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本書に仕掛けたイタズラの答え合わせ by 装幀の上田豪|#スローシャッター マガジン Vol.20
今回は、ひろのぶと株式会社社外アートディレクター、
スローシャッター装幀担当の上田豪がお届けします。
前回私が担当した記事は、田所敦嗣の本のタイトルがどのようにして決まったのか、どのように装幀のデザインをしていったのかを書いた。
その中で「この本にはひとつイタズラを仕掛けた」とお伝えしたのだが、覚えているだろうか。
今回はその「イタズラ」のネタばらしを書いていきたいと思うのだが、なぜそのイタズラに至ったのかを理解してもらうためにも、まずはこの本のデザインに込めた想いを伝えることから始めたいと思う。
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トランキーロ(あっせんなよ)
デザインコンセプトは「時間」
スローシャッターというタイトルに決まってから、この本のデザインコンセプトは「時間」にしようと決めた。
本の表紙、カバー、本文用紙、帯。
本を構成する要素それぞれで、どう時間を表現するのか。
表紙・カバー
表紙とカバーの関係が「時間の概念」をそのまま表現したことについては、前回の記事でお伝えした通りだ。
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表紙とカバーの関係で時間の概念を表現してみると、それは、いみじくも事象を表す表紙ビジュアルと、著者の心象を表すカバービジュアルとなった。
田中泰延の著書である『読みたいことを、書けばいい。』に影響された田所敦嗣の本らしい、ひろのぶと株式会社から出版される本らしいと言えないだろうか。
ちなみに俺はこのカバーの折り曲がる部分の紙の煌めきが好きだ。どこか銀塩写真のようでいいでしょう。
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本文用紙
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スローシャッターは読み終わってからも、何度も開いて欲しい本だ。ここにある田所敦嗣の数々の文章は、読んだ時の状況でまた感じ方も変わると思う。だから、決して売ったりせずに長く所有してほしい。
その願いを込めて、この本の本文用紙はあえて「焼けやすい紙」を選んだ。経年変化を楽しみながら自分だけのスローシャッターに育ててほしいのだ。
帯
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何故、帯を黒に、そして帯文をシルバーの箔押しにしたのか。
捨てられることもある帯にわざわざコストのかかる箔を押したのは何故か。
店頭で目立つから。それも理由の一つだけど、帯を捨てないで欲しいこと、そして本文用紙と同じように帯も経年変化を楽しんでほしいからだ。
この黒い紙にはカーボンが含有されている。そのカーボンとシルバーの箔はゆっくりと化学反応を起こす。さて、どうなるか。押されたシルバーの箔が錆びてくるのだ。どうだ、まいったか。(ただし個体差があるので三ヶ月くらいで錆び始めるものもあればなかなか錆びないものもある)
焼けていく本文用紙と錆びていく帯。自分だけの一冊に育っていく本。本を開くたびに田所敦嗣の旅に同行している気分になれる。
イタズラの答え
ということで、時間を表現した本であり、長く愛して欲しい本だということはおわかりいただけたところで、そろそろ答え合わせの時間です。
購入して読んでくれた方でtwitterの #スローシャッター を追いかけている人はもう答えをおわかりかと思うのだが、まだ気づいていない読者の方もいるかと思うので、ここで答え合わせをしておきます。
俺が仕掛けたイタズラというのは、冒頭の写真ページの中にある。
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この船に乗る男を田所敦嗣にしておいた。もちろん嘘だ。アツシの親戚が勘違いするくらい似てるけど、この男はアツシではない。生き別れた弟だ。
冗談はさておき、
スローシャッターはコロナが世界を覆う前の海外出張のエピソードがほとんどだ。
旅にも行けない。人とも会えない。仕事もうまくいかない。そんな時間が何年も続き、疲弊し、暗闇にいるかのような想いを抱いている人に、人との出会いがいかに大切で尊いものかを伝え、読者の心に希望の光を灯すのがこの本の使命だ。(と勝手に思った)
光。希望の光。
そんな光を表現することも「時間」だ。装幀で表現するべきだ。
飛行機にこの本を持ち込み読み終えて本を閉じ消灯する。その時、まるで時計の文字盤のように、この本が光る。そんなシーンを想像した。蓄光印刷ならできる。
このイタズラを現実にするためには、あとは地球始皇帝の首を縦に振らせればいいだけだ。机の上に甘いものをたくさん置いておけば大丈夫だろう。
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光を蓄えた本を暗闇に置くとカバーも背表紙も光る。意外と気づかないこのイタズラ。もしかしたら書店員さんでも気づいてない人もいるかもしれない。
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スローシャッターというタイトルが光る。これがイタズラの答えです。
最後に
唐突だが、バレンタインの話をさせてもらう。
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ボビーの方じゃない。
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グレッグの方でもない。
バレンタインデーの話だ。
バレンタインデーにチョコレートを贈るのもいいが、そろそろその風習を変えないかという提案だ。
これからのバレンタインデーは「本を贈る」。
イケてるボーイズアンドガールズは、これだろ。
バレンタインデーに『スローシャッター』を贈り、
ホワイトデーには『全部を賭けない恋がはじまれば』を贈る。
というわけで、今年からはそういうことでよろしく。な。
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