
さらば、クレオフーガ。
概要
株式会社クレオフーガが立ち上げたクレオフーガ(Creofuga)は、確か2008年ぐらいからある日本の音楽投稿サイトである。この類のサイトで有名なのは、やはりSoundCloudだろう。
当然、クレオフーガも例に漏れず自身のオリジナル曲からマッシュアップやremix。その他、アカペラから何まで...おおよそ考えられる"音楽"を各々が投稿していた。
"レベル帯"も様々で、プロからアマチュア...あるいは今日から楽曲制作始めましたの人まで...まさに”闇鍋”な側面がある点もSoundCloudと同じ。
さて、本記事では"株式会社クレオフーガ"のなかの"クレオフーガ"というサービスの話しなのでそこは最大限留意して欲しい。
競合サービスと同じく、"いいね"や"プレイリスト"。"コメント"に、"タグ"など音楽投稿サイトとして必要な機能は一通り備えていた。
ぶっちゃけ魅力はなんだったのか
SoundCloudしかり、競合サイトも多いなか敢えてクレオフーガを使う理由がどこにあったのか?それは、豊富なイベントとランキング機能だったと筆者は考える。
イベント...早い話しが、様々な企業向け案件を公募という形でクレオフーガ上で行い、規約に沿った作品を各々が期限までに投稿。次に、ユーザー間による一次審査(投票で行う)を経た後、審査員による最終審査が行なわれる。そしてこれらを突破した作品が公募の楽曲として正式採用された。
ユーザーにとっては、自身の名を売ったり活動実績に追加。あるいは、直近の目標にもなるこれらのイベントが常に好評だったのは言うまでもない。
ランキング機能に関しては、上記画像の赤枠で囲った箇所に"ランキング"というタブが"あった"...つまり、現在は機能自体が廃止されている。
筆者の記憶が正しければ2016年辺りに撤廃されたが、ローンチ開始から実に7年近くデイリー、ウィークリー。そして、マンスリーのそれぞれ独立したランキング機能が実装されていた。なお、これらにランクインするためには、"再生数"と、"いいね"の数で決まっていたような気がする。(記憶が曖昧)
そして、ランクインの為にフレッシュな楽曲を投稿したり、ユーザー間でそれらの楽曲についてコメントで交流したりするなど楽しみ方は様々だった。
じゃあ何でサービス終了になるんだよ
そら、売り上げが落ちたからでしょう。慈善事業じゃあるまいし、ビジネス。ようは、金稼ぎである以上、サーバー費用から広告宣伝。人件費...etc これらをペイして営業利益を出さなければいけない。そしてクレオフーガの収益モデルは、タイアップイベントによる収入がメインだったはず。
しかし、どう考えてもそれだけでは足りないので後期は、オーディオストック(後で解説)も加わったが、企業案件が収益のベースなのは間違いないと思う。
イベント期間のカラクリ
さて、これらの推察を基にクレオフーガの話しを進めるわけだが、ズバリこのイベントが良くも悪くも"足枷"になったと思う。例えば、年間12回のイベントを開催するとしよう。そして、1~12月まで毎月1つのイベントが常に開催されているのと、特定の月ないしは季節に12個開催するのとでは、同じイベント総数であっても意味合いが変わってくる。
そして、勘の良い読者ならこの時点で落とし穴に気が付いたはずだ。クレオフーガのイベントスケジュールは後者に近かったのである。勿論、選考およびそもそもの募集期間があるため、"隙間"なくイベントで1年を回すのが難しいのは当然だろう。
それでも、数か月。あるいは、それ以上間隔が空いてしまうしまうこともあり、ユーザーはサービスを利用する上での"目的"を徐々に失っていったのである。
"平時"にこそ真価が問われた
イベントは魅力的だが、実施されていない期間がそれなりにある。さあ、どうすればいいのだろうか?
『え?そりゃ、音楽を投稿して、コメントで交流してそれで毎日楽しめばええやん。後、ランキング上位狙ったりとか』
...結論から言うと、残念ながらそれ"自体"がクレオフーガを利用する最大の目的になるトラックメイカーしかり、コンポーザー、ライターは少ない。ランキング上位で金銭が貰えるとかだったら話しは別。
反対に、誰もが平等に取るチャンスがある人参(立派な企業案件)が目の前にぶら下がっていれば、コンポーザーの端くれとして各々そこが一つの目標になるのは必然。だからこそ、そこで得られた副次的な交流やら何やらでユーザーたちは更に"循環"していくわけで。
あなたはクレオフーガの"住人"になれますか?
もう1つ。これは音楽の持つ難しい側面なのだが、1つの楽曲というのは1日そこらで完成しない。つまり、毎日楽曲を作り連日絶え間なく投稿。そして、その間に他のユーザーと交流...いや、待って欲しい。それは、時間の観点からして学生かニートじゃないと基本無理だし、彼等でもよっぽど"ソコ"に"フォーカス"していないとキツい。次に、メンタルおよびフィジカルコンディションも整っていないと"継続"は不可能。あなたは"常に"全部揃っているだろうか。
もちろん、『僕、私は毎日楽曲作って常に投稿できるし、並行してイベントや諸々含めクレオフーガにプライオリティ割いてガッツリ活動できますよ~』っていうコンポーザー諸氏も間違いなく存在したはずだし、筆者もそういった"常連"を何人か知っていた。しかし、それが全体の何割なんですか?っていうのが大事で一部の例外出してもしゃーない。
今日街ですれ違った内の何割が音楽を作ってるのか
そして、音楽を作る側と聞く側の違いこそが"過疎った"最大の理由だと思う。何が違うのか?そして、何が過疎ったトリガーかつ同時に止めの一撃になったのか。答えは至ってシンプル。
"パイが違う"
たった、これだけ。古今東西、老若男女問わずほぼ全国民が何らかの音楽をリスナーという立場で楽しんでいる。一方で、これを生み出す側。つまり、リスナーの何割がコンポーザーなのかというのがカギを握る。
最早、説明は要らないだろう。そもそもコンポーザーなんて総数から割った場合"存在しない"レベルの人数なのだ。しかも、そこからジャンル別で更に振り分けた場合、最早作曲者たちはスマホゲーのガチャでいうところの"SSR"レベルの滅多に排出されない激レアな存在になるわけで。
おめでとうございます。我々は選ばれし者だったようです。
敗走必至の修羅に飛び込む
最後の冗談はさておき、ただでさえ少ないパイの奪い合い。しかも対象が実質日本国内限定。つまり、サービス開始前の企画段階からして既にベリーハードを超えたエクストリームな茨の道がクレオフーガを待っていたのだ。
現に国内のコンポーザーやライターを対象とした多くの音楽投稿サイトがローンチしては消えていった。あるいは過疎ってそのままだったり。なまじ、サウンドクラウドのような世界規模のサービスがあるため勘違いしがちだが、これまで説明してきた様々な理由から音楽投稿系サービスはビジネスとして維持するのが非常に難しいのは事実だろう。
ランキングが死んだ日
そんなこんなで、クレオフーガは"順調"に過疎の一途を辿ることとなった。明らかに減り続けるアクティブユーザーと投稿楽曲数。ユーザーが減ることで、交流が無くなりイベント参加楽曲も減少傾向に。
まさに負のスパイラルに陥ったクレオフーガだったが、それに加えてユーザーの1つの目標であったランキング機能がいつの間にか廃止に。
改悪アップデートでは済まさられないレベルの"自爆"をかましたクレオフーガに対して、『これは、店を畳む準備なのか?』と筆者は感じたし、実際この仕様変更はユーザーからの評判が非常に悪かった。
大逆転のウルトラCを探せ
こうして、サービス終了への臨界点が刻一刻と迫るクレオフーガ。このまま天寿を全うするだけといった状態のなか、ある日『オーディオストック』というサービスを始めた。そう、今や様々なコンポーザーたちに大人気の"アレ"だ。
オーディオストック(Audiostock)は、自分で作曲した音楽や効果音...さまざまな"音"をコンポーザー自らが販売できる。そして、それらの"音"はどこかの個人から果ては企業まで様々なユーザーが購入、利用していく。
「音楽クリエイターの収益化」が本質にあるこのサービスは、あれよあれよという間に大きなサービスへと変貌。今では、50万点という異常な量のストック(商品)を抱える"音の市場"へとなった。
Money is Power
そもそも、虫の息の状態から肝入りで登場したオーディオストックはこれまでのクレオフーガのサービスと明らかに一線を画していた。
時は2020年。言うまでもなく、現代は物々交換が主流だった紀元前600年代までとは違う。生きていく上では現金が必要なのだ。そして、その現金を入手できるというのは、たったそれだけであらゆる謳い文句を捻じ伏せれるだけの"出力"を持つ。
"ランキング上位で金が貰えるわけではない"これは先ほどの筆者の言葉だ。しかし、オーディオストックなら違う。
質の良い"音"を作って企業やら個人やらに購入、利用して貰えれば自身の宣伝(実績)に加えて現金まで貰える。多くのサービスを無慈悲に飲み込んできた"音楽投稿サイト"という敗戦必至の地獄絵図から脱出し、必勝のビクトリーロードへ突き進む。
資本主義の基本を地で行った"正直なサービス"こそ、クレオフーガが遂には成し遂げた最大の要因だった。
これからのクレオフーガ
その後、音楽投稿サイトとしてのクレオフーガは引き続き過疎が進み、今月6月30日13時を以ってサービス終了となる。
しかし、オーディオストックはクレオフーガユーザー"だけ"が対象ではない。したがって、クレオフーガが無くなっても変な話しオーディオストック的には困らない訳だ。
文字通りその役目を終えたクレオフーガだが、次のステージであるオーディオストックには、かつてと同じように競合他社が多数ある。
そこで完全に天下を取りきって勝つか。あるいは、淘汰されて負けるか。
どうやら、勝敗の結果はまだまだ先になりそうだ。
筆者にとってのクレオフーガ
クレオフーガは正直、総合的に見れば替えが利くサービスだった。もちろん日本人のユーザー同士だから出来る交流だのなんだのも魅力的だったがそんなのはサウンドクラウドでも出来なくはない。
じゃあ何で?って言われたら多分、イベントだったと思う。楽曲を投稿して参加したいイベントにチェックするだけでエントリー完了。とんでもなくインスタントに出来るのが良かった。筆者にとってイベント...つまり公募はもっと敷居の高い物だと思っていたから。
それと、筆者と同じジャンル(Tranceとかダンスミュージック)のコンポーザーもそれなりに居たから、彼等の活動を見て聴いて励みにしたり。まあ自分なりに"元を取る"つもりでやってた。
あれから月日は流れ、当時からの同じジャンルのユーザーで現在はお互い海外のレーベルで活動していたりするなど、ある意味ではクレオフーガがきっかけとも言える。
他には公募(上記画像)に勝利してオフラインイベントに招待されて出たこともあった。まあ壇上で色んな識者に楽曲をボロクソ言われたわけだが....
とんだ大恥をかきましたよ、ええ。そんなに糞曲だったかあれ?あの曲あの後、曲名変えてかなり大きなレーベルからリリースしたんだが。まあ、感性は人によって違うからと受け入れた。
いずれにせよ、それらも今では良い思い出だし、そんなこんなで現在のコンポーザーとしての自分の原点がクレオフーガには確かにあった。
またいつの日か何かの手違いで復活したらそれはそれで楽しみなので、あまり期待しないで待ってます。
終わり。