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#100 世界のお風呂

朝起きて洗面所で顔を洗おうと蛇口を捻った時のことだ。

お湯が出ない。

その瞬間は何が起こったのか分からなかった。こんな寒い日に朝からお湯が出ないなんて考えられない。まだ夢の中なのだと思った。しかし落ち着いて再度蛇口を捻っても、出ないものは出ない。人生には努力でどうにかなることと、どうしたって不可能なことがあるのだ。どれだけ強い想いを持って取り組んだところで、出ないお湯は出ないのだ。

終わった。

僕はそう思った。つい最近も寒い朝に凍結したことを忘れていた。人間とは忘れる生き物だ。喉元過ぎればなんとかだ。つい忘れて気を許してしまった。朝起きたらシャワーをして出かけようと、前夜は風呂に入らずそのまま寝たのだ。その日はライブがあって、体を綺麗にして行かなければならないのに、それができない。いや、もしかしたらできるかもしれないが、失うものが大き過ぎる。シャワーとは体を温めるものではなかったのか。その日のパフォーマンスに影響してしまうだけでなく、風邪を引いてしまうかもしれない。どうしたらいいだろう。僕は考えた。そして、一つの答えが出た。

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