースは時計が高速化しており、長距離レースと言えど、どこかにスピードの血が入っていないと一線級で戦えないという事情があるそうです。
以下に挙げるのは、近年長距離戦を主戦場としてきた馬の中で、母系に短距離向きの血統が入っている馬の一例です。
シルヴァーソニック 母エアトゥーレ
ゴースト 母父コジーン
アドマイヤアルバ 母父バーンスタイン
ボスジラ 母父ミスターグリーリー
ディープボンド 母父キングヘイロー
ポンデザール 母父ロッシーニ
父が短距離血統となるとさすがに例は少なくなります。父スウェプトオーヴァーボードでステイヤーズSを勝ったリッジマンぐらいでしょうか。もっとさかのぼると、ニホンピロウイナー産駒で菊花賞3着のメガスターダムが思い浮かびます。
ちなみに、母父サクラバクシンオーの賞金上位10頭を挙げてみるとこんな感じです。(名前の横は大まかな距離適性です。あと、当然ながら現役馬が賞金を加算すると変わります。)
1.キタサンブラック
2.ハクサンムーン 短
3.キタサンミカヅキ 短
4.トウショウカレッジ 短
5.グリム 中長
6.トップカミング 中長
7.ビアンフェ 短
8.エントシャイデン 短
9.キルロード 短
10.ショウナンバッハ 中
13.ダンツゴウユウ 中
15.アデイインザライフ 中
19.ヴェルテックス 中長
20.インビジブルレイズ 中
ショウナンバッハはキタサンブラックの兄で芝2000m前後を主戦場にしていました。トップカミングのキャリアハイは芝2400m日経新春杯での2着。グリムはダートの2000m以上の交流重賞で良績を残しています。短めの距離が得意な馬の方が多いのは確かですが、長距離を走れる馬が出たとしても、そこまで珍しがるものではないように思います。ステイヤーはそもそも全体の数が少ないので、中距離型の種牡馬でも10頭に1頭ぐらいになると思います。
3.「キタサンブラックは突然変異」
生物学的な意味で、短距離血統の中から長距離馬が生まれたという事象は「突然変異」に含まれないと思うのですが、ここでは競馬ファンの雑談に使われるスラングとして「突然変異」を捉えます。
だとしても、キタサンブラックは「突然変異」に当たらないと考えます。キタサンブラックの母シュガーハートは未出走馬。すなわち彼女自身の距離適性を示すデータはありません。
しかし、繁殖牝馬としての実績は上がっているので、子どもたち、キタサンブラックのきょうだいの成績は見られます。
アークペガサス(父サンライズペガサス)地方1200m
ショウナンバッハ(父ステイゴールド)地方1400m~芝2200m、中日新聞杯2着
エブリワンブラック(父ブラックタイド)ダ1700m~ダ2000m、ダイオライト記念2着
ネクサスハート(父ブラックタイド)地方1600m~地方1700m
キタサンブラック以外で勝利した馬は4頭。地方の下級条件は短距離が多いこともあって、短距離での勝ち鞍もみられるのですが、中央で勝った2頭の主戦場は中距離。
特にキタサンブラックと同じ父を持つエブリワンブラックのキャリアハイであるダイオライト記念はダートの2400m。長距離戦でのポテンシャルの高さを感じさせる戦績です。
仮にキタサンブラックがステイヤーであり、母父サクラバクシンオーのステイヤーが稀有であったとしても、「突然変異」とは言えないことがわかると思います。
どうしても「突然変異」という言葉を使いたいのならば、母親のシュガーハートが「突然変異」だったのかもしれません。