わたしの原風景
思い返せば……
もう何十年も前、いや、子どもの頃からの悲願だったようにも感じる。
それは、美しい自然の中で暮らすこと。
そして、美しい自然を守っていくこと。
意識として明確にあったわけではなかったので、ようやく氣がついたといったほうが近いかもしれない。
過去には、大型橋梁や高速道路など土木関係の公共工事に携わる仕事や化石燃料の販売など、前述の思いとは裏腹に破壊の一端を担うような職に就いていたこともあった。でも、その頃はいつもどこかで漠然とした後ろめたさを感じていた。
子ども頃は田舎と言っても比較的町中に暮らしていたため、いつも美しい自然に触れていたわけではない。でも毎年夏休みになると、裏に山を抱いた祖母の家に預けられ、約一か月を豊かな自然の中で過ごした。
家の前には小川が流れ、スイカや祖母が作った夏の野菜が冷えていた。
ラジオ体操に遅れまいと眠い目をこすって坂道を登り辿り着いた神社は、凛と張った清涼感と芳しい緑の香りがする濃い空気が満ちていた。
昼寝から起きた昼過ぎの時間、じりじりと焼けるような暑さとセミの声の中をオニヤンマが通り過ぎる。一瞬の空白……、息をとめ時間がとまり静寂に支配された空間を、水平に空を切るオニヤンマだけが色を放っていた。
苔むして水が滴る石垣のそばを舞う蛍。「二つ並んでるのは蛇の目やで氣ぃつけや」という祖母の声を尻目に、蚊帳の中を蛍でいっぱいにしたくて、夢中で虫取り網を振り回した。
夜中のトイレは、外の離れまで恐怖との戦い。でも、降り注ぐ星々と祖母が待っていてくれた。
いまでは野菜を冷やした小川も、従弟とブランコをした太い梁の家もなくなってしまったけど、思い返すとあの頃の光景や緑の濃い山の木々、清々しい空気の匂いまでもが思い出される。
間違いなく私の心の深いところに、色あせない秘密基地のようなものが、壊されないように大切にしまい込まれていた。