
「日弁連が取り調べ拒絶を志向している」 警察に広がる注意喚起:朝日新聞デジタル ←中村元弥弁護士のXで知る
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異変の背景に、1枚の文書
2018年末に在宅の事件で立ち会いを経験した片山和成(かずなり)弁護士(大阪弁護士会)は、「どんな事件でも立ち会いを申し入れているが、あのとき以来、完全な立ち会いは実現していない」と話す。
弁護士たちが背景にあるとみるのが、警察庁が21年5月に全国の都道府県警察に出した、1枚の文書だ。
「指導連絡」と題するA4サイズの紙には、こう書かれている。
「取調べは事案の真相を解明して証拠資料を収集するという捜査の一環であり、重要な役割を果たしている」
「弁護人の立会いについては慎重に検討する必要がある」
ポイントは次の一文だ。
「申出等があった場合には、警察署独自で判断させることなく、警察本部への報告を求め、組織的に対応するよう徹底されたい」
立ち会いの可否に対する判断が「組織的な問題」に格上げされたことで、「安易な受け入れ」は淘汰(とうた)されていった。弁護士たちはそうとらえた。
「おいこれ署名するか」「すんのかせんのか、こらぁ」。7時間を超す取り調べで響く警察官の怒声。記事の後半では、「違法な取り調べ」と裁判で認定された音声動画を紹介します。
伏線があった。
「立ち会い宣言」 全事件で申し入れ
日本弁護士連合会ではこの少し前から、立ち会いの動きを活発化させていた。
欧米や韓国、台湾などと違って、日本には立ち会いを認める仕組みがない。一方で、容疑者には黙秘権や弁護人依頼権という憲法上の権利がある。だが「黙秘します」と言っても、取り調べは終わらないのが実情だ。
日弁連はこうした権利を中身のあるものにするため、重要課題を話し合う19年の人権擁護大会で「立会制度を確立させる」と宣言。全件で立ち会いを申し入れるよう促し、実現するケースが出てくるようになった。
指導連絡が出たのは、そのさなかのことだった。
警察庁刑事指導室の石井啓介室長は「指導連絡は、いくつかの警察本部から対応を問われたので出したものだ」と話す。
文書は「慎重に」「組織的に」としているものの、「認めるな」とは言っていない。
だが、現場には強いメッセージになったようだ。
各地の警察本部は、管内に独自の通知を出して引き締めを図った。朝日新聞の情報公開請求で明らかになった31の警察本部の通知のうち、一部はこんな内容になっている。
「立会いを求めるケースが増加しており、何ら検討もせずに対応しているケースも散見されます」(福島県警)
「日弁連が取調べ拒絶型の立会い制度を志向している」(長崎県警)
和歌山県警は、目を引きつらせた弁護士が「立会させよ」と申し入れる絵を添えて、受け入れに注意を呼びかけた。
北海道警は「逮捕・勾留の有無を問わず、取調べの立会は認めない」「弁護人が面会を目的として待機する場所は、庁舎管理権に基づき待機に適した場所とし、取調べ室近くにおける待機は認めない」と書いた。一律に認めない姿勢を鮮明にした。
石川県警も、在宅の事件でも「原則として許可しない」とした。
道警と石川県警の通知は警察庁の方針を上回る表現で、両警察本部は地元弁護士会の抗議を受け、通知を撤回した。
「新時代の刑事司法制度特別部会」と名付けられた法制審議会だ。受刑後に真犯人が現れた強姦(ごうかん)事件「氷見(ひみ)事件」や、DNA型鑑定で無実が判明した殺人事件「足利(あしかが)事件」などの冤罪(えんざい)が相次ぎ、大阪地検特捜部の証拠改ざん事件が発覚したのを受けて11年、刑事訴訟法の改正議論が始まった。ここで民間や弁護士出身の委員たちが「取り調べ依存から脱却する方策」の一つとして提案したのが、立ち会いだった。
だがこのときは「時期尚早」と棚上げされ、一部事件の取り調べの録音録画(19年6月に制度スタート)が優先された。
「宿題」とされた立ち会いは、昨年始まった改正刑訴法の点検作業のなかで、再び議題になることが見込まれている。
特別部会の委員だった後藤昭・青山学院大名誉教授(刑事訴訟法)は、現状のせめぎ合いについて「弁護士会がいよいよ力を入れてきたことに対し、警察が組織を挙げて抵抗を始めたという印象だ」とみる。「双方とも現実的な課題として意識するようになったことの表れでもあるだろう」
改正刑訴法の点検作業について、「取り調べのあり方は専門家だけで考えるべきテーマではない。孤立した状態で取り調べを受けるということは、どういうことか。一般の人の感覚を採り入れ、各国との比較もしながら、広く議論してほしい」と話した。(阿部峻介)
