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本:住む、ということ「はじめに」より

住むということを考える

私たちの生活の中で、「住む」という行為は当たり前のように存在しています。しかし、それについて深く考える機会は意外と少ないのではないでしょうか。家を建てる、引っ越す、模様替えをする。こうした家を考えるタイミングでさえも、「住む」ということことについて深く思いを馳せることも少ないかもしれません。

今回、拙著「住む、ということ」の「はじめに」の部分をもとに、「住むということについて少し、考えてみたいと思います。

拙著「住む、ということ」婦人之友社

住むことは人生と直結している

私たちは日常の中で、食べる、働く、休むといった行為については意識する機会があるものの、「住む」ことについては無意識に過ごしていることが多いかもしれません。しかし、「住む」ということは、単なる場所の確保ではなく、その人の生き方と密接に関係していように思います。

私自身、借家暮らしのうちは、住むということについて深く考えたことがありませんでした。もともとは、持ち家であることにこだわりがなかったこともあり、仕事としての家のことは考えることがあっても、自分自身が住む家のことを考えたことはありませんでした。
ですが、ある家に出合ったことがきっかけで福岡から鹿児島に移住し、何のために自分の家を建てるのだろう?ということを深く考えていくうちに、「住む」ということを改めて深く意識するようになったと思います。
それまでの住まいは、生活を送るための手段に過ぎず、そこに深い意味を見出すことはありませんでした。しかし、家を建てることを考え始めると、具体的にどのような暮らしを送りたいか、どのような空間で時間を過ごしたいかといったことを自然と考えるようになったのです。

例えば、朝起きたときの光の入り方、キッチンでの過ごし方、天候による家の表情の変化など、日常の些細な瞬間が「住む」ということを考える種につなっていきます。


「住むこと」の味わい

「旅行に行く」「レジャーを楽しむ」といった言葉には、聞いただけで何らかの感覚や楽しみが想起されるものです。しかし、「住む」という言葉には、そうした具体的なイメージが湧きにくいかもしれません。それは、住むことが私たちの人生とあまりにも密接であり、意識しなくても行われている行為だからです。

しかし、住むことを改めて考えてみると、それは私たちの価値観や生活スタイルの積み重ねによって形作られるものだとわかります。日々の暮らしの中で、家具の配置を変えたり、家の手入れをしたりすることも、住まいをより自分らしいものにしていく行為の一つです。

私は、もともと無趣味です。だけど、この家に住むようになって、家の掃除やDIYなど、住むということや、家のことが趣味のようになっています。趣味「のように…」と言っているのは、厳密に言うと、趣味とはちょっと違うからです。住むことや家のことそのものが自分の生き方に直結している行為のように思うのです。住むということは「人生を形づくる大切な行為」だと思っています。


自然豊かな場所での暮らし

私はもともと、都会暮らしのほうがよかったです。だけど、家を建てることを考えたとき、結果的に都会ではなく自然豊かなこの場所を選択しました。「住むことがより豊かになる環境」を求める気持ちがそうさせたように思います。

都会では便利な生活が送れますが、一方で、自然の移り変わりを感じたり、自分で作物を育てたりといった体験は得にくいものです。里山での暮らしを選び、そこで住むことを思い、感じて、考えるうちに、米を作ったり、ヤギを飼ったりするようになりました。これは計画していたことではなく、その場所で暮らしていく中で自然と導かれた選択だったように思います。

自然とともに暮らすことで、四季の変化を身近に感じ、生活そのものがより豊かになっていく——そうした実感が、「住むこと」の意味をより深めてくれたように思います。


住むことは積み重ねの結果

住まいは、一度つくって終わりではなく、日々の暮らしの積み重ねの中で少しずつ育てられていくものです。家具の配置や掃除の仕方、手入れの仕方など、その家でどのように過ごすかによって住まいの在り方が変わっていきます。

本の「はじめに」の最後の部分で「住むことを感じていると、思いや行動がむくむくと湧き上がってきて、だんだん形になっていきます」と書いたのですが、住まいはあらかじめ決めたとおりにするということよりも、住むことを思い、感じながら、少しずつ自然と形になっていく部分が確かにあって、それが、その家が「住まい」になっていくときの核になっていくような気がしているのです。思い、感じているうちに、自然な流れで家の手入れをしたり、より居心地のいい空間にしようと身体が動く…私自身の生き方を考えるうえでも大切な感覚のように思います。


まとめ

住む、ということは、単に家を持つことではなく、その場所でどのように生きるかということと直結しています。都会か田舎か、持ち家か借家かといった型にはまった思考よりも、そこにどのような思いを持ち、どのような毎日を送っていくか…その延長が人生になっていく…そういうイメージが大切なことのように思います。

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