唐突ですがですが、皆さんは強制執行されたことありますか?
『あるよ。』
という方も居るかもしれませんが、殆どの方はそんなの関係ないよ。
って思ってますよね。
普通に仕事をし、家庭を持ち、生活を営んでいる。
休日には、趣味のゴルフや釣り等充実している。
でも、そんなあなたも、ある日突然当事者になってしまうかもしれません。
普通に、いや、普通以上に頑張っている。
そんなあなたが突然の執行当事者となってしまった。
そんな、実際に?起こってしまった事件や変ったエピソードをご紹介しますので、暫くの間お付き合い下さい。
強制執行ってどんなもの?何をするの?
まずは、強制執行の種類について、大まかにいうと、
不動産執行(土地・建物・自動車・船舶・飛行機等又は登記できる権利等。)
動産執行(金銭・その他有価証券・宝飾品・書画骨董・登記不可な定着物・家財什器備品等。但し差押禁止動産有り。)
債券執行(給料・預貯金・売上金等。)
代替執行(債務者に替って債権者が行う作為。債務者に費用請求できる。)
保全執行(仮処分)
などが代表的なものです。
『ほら、やっぱり関係ないじゃん。』
『難しくてワカラナイ。』
そう思ったあなた。
この後のエピソードを聞けば、きっと考え方が変わります。
エピソード1
(債務者)
ラーメン店経営K池さんの事件
K池さん。30歳男性。3歳年下の奥さんと未就学の女の子の3人家族。
子供の頃からチョイワルで、『何とかなるっしょ!』で生きてきた世代。
高校は卒業したものの、就職した会社を1年で辞め、アルバイトや派遣などで、何となくだらだらと過ごす日々。
あるテレビのバラエティー番組で、ガチでラーメン修行をしているのを見て、何かが降りてきたのか、
『これ、やるっきゃないっしょ!!!』と、一念発起。
3年間死に物狂いで、寝る間も惜しんでの肉体労働。
貯金額300万円に達したところで、ラーメン店を開業するため、人気の家系ラーメン店での修業を。
もともと器用だったのが幸いし、1年ほどで自分の店をオープンするための目途が立ちました。
しかしながら、開業資金は300万円ではとても足りないため、事業計画書を当時の国民金融公庫に出し、何度も通いつめ、意欲を伝え、開業資金として、何とか500万円の借り入れをすることに成功しました。
彼の努力を見ていた、家系ラーメンのオーナーの伝手で、麺やその他の食材の手配は順調に進み、後は開店する店舗を探すというところまで辿り着きました。
インターネットでいろいろと物件検索をし、友人知人からも情報収集し、物件検索登録して数日後、一通のメールが届きました。
そして、彼の予算ですべてをまかなえる出店地が、渋谷からは程近い、世田谷区の住宅地にあるマンションの一階にある、飲食店可の物件で、相場より大分格安な物件を賃借できることとなります。
その条件は、新築物件で、通常保証金180万円、月額35万円のところ、保証金無し、一年分家賃前払いで400万円と破格だったのです。大喜びのK池さん、直ぐに物件を見に行ったところ最高の場所だと確信しました。
直ぐに契約書を交わし、支払いも完了させました。
当然居抜きの状態でしたので、厨房設備・什器備品・内装工事等、諸々の費用をかけて、一月半後に、遂に、開店にこぎつけました。
やりました。おめでとうございます。
開店2か月が経過し、常連さんも増え、今後の人生、努力次第で明るい未来が必ず訪れると信じていたK池さんは、順調な毎日を過ごしていました。
ところがです。
突然、東京地方裁判所より、引き渡し命令という書類が送付されてきました。
『何じゃこりゃぁぁ?』
K池さん、当然間に入った不動産会社に連絡を取ろうとしました。
しかしながら電話は使われてなく、メールに対しても一切返信がありません。
大家さんの住所も訪ねてみますが、中は真っ暗で、人の気配は感じられません。
途方に暮れたK池さん。日々の営業に忙殺されてそのまま放っておきました。
『ちゃんと契約してるんだから大丈夫だろう。』
ついついそう考えてしまうのも当然のことだと思います。
さてここで皆さんに質問です。
引き渡し命令ってご存じですか?
『知ってる知ってる!』って感じの人は、ほぼ一握りの業界人。
ほとんどの方は、言葉すら知らないと思います。
ここでは簡単に説明しちゃいます。
多少の間違いがあったとしても、その辺はご愛敬ということでご容赦くださいませ。
引き渡し命令とは、不動産を競売で買い受けた者(買受人)に対し、簡易・迅速に当該不動産の占有を確保して引き渡すことを命じる裁判手続きです。
例えば、今回のケースでは、当新築ビルのオーナーが、何らかの借金等で、不動産競売にかかってしまい、登記簿上の抵当権者等が競売申し立てをして、競売がなされ、新たな所有者が、現在使用中の占有者に対して、物件を明け渡すことを求めたものです。
ぶっちゃけて言っちゃうと、『そのビル私が買ったから、使ってる人、出てってくださいな。』という命令が出されたって事です。
『おいおい!ちょっと待てよ。俺はちゃんと契約書を交わしてここを使ってるんだから、出ていく必要なんてありえないだろ!』
当然K池さんもそう言って激怒しました。
ですが今回、ちょっとした落とし穴に落ちちゃったんですねぇ。
実はこの物件、占有移転禁止の仮処分が抵当権者によってなされていたんです。
『またまたキター!なんじゃそれ。』
と、皆さん感じてますよね。
本当に平たく言っちゃうと、
『前所有権者に対して、この物件、取敢えずあなたは使ってていいけどほかの人にあげたり貸したりしないでね。(仮に)』
という処分が執行官によって執行されてたってことです。
仮にっていうのは、色々ありすぎて説明が難しいから、おいおい機会があればお話ししますが、法的な拘束力はある命令です。
そうそう、沖縄の米軍基地移転の国と県との争いのニュースとかで、たまに耳にしたりすることがあると思います。
但し、通常は、仮処分執行の公示書は、店舗内のどこかに、公示されていたはずなんですよね?
まあ、剥がしたら刑事罰に処されることがあるって書いてありますが、始めから騙す気満々の人は、平気で剥がしたんでしょうかね?
わかりませんけど。
そんなこんなで、日々の営業に忙殺されていたK池さんのところに、遂にその日が訪れました。
スープの仕込みをしていた午前10時30分。
何だか物々しいスーツ姿の団体が店に入ってきたのです。
『すみません。開店は11時半からなんですが。』
すると、一人の男性が、
『東京地方裁判所からまいりました執行官の○○です。』
と、身分証明書を提示されました。
『債権者ABC商会の申し立てにより、建物明渡の強制執行(催告)の件でお伺いしました。K池さんで間違いないでしょうか?よろしければライフライン(電気・ガス・水道)の名義を確認したいのですが。』
と、言われたので領収書を見てもらいながら、K池さん。
『こんなに大人数で誰が来てるんですか?』
と、尋ねたところ、
『私、執行官とその補助者。債権者会社の担当者2名。債権者代理人弁護士。執行官の業務を見届ける立会人。そして、施錠されていた場合に、解錠するための技術者の7名です。』
と、執行官。
『今日は、次回明渡執行の期日を決めて、公示書を貼付して終了します。次回執行(断行)期日は、法律で定められた本日より1ヵ月以内の〇月〇日〇時と指定します。その日時までに任意で退去されない場合、執行官及び補助者、作業員が臨場し、強制的に明渡の執行を行います。』
(因みに催告とは、断行期日を決定通知する執行、断行とは、明渡執行本番のことです。)
と、言われ公示書を店内(従業員の更衣室)に貼付されました。
『あとは当事者同士で話し合い等をすることは自由です。断行期日前に任意解決した場合は取り下げ等、手続きをお願いします。本日の執行は終了です』
と話し、帰りました。
K池さん大パニック。
後日、債権者代理人弁護士より連絡があったので、
K池さんは、ちゃんとした契約を交わして借りているのに、何故退去する必要があるんですか?おかしいじゃないですか?と、話をしたところ、その契約は前所有者と交わされたもので、現在の所有者には何の履行義務も存在しません。、新たな賃貸借契約を締結することは可能です。契約条件は保証金240万円、前家賃3か月で120万円ということでした。
そんな金額を払える筈もなく、途方に暮れ、知人、友人から、区役所、裁判所、弁護士事務所に相談をしましたが、どうしようもない状態でした。
さて皆さん。ここまでの話で、K池さんに何かしらのミスがあったでしょうか?
普通に物件契約を結び、設備・什器備品等をセッティング、普通に営業していただけですよね?
でも、ちょっと待ってください。
この物件って、仲介業者からのメールが来てから動いたんでしたよね?
もちろんちゃんとした業者さんが、メールで物件紹介するなんてことはよくあります。
でも、なんかおかしいって感じませんか?
そうなんです。格安な条件の物件だったんです。
このケース、考えられるのが、すぐに現金が必要だった為に金額を下げていたとは思いませんか?何も調査をせずに契約を結んでしまったK池さんにも、過失があったんです。
高額契約をする場合には、最低限、建物の登記簿謄本を取り付け、権利関係を調査しなければいけなかったんです。
それなりの仲介者(弁護士、司法・行政書士)などに頼み、契約行為等を依頼しておけば、このような事件に巻き込まれることもなかったでしょう。
今回の事例、
『所詮他人事、自分には関係ないや。』
などとは決して思わないでください。
あなたの近くに、日常茶飯事でおきていることなんです。
『K池さん可哀想だ。どうなっちゃったんだろう。』
『奥さんと子供はどうなるの?』
『まさか一家心中なんて……!』
安心して下さい。ついてますよ。
幸いな事にK池さん。
独立の時にお世話になった家系ラーメンのオーナーが、
『俺にとって、お前は息子のようなものだ。俺はお前の根性を信じてる。再契約に必要な資金は出してやるから、頑張って返せばいい。』
と言ってくれて、営業継続をすることが出来たのです。
それから2年。
究極のラーメンを求めて日々大奮闘。
借入金もほぼ返済。
2人目の子供(跡継ぎ?の男の子)にも恵まれ、2店舗目の出店も決まって、順風満帆な人生を歩んでいます。
今回は、ちゃんとした仲介人を頼んで、2度と同じ失敗は繰り返さずに済みそうです。
良かったですね。私もホッとしています。
さて、次の話は、どのような事件でしょうか?
皆さん、お楽しみに。