クライアントを取りまくビジネス・エコシステムの把握について
調査・コンサルティングにおいては、クライアントを取りまくビジネス・エコシステム(クライアントが公共の場合を含めると、サービス・エコシステムと表現することもある)を調査の上で、見える化することが重要になる。
特に重要なのが、エコシステムの把握に基づいて、クライアントが直面している競争環境を認知し、理解し、そして関係者と共有する部分である。これをクライアントと共有できなければ、そのプロジェクトは上手くいかない。
その共通認識の上で、提供するサービスやプロダクツ(製品)を検討したり、新規で開発したりするプランニングの工程に入ることもあれば、ビジネスの実行支援として、サプライサイドのトランスフォーメーションに関与したり、デマンドサイドのマーケティングに関与したりすることになる。どの観点からの支援でも、クライアントを取りまくエコシステムの把握は、必要不可欠の工程である。(下図参照)
この工程では、基本的に、システム思考やシステムダイナミクスなどの手法を用いて、実際の調査に基づき、クライアントを取りまくコミュニケーションの状況を明らかにしていく。エビデンスに基づき、クライアントを取りまく、コミュニケーション環境をモデル化して、クライアントと共有可能にするということで、いわゆる「モデリング」と呼ばれる工程である。繰り返しになるが、この工程は、すべてのプロジェクトで、必要不可欠と考えている。良いプロジェクトは、この工程にクライアントのコミットメントが十分に得られていることが多い。一方、あまり筋の良くないプロジェクトでは、この工程は重視されない。「そんなことはもう分かってるので、すぐアクションを提案してくれ!」と言わんばかりとなる。そんなプロジェクトの結果は、・・・となることが多い。(少し専門的になるが、As Isモデル(リファレンスモデル)をきちんと構築せずに、To Beモデルを得ようとする愚、ということになる。)
ここでは、このモデリングを行うにあたり、重要になる観点の一つを紹介する。それは、(現実への介入を行うための)コミュニケーションのサイクルの作り方の基本的な思想についてである。これは、上記で述べたことで言うと、To Beモデル(この場合、ベースとなるAs Isモデルへの介入モデルとなる。)を用いたエコシステムへの介入の方法に関係する。(なお、「モデリング」と「サイクル」は、紛らわしいが別々の概念であり、詳細は別の機会に説明したい。)
VUCAの時代と言われるように、多様かつ変化が早い現代では、PDCAサイクルでは、上手く問題に対処できないと言われて久しい。自分なりにその理由を言語化すると次のようになる。それは、「Plan」からスタートすることで、前例踏襲主義、かつて成立した成功パターンから抜け出せなくなる、ということが大きいと考えている。ビジネス、サービスの環境が日々刻々変化しているので、以前上手くいった方法に基づいてプランニングすることから始めてしまうと、それが故に、サイクルが上手く回らず、その評価もうやむやにされる。結果的に、PDCAサイクルは、どこまで行っても絵に描いた餅以上のものではなくなる、というわけである。
このPDCAサイクルは、計画制御を前提として、「上手く制御できないのは計画立案者が悪い」、「XX部の判断が甘い」、「トップの決めた方針が悪い」・・・という形で、容易に「立場主義」と責任の押し付け合いに結びつきかねない。そして、気がつけば、誰も責任を取りたくないので、結果の評価がうやむやにされてサイクルが回らないのである。
それに対して、OODAサイクルと呼ばれるものは、虚心坦懐に、Observation(観察)からスタートする。サイクルなのだから、どこから始めようと変わらないと考える人もいるが、私から言わせれば、どこからスタートするかが大問題である。OODAサイクルでは、現状把握に主眼が置かれ、その時のビジネス、サービス環境の観察に基づき、意思決定が行われる。そのことで、立場主義に結びつくことなく、サイクルがスムーズに回る。
なぜサイクルがスムーズに回るのか。それは、工程として、単純に観察から始まるからであると考えている。事象の観察から始まることにより、観察結果(ファクト)に基づき、もし、結果がAだった場合は、XXとする、もし、Bだった場合は、YYとするというように、ファクトに基づく条件シナリオがある意味必然的に形成されることになる。条件シナリオのもとになるのがモデルだ。これにより、意思決定の負担が下がり、意思決定者は、結果的に過剰に責任を取らされることを回避できる。モデル及びデータに基づく意思決定は、意思決定権者にとって、このような隠れたメリットがあるのである。
OODAサイクルは、この時代に求められているコミュニケーション・サイクルのパターンの一例に過ぎず、似たような多くのバリエーションがあり得ると思う(構成要素の数も取り扱う現象に応じて変化しよう)。ただ、①観察・調査による現状把握と、②それに基づくモデリング(As IsモデルをベースとしたTo Be介入モデル)によって、③必要なアクションとその条件シナリオを導き出し実行する、そして、④アクションの結果をきちんと次の観察で評価する・・・というプロセスは、モデリングをする上では、大枠で共通的なものになると考えている。
調査・コンサルティングを行う場合、このあたりの前提までは、クライアントと十分に共有した上で、進めることができると理想的だ。
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