【競馬】ジャンポケ世代を語ってみる。

競馬好きなら誰もが持っている推し世代。自分の場合は、2001年クラシック世代アグネスタキオンジャングルポケットマンハッタンカフェが3冠を分けた世代です。
今回はこの世代の魅力や主な活躍馬(今回は牡馬クラシック路線のレースに出走した馬)を紹介していこうと思います。客観的な事実の紹介だけでは意味がないので、主観も交えて書きました。中には解釈違いやネガティブな評価も含まれるかもしれませんが、そこはあくまで個人の感想ということでご容赦ください。
(どの馬もすごい!強い!名馬!と評価すれば角は立たないけれど、それだけで終わらせるのはむしろ不誠実のように思う・・・)

どんな世代なのか?

一言で表すとしたら「華やかで儚い世代」です。
強い馬ほど身体にかかる負担は大きく、故障のリスクも大きくなりますが、それを世代全体で体現してしまった世代と言えると思います。

早期の引退、もしくは現役中に死去、もしくは1年以上の休養をした馬
メジロベイリー:朝日杯1着後1年以上の休養
タガノテイオー:朝日杯2着のレース時に故障・予後不良
アグネスゴールド:スプリングS1着後故障、菊花賞で復帰も3歳鳴尾記念後再び故障・引退
アグネスタキオン:皐月賞1着後に故障・引退
クロフネ:3歳JCダート1着後に故障・引退
ルゼル:青葉賞勝ち馬。ダービー後2年以上の休養
ダンシングカラー:ダービー3着後に故障・引退
エアエミネム:神戸新聞杯勝ち馬。菊花賞後に1年休養、5歳オールカマー1着後に故障・引退
シンコウカリド:セントライト記念勝ち馬。3歳有馬記念後に故障・引退
ボーンキング:京成杯勝ち馬。ダービー後半年の休養、4歳天皇賞(春)後に約3年の休養。
ミスキャスト:プリンシパルS1着後半年の休養、5歳安田記念後1年休養。
ダイイチダンヒル:若葉S勝ち馬。ダービー後10ヶ月休養、4歳北九州記念後引退。
マンハッタンカフェ:菊花賞勝ち馬。4歳凱旋門賞後に故障・引退
ジャングルポケット:ダービー勝ち馬。4歳有馬記念後に故障・引退
サンライズペガサス:産経大阪杯勝ち馬。4歳天皇賞(秋)後に1年以上休養2回
コイントス:有馬記念3着馬。5歳阪神大賞典後に1年半休養。
ダンツフレーム:5歳宝塚記念後に故障・引退、まさかの現役復帰・再引退後に間もなく死去
ダービーレグノ:7歳まで元気に走り続けるも故障・予後不良

それ以外(※怪我がないわけではない。)
ツルマルボーイ:安田記念勝ち馬
テンザンセイザ:天皇賞(秋)3着馬
ビッグゴールド:天皇賞(春)2着馬
ダイタクバートラム:天皇賞(春)3着馬
ミレニアムバイオ:安田記念3着馬

戦線離脱した馬が多いため、レベルが高いと言われている世代のわりに古馬GⅠ勝利数はそれほど多くありません。ただ、数字には残らない才能の輝きがこの世代にはありました。それを表すのが種牡馬としての実績です。

この世代は、種牡馬として実績を残した馬が非常に多い世代です。成功したと言っていい種牡馬は5頭。(なお1頭は海外。)産駒の勝利数や賞金額の合計で言えば、キングカメハメハハーツクライダイワメジャーの世代がおそらく一番(ディープインパクトが一頭で上回っていなければ)だと思いますが、成功した頭数ではどの世代にも負けていないはずです。

ジャングルポケット 粗削りなダイヤの原石

(主な勝ち鞍:日本ダービー、ジャパンカップ)
そもそも何故この世代が好きかというと、2歳時から推していた馬が初めてダービーを制覇した世代だからです。その推し馬がジャングルポケット
この馬の魅力は、末脚の爆発力と気性の悪さゆえの底知れなさだと思います。出遅れたりレース中に気を抜いたり、とても分かりやすい気性難でした。でも、だからこそ、アグネスタキオンに2連敗しても「今の気性でもこれくらい走るのだから、将来どこかで追いつき、追い越すのではないか?」と期待感を持たせてくれました。(年をとると気性が悪くなる馬も中にはいますが・・・)
しかし、現実には、アグネスタキオンにリベンジする機会は二度と来ることはなく、ジャングルポケット自身も4歳の下半期以降は怪我に苦しみ、ポテンシャルを全開にできないまま引退することになりました。現実は無情です。

ところで、ジャングルポケットは府中巧者と語られることが多い馬です。GⅠ2勝がいずれも東京競馬場であることと、トニービン産駒が東京競馬場を得意としていたことからそう語られます。実際、得意なことに間違いはないと思いますが、言われるほど極端に東京競馬場が得意だったのかというと、それは違います。デビューからの2戦は札幌で朝日杯2着のタガノテイオーに連勝していますし、皐月賞も最内枠から完全に出遅れて、最終コーナーで後方から大外をぶん回す競馬で3着です。出遅れ・距離ロス分を差し引いてダンツフレームを物差しにするなら、皐月賞とダービーは同じくらい走っているとみていいと思います。
凡走したレースには、必ずコース以外に敗因があります。ジャングルポケットは休み明けがあまり得意ではありませんでした。ダービー後の札幌記念や、ジャパンカップ後の阪神大賞典では、格下の相手(ファイトコマンダーエリモブライアン)に対して苦戦しています。
超のつくスローペースにも悩まされました。具体的には菊花賞と天皇賞(春)。出遅れさえなければ中団くらいにはつけられる馬ですし、多少のスローなら対応できるのですが、好位にサンデーサイレンスの切れ味を持つ馬(要はマンハッタンカフェ)がいると、完全な上がり勝負ではどうしても不利です。勝った日本ダービーとジャパンカップは、超スローでもなく休み明けでもありませんでした。
よく4歳秋に東京競馬場が改修中だったのが不運だったと言われるのですが、天皇賞(秋)はそもそも出走できなかったし、ジャパンカップも故障明けかつスローペース必至のメンバー構成。舞台が東京の2400mだったとしても同じような後方からの競馬をしていたら勝てなかったと思います。あの年、中山で代替開催になったことで一番損をしたのはナリタトップロードの方ではないでしょうか。
↓ちなみにこのような記事も書いているので興味のある方はぜひ。


アグネスタキオン 完全無欠の天才

(主な勝ち鞍:皐月賞)
ジャングルポケット推しから見て、アグネスタキオンは「みどりのマキバオー」のカスケードのような存在でした。4戦4勝。そのすべてが余裕の勝利。重馬場でも全くパフォーマンスは衰えないどころか他のレース以上の強さでしたし、好位から抜け出すレーススタイルは全く危なげがなく、弱点の見えない馬でした。ナリタブライアン、オルフェーヴルよりシンボリルドルフ、テイエムオペラオータイプの名馬です。
右回りの2000mしか走っていないので、意外と別の舞台では弱点をさらしていたかもしれないし、兄アグネスフライトの戦績を見ると、夏を越してからスランプに陥っていた可能性も想像できなくはありません。できなくはないけれど、4戦の輝きを目にすれば、ポジティブな可能性を夢見ざるを得ない。そんな馬だったと思います。
おそらく、故障や体調落ちがなければ、3冠は取れていたと見ています。ダービーはダンツフレームを物差しにすれば、ジャングルポケットに先着している計算になりますし、菊花賞は、折り合いよく好位につけられるこの馬にとっては一番楽な競馬になっていたでしょう。

クロフネ 日本競馬史に残る最大の規格外

(主な勝ち鞍:NHKマイルC、JCダート)
「日本の史上最強馬はどの馬?」という問いの答えは「条件によって変わるから分からない」が正解です。それでもどうしても1頭挙げろと言われたら、クロフネを挙げます。オルフェーヴルディープインパクトアーモンドアイも桁違いに強いですが、桁違い感を一番強く感じたのは、クロフネが走ったダートの2戦、武蔵野SとJCダートです。
日本のダートの良馬場で、1600mを1分33秒3、2100mを2分05秒9で走りきるのは異常以外の何物でもありません。ダートの他の距離のJRAレコードはすべて稍重以上に湿った馬場(泥沼にならない限りは、ダートは重の方が好タイムが出やすい)で出されたものです。1600mの日本レコードは2020年に南部杯でアルクトス(ちなみにアグネスタキオンの孫)に破られましたが、その時は稍重でした。

ダートでの怪物ぶりは、当時を見ていない競馬ファンもよく知っていると思いますが、芝でも怪物級だったことは伝わっていないかもしれません。紹介したいのは、NHKマイルCの前哨戦として使った毎日杯。勝ちタイムは1分58秒6。5馬身差の2着は後の有馬記念3着馬コイントス、さらに5馬身差で後の天皇賞(春)3着馬ダイタクバートラムでした。
アグネスタキオンジャングルポケットに敗れた、いわゆる伝説のラジオたんぱ杯と同じ阪神2000mのレースだったのですが、そこからわずか3ヶ月でタイムを2秒8も縮めてみせました。(・・・と書くのは馬場差を踏まえると大袈裟だが、ラジオたんぱ杯当時のタキオンを越えるパフォーマンスだったのは間違いない。)
ちなみに、推しはジャングルポケットでしたが、ダービー(結果は5着)の本命はこっちでした。今思えば、重馬場も2400mも良い条件ではなかったのでしょう。

マンハッタンカフェ 瞬発力型ステイヤー

(主な勝ち鞍:菊花賞、有馬記念、天皇賞(春))
夏に急激な成長を見せて、菊花賞、有馬記念、天皇賞(春)と長距離GⅠを3連勝した名ステイヤー……と言っても間違いではないですが、ステイヤーと言っても、例えばライスシャワーゴールドシップのようなスタミナお化けのステイヤーとは印象が違います。
マンハッタンカフェが勝ったGⅠ3つには、スローペースという共通点があります。菊花賞・有馬記念ともに伏兵の逃げ・先行馬が穴をあけており、天皇賞(春)では5着サンライズペガサスが上がり最速で33秒7。実はどれも長距離戦にしてはスタミナを要しないレース。スローでもきっちり折り合って瞬発力を生かすのがこの馬の勝ちパターンでした。
純粋なスタミナだけなら重馬場のダービーを勝ち切ったジャングルポケットの方が上だった可能性もあるのではないかと思います。

エアエミネム 隠れた世代最強候補

(主な勝ち鞍:札幌記念、神戸新聞杯、オールカマー)
この世代を実際に見ているかいないかで、印象の強さが一番変わるのはこの馬ではないかと思います。「残念ダービー」と呼ばれる駒草賞(今で言うと白百合Sの立ち位置)から神戸新聞杯まで破竹の4連勝。いわゆる夏の上がり馬です。
札幌記念でジャングルポケットを破り、神戸新聞杯ではクロフネダンツフレームを撃破。この3頭と戦った馬で一度もこの3頭に先着を許さなかったのは、アグネスタキオンエアエミネムのみです。
前述の通り、ジャングルポケットは休み明けに走らない馬なのですが、他に出ていた古馬も一蹴しているわけですし、神戸新聞杯でもGⅠ級の相手に勝ちきっているので、この馬の実力がGⅠ級なのは間違いありません。菊花賞はジャングルポケットを本命にしていましたが、公平に考えるならこの馬が一番強いかなと内心思っていました。ところが、菊花賞3着の後怪我をしてしまい、長期休養を余儀なくされます。
復帰後はなかなか好調期の力を出し切れずにいましたが、5歳の夏にようやく復調。函館記念、オールカマーを勝ちました。札幌記念もサクラプレジデント(この馬もG1勝っていないのが不思議なレベルの馬)と僅差の2着。GⅠ級の力を再度証明してくれました。

ダンツフレーム 不屈のグランプリホース

(主な勝ち鞍:宝塚記念)
皐月賞、日本ダービーの2着馬にして宝塚記念の勝ち馬。マイルから長距離まで、さまざまな条件で頑張る馬でした。結局どの距離がベストだったのかは謎。
ダンツフレームの勝った宝塚記念は、レベルの低いメンバーと評されていました。マンハッタンカフェジャングルポケットナリタトップロードサンライズペガサスという当時の一流どころがこぞって回避していたので、低レベルと言われても仕方のないところ。ただ、その千載一遇のチャンスできっちり勝ち切るのは、GⅠ馬の資質があったことの証明だと思います。「時代が悪くてGⅠを獲れなかった」と言われる馬は、こういうレースをどこかで取りこぼしていることが多いのです。
前年のメイショウドトウに続き、2着に甘んじてきた馬が制覇したため、このころの宝塚記念には、苦労人(馬)の苦労が報われるGⅠというイメージがありました。

この馬は賛否の分かれる使われ方をされた馬でもありました。5歳時の天皇賞(春)~新潟大賞典(59kg)~安田記念~宝塚記念という過酷ローテ。そのせいかは分かりませんが、宝塚を最後に故障で引退、そこからまさかの地方競馬で現役復帰。しかしその現役復帰は完全に裏目に出て、全く本来の力を発揮できず、もう一度引退した後にすぐ亡くなってしまいました。
父は当時、サンデーサイレンスに次ぐ位置にいたブライアンズタイムでしたが、母系がやや地味だったので種牡馬になれなかったのでしょうか。色々な事情があってこうした運命を辿ったのでしょうが、もし種牡馬入りしていたら……とどうしても考えてしまいます。ブライアンズタイム直系の血が絶えそうな今なので猶更。

アグネスゴールド ブラジルの大種牡馬

(主な勝ち鞍:きさらぎ賞、スプリングS)
この世代で種牡馬として活躍したのは5頭。うち4頭は先に紹介したアグネスタキオンジャングルポケットクロフネマンハッタンカフェ。そして最後の5頭目がアグネスゴールドです。
そして、彼が種牡馬として成功したのは日本ではなく、地球の裏側のブラジルでした。複数年リーディングサイアーを獲得し、GⅠ馬を何頭も輩出しました。
彼自身は故障に泣いたためにGⅠ勝ちはありませんが、種牡馬としての成功は決して意外なものではなく筋の通った結果です。きさらぎ賞、スプリングSと皐月賞の前哨戦を連勝したときには、ジャングルポケットと並んでアグネスタキオンに次ぐ存在ぐらいには高く評価されていたと思います。少なくとも直接対決で先着したダンツフレームよりは確実に上の評価。血統も父がサンデーサイレンスで、兄に前年のクラシック最有力候補と見られていたフサイチゼノンと、かなりの良血でした。
名前で分かる通り、アグネスタキオンとは同じ馬主。そしてサンデー産駒で兄が一世代上で活躍。さらには厩舎も主戦もタキオンと同じ。これだけ共通点のある馬が同世代で活躍するのは非常に珍しいことです。

サンライズペガサス 天馬という名の不死鳥

(主な勝ち鞍:産経大阪杯、毎日王冠)
神戸新聞杯2着で突如名を上げ、翌年の産経大阪杯で2冠馬エアシャカール以下を圧倒し、一流馬の仲間入りを果たした馬です。エアシャカールより斤量は2kg軽かったのですが、それを差し引いておつりがくる強さでした。
武器はサンデーサイレンス産駒らしい切れ味鋭い末脚。ちなみに母父はブライアンズタイムなのですが、繫養先の違いからか、父サンデーサイレンス、母父ブライアンズタイムという配合は、実はレアです。
この馬の凄さを一番感じるのは、屈腱炎による長期休養を経た7歳時。産経大阪杯と毎日王冠というGⅠ級のメンバーが揃うGⅡを2勝しました。
この2レースで負かした相手はハーツクライアドマイヤグルーヴスイープトウショウテレグノシスなどそうそうたるメンバー。いずれもGⅠの前哨戦で万全の状態ではなかったとはいえ、それはこの馬も同じ。屈腱炎明けの7歳馬のパフォーマンスとしては驚異でした。
ラストランはその年の暮れ、ハーツクライディープインパクトを下した有馬記念でした(0秒8差7着)。芝中長距離路線に限れば、この世代で最後まで一線級で戦い続けたのはこの馬でした。

メジロベイリー 評価の難しいメジロの御曹司

(主な勝ち鞍:朝日杯3歳S)
朝日杯の勝ち馬。この馬の勝利が「メジロ」の冠を持つ馬の最後のGⅠ勝利となりました。ただ、この馬が「メジロ」の代表馬として語られることは少ないように思います。なぜなら、人気薄の朝日杯で激走したものの、そのレース後に故障で離脱し、復帰はしたものの調子を取り戻すことのないまま引退してしまったからです。
なので、朝日杯の勝利はフロックだったのかもしれないし、無事ならサニーブライアンのように「フロックでも何でもない」と言われていたのかもしれない。どちらの可能性も否定ができない馬です。

タガノテイオー 硝子の世代の始まり

(主な勝ち鞍:東スポ杯3歳S)
競馬史に悲劇の主人公は多々存在しますが、この馬もそのうちの一頭。朝日杯の2着馬ですがレース中に故障し、それが原因で安楽死処分がとられました。(それがメジロベイリーの評価が難しい理由の一つでもあります。)
朝日杯までに先着を許した相手はジャングルポケットただ一頭。朝日杯でも故障しながらの2着ですから、非凡な能力を持っていた馬なのは間違いないありません。
ジャングルポケットがダービーを勝ったとき、ウイニングランで天に向かって何度もいなないていました。もちろん馬自身にそんな意図はないのですが、それが天国のタガノテイオーに向けた咆哮のように見えたファンは少なくありません。(なお、アグネスタキオンに向けたと解釈する派もいる。)
「タガノ」の馬は今に至るまでGⅠを勝てていません。どこかでテイオーの無念を晴らす馬が出てきてほしいと思います。


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