映画『世界が引き裂かれる時』を見て
映画『世界が引き裂かれる時』 6月17日 公開
推薦コメントの依頼をいただき、寄稿させていただいた。
この映画は原題「クロンダイク」であり、発表されていたときから気になっていた。
舞台はウクライナのドンバス地方。
ロシアとの国境付近にある親露派勢力に包囲された集落。
映画を見ると、私が今年の3月訪れたドンバス地方、ドネツク州のリマンやクラマトルスクは広大なドンバスの入口でしかないのだと思わされる。
この映画は本当に言葉を失う。
映像に映し出される、湿った黒っぽい土、保存食の瓶詰め、花柄の壁紙、そして広大な土地。
どれもウクライナ取材で見慣れたもので一瞬恋しくもなるのだが、緻密に構成された映像には、当然ながら意味のないカットはない。
囚われているかのようにフレームのなかで配置され演技する俳優たちはまるで包囲された村そのもののようだ。
深く見れば見るほど、散りばめられたメタファーに気づく。
そして登場する全ての人物の物語を想像してしまう。
コメントでは書けなかったが、映画の本編では親露派の若手兵士の姿が合間あいまに映り込む。
そして終盤、ある男に悲運が訪れるのだが、その傍らにいる若手兵士の表情。
わずか1秒にも満たない瞬間に見せるあの表情は、なんと形容すればよいのか。
やるせない、遣り切れない、不条理、陰陰滅滅。
でも全く感情を押し殺してもいる。
あの表情もまた、この現実を物語っているとも思える。
この映画は妊婦の女性が主人公ということもあり、女性視点の戦争映画と説明されることが多いだろう。
だが、マリナ・エル・ゴルバチ監督のインタビューを読むと、そうでもない。
「イルカはたんなる強い女性ではなく、生命を生み出し維持するエネルギーを象徴しています。これは反男性映画でもフェミニズム映画でもなく、生命を支持する映画なのです。」
ぜひご覧いただければと思う。
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