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背徳感はスパイス

「今週末、仙台に行かない?」

もっぱら連絡のやり取りはLINEがメインになっている。久しぶりに長く続くバイブと表示された名前に驚き、慌てて電話に出るとそんな唐突なお誘いだった。
土曜の朝は予定が入っているし、知らぬ友人3人も一緒って完璧アウェイだし、冷静に考えれば断る誘いを「行く!」と即答してしまうくらいには彼への想いがあった。

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彼との出会いは、大好きなイタリアンのお店の15周年パーティー。
その日は急遽パーティーの手伝いをすることになり、シェフに会いに来るたくさんのお客さんをアテンドしたり、山のようにやってくるお祝いの品を受け取り、お祝いの言葉と笑顔と美味しい料理の間を駆け回っていた。
厨房ではシェフの代わりに、シェフを慕う他店のシェフたちが楽しそうに次から次へと料理を仕上げていく。できた料理を運んだり、使ったグラスを下げたり。そんな厨房への行き来を繰り返す中、気がつくと色んなお客さんに声をかけられては豪快な笑顔と楽しそうな会話を交わす大きな背中を目で追っていた。

あぁ、こんな風に楽しそうに仕事をする背中って素敵だな。

パーティー後の打ち上げで、つい話しかけてしまったのはそんな風に思ったから。話してみると彼はシェフではなく料理好きな一般人だと分かった。パーティーで本職のシェフに混じって料理している一般人って何!?話すほどに興味が沸いた。

美味しいものが好きでお酒も好き。そんな共通点を手繰り寄せ、何度か食事へ行った。でも、なかなか距離は縮まらない。誰に対してもオープンだけど心の中が広くて核心がいつまでも掴めない。ダメかな…。無理かな…。
そんなときに誘われた仙台旅行。まだあきらめたくない。

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1月の仙台は小雪が舞い、風がぴしっと冷たい。でも街中は明るいネオンで輝き、人も温かくて魚もお酒も美味しい!!
彼の友人はみな食べることも飲むことも好きな人達で、合流して乾杯したらすぐ打ち解けていた。
もれなく全員が飲兵衛だから1軒では終わらない。旅行の高揚感と街の元気さにつられ、2軒目からカラオケへとなだれ込む。全員きっかり30代。明日のことなど考えず、ただただ眠気と楽しさの間を行ったり来たり。でもそんなときのカラオケほど楽しいものを知らない。それぞれが青春の歌をひとしきり歌いきる頃には、すっかり外は明るくなっていた。
さあ、ホテルまでは歩いて5分の距離。ケラケラコロコロ笑いながらいい大人が5人目覚めたばかりの街を歩いていると、ふと目に入る24時間営業の店。誰からともなく、吸い寄せられていく。理性なんてとうに捨て去ってしまったから、迷うことなく注文する。

「並5つで!」

あぁ、美味しい。
オール明けの牛丼って、なんて美味しいんだろう。
食べたらすぐホテルで寝るだろうことも分かっている。寝る前に牛丼かっこむって、女子としてなしだろうことも理解できる。でも、これは、この背徳感は最高のスパイスになっている。
あぁ、つゆだくにすればよかった…。そんなことを思いながらホテルのベットへ沈み込むと数時間の幸せな眠りについた。

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この牛丼が原因?敗因?ではないと思われるが、彼と恋仲に進展することはなかった。でも、旅行を一緒にした仲間はよき飲み仲間となった。

そういえば、大学時代も仲間とオール明けの牛丼を何度かした。その中にほんのり恋心を持った人もいたが、やはり進展はしなかった。でも今もみな仲が良い。

恋には進展しないが、オール明けの牛丼を共にした人とは不思議と縁が続いていく。背徳感というスパイスが効いているのかもしれないね。

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こちらの企画に参加しています。

この企画、そして『文脈メシ』というワードを知ってから、私にとっての『文脈メシ』は『オール明けの牛丼』だ!!と筆をとりました(筆が遅い…)。
飲兵衛ゆえに飲んだあとの締めのラーメン。というのはよくあるのですが、麺より米派(だって米のほうが腹持ちいい)の自分にとっては、食べたくなるのは牛丼なんです。はぁ〜書けてスッキリ。

ということで、『文脈メシ』を召し上がれ。

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