新型コロナで最も打撃を受けた公共交通機関に根本的な支援を
「新型コロナで最も大きなマイナスの影響を受けたのは?」と質問されたら、多くの人が『宿泊・飲食サービス業』と答えるだろう。
だが、国内総生産(GDP)で見てみると、最もGDPが減少したのは、『運輸・郵便業』の6.4兆円減(減少率▲21.5%)で、『宿泊・飲食サービス業』の4.3兆円減(同▲31.0%)よりも多かった(経済活動(16分類)別)。
GDPから雇用者報酬や減価償却費等を差し引いた営業余剰は、『運輸・郵便業』が6兆円のマイナス(余剰がない状態)なのに対して『宿泊・飲食サービス業』は2.5兆円のプラスとなっている。2019年の営業余剰は『運輸・郵便業』が0.6兆円のマイナスだったのに対して、『宿泊・飲食サービス業』は5,9兆円のプラスとなっており、『運輸・郵便業』はマイナスをさらに拡大させたのに対して、『宿泊・飲食サービス業』は営業余剰を半減させたもののプラスを確保している。
一方で、就業者は、『運輸・郵便業』が1万6千人減(同▲0.4%)とほぼ横ばいだったのに対して、『宿泊・飲食サービス業』の36万4千人減(同▲8.6%)と大きく減少した。
『運輸・郵便業』は就業者をほぼ維持した(雇用を守った)が、営業余剰はマイナス幅が大きく増加しており、経営の悪化が危惧される。GDPから見ると、新聞・テレビの報道などで大きく取り上げられた『宿泊・飲食サービス業』よりも『運輸・郵便業』方が影響を受けたと言える。
このように危機的状況を迎えている『運輸・郵便業』、特に公共交通機関(鉄道、バス、タクシー等)への支援を提案したい。
理由は以下の通りである。
1)これまでクラスター発生の報告はほとんどない中で、感染拡大防止のために都道府県間移動の抑制、在宅勤務・オンライン授業などの行動変容(外出抑制)により需要が消滅した結果、売り上げが大きく減少したこと。これは直接、休業や時短を行った飲食店と同様の影響を受けていると考えられること。
2)一方で、感染者予防や治療を始めとる社会活動の維持のため、医療従事者や介護・福祉、インフラ維持や清掃等に従事するいわゆるエッセンシャルワーカーの通勤の足として、休業は避け一定水準の移動サービスを維持しなければいけないこと。それ故、事業継続の重要性が高いこと。
3)運輸業以外の収益を運輸業の赤字に補填する内部補助等の企業努力だけでは、今回のような広域的かつ2年以上にわたるパンデミックに対応するのは限界がある事。長期的には減便などのサービス水準の低下、運賃値上げなどのコスト増加を招きかねないこと等
支援の方法として『期間を限定した消費税減税の社会実験』を提案したい。具体的には、“2023年4月から3年間消費税を5%に下げる”ことである。
一部の鉄道会社では、2023年4月から5%の値上げが予定されている。現在、10%の消費税を5%の下げるとほぼ値上げ幅を吸収して、消費者が支払う価格はほとんど変化しない(鉄道会社が行う詳細な運賃計算の方法ではないため仮定)。このため、価格の上昇による需要が減少はないと考えられる。一方で、現時点で同じ需要量なので、鉄道事業者は5%の増収を期待できる。Withコロナに向けた需要が増加していけばさらに増収が期待できる。その3年間の間に、経営体質とサービスの強化を行い、3年後の消費税10%復帰に備える。
軽減税率を適用されている新聞と同様、あるいはそれ以上に公共交通機関は社会的な必要性が高いため、社会的なコンセンサスが得やすいと考えられる。
また、恒久的な減税ではないため、消費税の税収の減少は期間限定である(だから、財務省の反対がないとは言えないが)。さらに社会実験として期間限定の消費税軽減の効果とコスト(消費税の減収)を把握しておくことで、大規模・長期な感染症や地震などが起きた場合の政策のオプションを考える上での貴重なデータとなる。効果が確認できれば、地震などの災害が起こった場合には、地域的な消費税減税措置などにも広げられる。
さらに検討は必要であるが、『宿泊・飲食サービス業』と同様、あるいはそれ以上に新型コロナの影響を強く受けている『運輸・郵便業』を支援するため、早急な対応を求めたい。
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