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「自分の響き」で歌おう

8月上旬、ピアノの発表会がありました。
声のレッスンのインストラクターになる1年ほど前から、憧れのピアニストの影響で、趣味でピアノを弾くようになりました。もう8年経ちましたが、弾けるようになった曲は、ほんの僅かです。

少しでも上手に弾けるようになりたい…そんな思いを胸に、昨年の冬からピアノ教室に通い始めました。

習い始めてからほんの数カ月のわたしに、先生から発表会のお話があったのは、今年4月のことです。
ピアノの発表会では邪道かな、と思いつつ、先生に「ポップスの弾き語りでも良いですか?」と相談したところ、快くOKをいただきました。
今年のプログラムを開くと、子供たちが弾く曲も、クラシックだけではなく、ポップスの曲がずらりと並んでいます。
クラシックしか弾かなかったのは、遠い昔のことなのですね。

選んだのは、MISIAさんの「明日へ」です。
練習しながら、歌詞のように、涙で目の前が見えない日もありました。
子供の頃好きだったピアノ。
それなのに、年齢を重ねた今では、まっすぐにピアノと音楽に向かうことができない日もありました。
風邪で体調を崩した時、心までくじけて、途中3カ月間ぱったり通うことをやめてしまったことも。

そんな日々を経て、人生初の、広々とした音楽ホールでの発表会の日がやってきました。

名前が呼ばれて、「いつも通りに弾こう」そう思いながら一礼します。
鍵盤を目の前に座ったその時、歌う前にお水を飲んでこなかったことに、はっと気が付きました。
一瞬の焦り。座る位置とペダルを落ち着いて定める前に、弾き始めてしまいました。
緊張などしていなかったつもりでしたが、ステージの時間は、とても長い時間に感じました。

当然なのかもしれません。納得のいく演奏はできませんでした。
発表会は、日頃の練習がそのまま出ます。
むしろ、練習ではできていたことが、当日のリハーサルと本番で突然できなくなってしまいました。

練習でできていなかったことが、本番でできる、そんなこともあるのかな。
そんな奇蹟を起こせる人は、きっと音楽の神様に愛されている人なのでしょう。

後日、家族に頼んで撮影してもらった動画を、一人、おそるおそる見てみました。
つたない演奏、どこか儚くて頼りない歌声。
堂々と歌っていた、と自分では思っていたのに。
それでも、演奏後に会場からいただいた大きな拍手に、励まされました。
とても有難くて、なんだか照れ臭かったです。

発表会が終わって、来年は何を弾こうかな、と新しい楽譜を探していた時のことです。
3拍子の軽快なリズムに、心を奪われました。
その曲は、ラジオから流れてきた「人生は夢だらけ」、椎名林檎さんの曲でした。

人生のテーマ曲にしたいくらい、素敵な曲名、そして心が弾むリズムと歌詞です。
ピアノの先生に楽譜を見ていただき、この曲を練習することに決めました。
ところが、練習を始めたら、自分には難しいということが良く分かりました。たくさんの♭と、複雑に見える和音、そして繰り返される転調…1人だったら、あきらめてしまうでしょう。

初めてのレッスンの時、先生に、譜面の見方を少し紐解いていただきました。すると、暗雲立ち込めていた気持ちに少し光が射して、ほんの少しだけ、できるような気がしてきました。
先生と二人三脚をしていただいているような心強さが生まれ、地道に練習を続けることに決めました。

高らかに歌える日は一体いつだろう?
1年後でも、2年後でも、いつかきっとそんな日がくる。
自分の響きで歌いながら、弾ける日を夢見ています。

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