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貸金庫のススメ

まだ子どもたちが小さかったころ、
どうしても銀行に手続きがあって、そうしたら、
その時の支店長さんが「時間遅れて来てももいいですよ」と対応してくれました。
しんとした銀行に入れていただき、行員さんが皆さん締め作業をしているのだと思いますが、ゆっくりお話を聞けました。

その時になんとなく、貸金庫を借りたい、と思ったのですね。
入れる財産があるわけではないのですが、
担当の方と子どもたちの将来の話をして、
遺言書をそこに入れておこう、と思ったわけです。
それから、とても大切な思い出も。

あの時の決断は間違っていなかったです。
そこの貸金庫はものすごく特別で、ハリウッドの映画で見るような重い扉の奥にあります。
中には、何人か入れるのですが、プライバシーは守られます。
そして、自分の借りている金庫を開けるには、自分が保管している鍵と、銀行が管理している鍵を同時にそれぞれを鍵穴に差し込むというなんとも素敵なアクティビティが待っています。

他の銀行の貸金庫を見たことがないので、これがスタンダードなのかもしれませんが、そっと聞いた話、ここは歴史があるので、相当古い貸金庫だと。
その昔、この金庫は海の向こうから船で運ばれてきたものだと。
ものすごく興奮しました。
こんなに大きな部屋丸ごとような金庫を、船で。
金庫のスペースを借りるのに、
年会費は少しだけ払うのですが、それだけでも価値のあることだなと思いました。

その貸金庫、先日最後のお別れをしてきました。

実は建物自体を建て替えるので、なくなってしまうそうです。
なんと痛ましいことでしょう。
建て替え中はしばらく移転先で代わりの金庫を使用させていただくのですが、もう今後はカードキーになるのだとか。
そのほうがきっとセキュリティも万全なのでしょうね。
でもでも、とても残念です。

奥まった部屋の奥にある貸金庫。
本当は子どもたちにも体験させてあげたかったけど、
ああ、残念、それは叶わなかった。

表面に油の浮いた金属の扉の貸金庫。
もう、記憶の中だけに。


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