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広沢タダシ 辻四郎に会いに行く
工房に残されていた記録によると、このギターは18年前に作られたそうです。
この辻四郎さんが作ったギターを、僕はデビューの頃からメインで弾いてきました。どんな有名メーカーのギターとのコンペにも負けず、ライブに、レコーディングに、常に僕の相棒でした。それは、音が良いからです。「楽器が鳴る」ことを教えてくれたギターです。そのことを教えてくれてから、楽器のレベルの基準が、この辻ギターになりました。
何度か浮気したこともあります。あれは10年ぐらい前。ライブ会場に着いてケースを開けると、当時メインで弾いていたマーティンのギターではなく、間違えて辻ギターが入っていたんですね。僕は「しまった」と思いました。だって、自分が今一番いいと思っているマーティンのギターではなく、二番手のギターしか手元にないわけですから。しかし家に取りに行くわけにもいかず、仕方なくケーブルを繋ぎ、音を出してみたんです。すると、しばらく弦も替えていない、電池も替えていないギターが、なんとも素晴らしい音を出してくれました!「あれ? こっちの方がええやん!」ということです。それから今まで、辻ギターを超えるギターは現れていません。浮気してごめんなさい。
デビュー20周年という節目を控え、辻四郎さんに会いに行こうと思ったのが昨年のことでした。年が明けたら、雪が解けたら、会いに行こう。すると、コロナの季節がやってきました。あぁ、またタイミングが来たら連絡しよう、そう思った矢先のこと、一通のメールが来ました。NHKの制作の方からでした。
「辻四郎さんの特集番組を作るので、インタビューと演奏をお願いできませんか?」
僕は即答でオーケーしました。こんなタイミングがあるでしょうか。
収録を無事終え、その様子はオンエアされました。また再放送されればいいな。嬉しかったのは、このことによって、辻四郎さんと接点が持てたことです。連絡を取り合うようになり、すぐに、富山に伺うことが決まりました。
富山県五箇山
大阪から車で5時間ほど。世界遺産にもなっている合掌造り集落のある場所です。
いくつか土産物屋があるメインの通りから随分と離れ、さらに山を登ったところに辻四郎さんの工房はありました。思っていたよりも田舎。なんだかワクワクしました。
工房では、四郎さんと、その息子さんの隆親(たかちか)さんが待っていてくれました。今は隆親さんが四郎さんを手伝って、二人でやっているそうです。
僕は自分が共にしてきたギターを産みの親に見せるような気持ちでした。「あれからこの子は色んな事があったけど、頑張って生きて来たんですよぉ」って(笑)。でもそこには確かにロマンがあって、道のりには汗と涙が僕にはあって、様々な場面で常に傍にあった辻ギターというのは特別なんです。そういった話をさせてもらいました。四郎さんは嬉しそうに聞いてくれました。とても若いエネルギーを持った人でした。その無邪気な表情と仕草から、四郎さんがこんな素晴らしいギターを作る理由が少し分かった気がしました。いいギターを作る。技術を磨く。哲学を深める。それ以外の、そのクリエティビティを邪魔する要素に触れて来なかった、そんな感じ。もちろん商売ですからある程度の忖度はあるとは思います。しかし、この場所に腰を据えるという決意も含めて、ギター職人としての気概を感じました。この山里で50年も一人でギターを作るという生き方が、全てを物語っています。
生き別れた息子(娘?)と再開して抱き合う四郎さん。
(本当は少し調子が悪かった部分を直してもらっている最中)
この写真が好きです。
話をする中で印象的だったのが、とある有名メーカーのモデルでオーダーが来た時の話。「これこれこのモデルでお願いします」というオーダーが来たらしいんですね。すると四郎さん、「音もコピーしますか?」と返したらしいです。これはどういうことかというと。
「音も、この有名メーカーのギターのような”そこそこの音”にしますか?」
かっこいい!
要するに、辻さんが同じ材を使って同じ見た目で本気で作ると、有名メーカーが作るギターよりも”いい音”になるんです。それは僕も体で体験してきているので間違いないです。そういったいい意味でのプライドを持ちながら、そのプライドに見合った技術を磨いてきた、ということです。とっても、目が覚めたような気持ちになりました。四郎さんとしばらく話して、なんだか素晴らしいアーティストのライブを一本観たあとのような気持ちになりました。
またすぐ来ますと言い残して五箇山を後にしました。合掌造りの集落を歩いたり温泉に入ったりしてからね。いいな、ここ。
話が前後しますが、四郎さんのギターに出会ったのは大阪のアメリカ村にあるトップザギターというお店です。
トップザギター
https://toptheguitar.com/
20年前に、ここの有原さんという社長から、ギターという楽器を教えてもらいました。有原さん、今は引退されて店にいませんが、リペアマンでもある元木さんという方が後を継いでいらっしゃいます。辻ギターを弾いてみたい方、話を聞いてみたい方はトップザギターに行くといいと思います。
さて、辻さんにはもう一本ギターを作って欲しいので、また近いうちに。四郎さん、隆親さん、お忙しいところありがとうございました。皆さん、続編をお楽しみに!
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