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「ただいま魔力暴走中!」天才魔導剣士ヴィクター/血塗られた祝宴篇 第四章②

「コストロヴィツキ副団長、いったい何が起こったのだ」
 王国一とも称される魔導剣士のリンデン・ブラックソーンが、なすすべもなく倒されたのを見て、トーレン・マクヴァリスは得体の知れない寒気を覚えた。
「内務卿閣下、あなたは『五本の魔剣の伝説』をご存じですか」
「もちろん。だがあれは半分作り話だというではないか。子供向けのお伽話のようなものだろう」
「まあそう思われても結構ですがね。でも作り話などではありません。脚色はされているようですが」
 そう言うとギヨームはリンデンの背に突き刺さっている剣を引き抜いてマクヴァリスの顔の前で幅広の刃を誇示するように振って見せた。剣から血が飛び散ってマクヴァリスのデスクに赤いしみをつけた。
「この剣の名前はツイストファング。伝説の魔剣のうちの一本ですよ。魔力を使って刃の周りの空間を捻じ曲げることができるんです。敵の攻撃は当たらない、しかしこちらの攻撃は確実に当たる。最強の剣です」
 ギヨームは無造作に剣を肩ぐらいの高さに上げて、シュッと薙ぎ払った。するとマクヴァリスの左右に控えていた男たちの首に一筋の赤い線が走ったかと思うと、すぐにそこから血が噴き出した。男たちが立っていた場所は、ギヨームの剣が届くにはわずかに遠かったはずなのに、なぜか刃は届いていた。
首を斬られた男たちは傷を押さえてしばし苦しんでいたが、やがて力を失い動かなくなった。
「信じていただけましたか。閣下」
 マクヴァリスは無言で震えながら何度も頷いた。

 リンデン殺害の後、ギヨームとマクヴァリスは連れ立ってファリナス宮の二階に執務室を持つ、王国宰相ティリウス・アルディレオを訪ねた。
「そうか。リンデン・ブラックソーンは死んだか」
 人払いをした上で報告を受けたアルディレオは、豪華な執務机の向こうで椅子に深く腰掛けたまま、しばし目を閉じた。年齢はもう九十歳近い。背中で束ねた長い白髪が特徴で、顔も体形も細いため病弱に見られることもあったが、若い頃、戦場を駆け回って鍛えた身体は頑健で、頭脳も少しも衰えてはいなかった。黒い両目には若々しい力すら感じた。
「よい男だった。丁重に葬ってやってくれ」
「閣下、少なくとも表向きは国家を裏切った犯罪者ですよ。あまり手厚くするのもどうかと」
 ギヨームが不満そうに答えた。しかしアルディレオは譲らなかった。
「リンデン・ブラックソーンは我々の目的のために犠牲になったのだ。この先も汚名を着てもらうことになる。生きている我々は、それに少しは感謝すべきだろう」
「仰せのままに」
 アルディレオと言い合いをする気はなかったので、ギヨームはそれ以上異議を唱えなかった。
「それより王国魔導剣士団の連中が騒ぎ出すとやっかいです。宰相閣下のサインが入った強制捜査命令書をいただきたい」
 ギヨームの言葉に続いてマクヴァリスが書類を差し出した。
「閣下、これにサインをいただけますか」
 アルディレオは慣れた手つきで羽ペンにインクをつけると、書類にさらさらとサインを入れた。
「これによってブラックソーン家の名誉は地に落ちることになる。申し訳ないことだな」
「なに、時代の変革に犠牲は付き物ですよ」
 ギヨームは強制捜査命令書を受け取りながらアルディレオとマクヴァリスの顔を交互に見た。
「あなた方のおかげで私は目障りなブラックソーン家を排除できる。できればこれからも仲良くやっていきたいものです」
 そう言うとギヨームは回れ右をしてアルディレオの執務室を出ようと歩き出したが、ふと立ち止まって「そうそう、辺境伯にもよろしくお伝えください」と付け加えた。


※ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
 ここまでで全体の約5分の1です。
 物語はここからさらに発展していきますが、それに関してはAmazonで発売している電子書籍で読んでいただければ幸いです。
 Kindle Unlimitedに入っている方は無料で読むことができますので、なにとぞよろしくお願いいたします。


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