トランプ=ギャング政権成立へ、破局への道のり。

たしかエマニュエル・トッドが、トランプを“ギャング”と呼称していたことから、この言い方を用いたいと思う。トランプのやり方は文字通りギャングを連想させるからだろう、恐喝、脅迫、ゆすり、等々。

まず政権成立前から目を引くのは、内部対立の存在が浮き彫りになったこと。
 たとえば、高度技能をもつ移民を受け入れたいイーロン・マスクと、これに対して「移民なんかよりも貧困白人に目を向けるべきだ」と主張するトランプ支持者たちの間に、明確な対立が存在する。いまの時点でこの有り様だから、この対立はこの先もっと激しいものに発展していくことだろう。

次に、規制緩和、規制緩和と“小さな政府”を志向しているとされるトランプ政権が、じつはそうでもないらしいということ。
 たとえば、不法移民の強制送還のために多額の出費をして大量の政府職員を動員して実行することが予想されるが、これじゃぁまるで小さな政府どころか“大きな政府”そのものでしょう。
 ほかにも、小さな政府を志向している割には、「グリーンランドをよこせっ」「パナマ運河をよこせっ」とクレクレ君ぶりがすさまじく、どうみても大きな政府を志向しているようにしか見えない。
 このように、早くも小さな政府を志向しているはずのトランプ政権の矛盾が浮き彫りになっている。

また、トランプの指名をうけた閣僚候補たちが白人男性ばかり、というところが、トランプ政権の本質を物語っているように見えます。黒人やアジア系は皆無で、少数の女性が閣僚入りをしているくらいだ。
 結局のところ、トランプが望んでいるアメリカとは、「白人男性の、白人男性による、白人男性のための政治」ということになるのだろう。かつてトランプ政権で初代国防長官だったマティス大将(海兵隊、退役)が、「トランプはアメリカを統合しようとするどころか、むしろ分断を促進したはじめての大統領」と揶揄したことがあった。その頃から、ちっとも進歩していないことがわかる。

さらに、気候変動が原因でおきているロサンゼルスの山火事被害がいまだおさまらない最中に、気候変動を否定して再度パリ協定から離脱し、化石燃料への回帰をさっそく表明した。これまでの政権が地道にやってきた、再生エネルギーへの投資や電気自動車への投資は、すべて無駄にされてしまったことになる。
 地球環境が破壊されても、アメリカだけは存続できると思っているのだろうか? そんなトランプに対して和平を期待できるとの声も上がっているが、失笑ものだろう。国内の分断さえ修復できない大統領が、国際的な問題を解決できることはないでしょう。トランプ政権で紛争が解決するように見えたとしても、今度はべつのところで新たな紛争が起こるんじゃないかな。
 WHOは脱退した、パリ協定は脱退した、すべての国に高関税を課します…国際協調などはなっから眼中にないこうした姿勢の一体どこに平和があるだろうか。そういえば、第二次世界大戦前の前夜にも、世界各国はブロック経済でやっていて輸入品に高関税を課していなかっただろうか? 歴史は繰り返すものらしい。

最後に残念なことは、企業の経営者にしても、共和党の議員にしても、誰もかれもが「トランプマンセー」に成り下がって、トランプにすり寄ろうとしていること。アメリカ人の腰抜けぶりがすさまじく、傍目から見ていてほんとうに滑稽であります。
 なかには、共和党のリズ・チェイニー女史のように、トランプに真っ向から反対した勇敢な政治家もいたものの、落選させられてしまいました。いまのアメリカは、批判的精神は皆無で、権力に迎合しようとする腰抜けばかりの社会になってしまったように見えます。

“民主主義のプロセスを暴力で妨害しようとした事件を受けても、トランプに同調して、声をあげない同僚の共和党議員に対して、この公聴会でチェイニーが語った言葉は今も語り草になっている。
「弁解の余地のない者を擁護する共和党の同僚にこう言いたい。いつかドナルド・トランプはいなくなる日は来るが、あなたたちの不名誉は決して消えることはない」”
 『トランプ再熱狂の正体』(新潮新書)

トランプは独裁者になりたがっているように見えるが、独裁者としては中途半端でどうも器が小さい人間にみえる
 たとえば、歴史上の偉大な?独裁者たちは、毛沢東にしてもスターリンにしても、たいへんな読書家だった。ところが、トランプはそもそも本を読まないし、一期目の大統領のときは執務室でツイッターばかりやっていた、という証言があった。
 その人間がどういう人間なのかを知るには、その人間がどういう時間の使い方をしているかみればわかる。トランプという人間は、どうみても凡人でしょう。一時的に歴史をかき乱す存在ではあっても、この人物が人類の歴史に残ることはたぶんないだろう。