「経済力学」松尾浩一著 その15
では、次に、今の日本経済が、デフレの影響、つまり、デフレマインドから、なかなか立ち直ることができない原因について、経済力学的に、明らかにする試みを行っていくことにしたい。
日本経済が、デフレの影響に陥った原因については、リーマン・ショック後に、世界経済において、金融緩和が進められたことにより、日本円の価値が大きく高騰したことが、原因であると言われているが、それ自体は、間違ってはいない。なぜならば、当時の金ゴールドの価格は大きく下落しており、それに伴い、物価自体も下落していたためである。
しかし、日本においては、そのリーマン・ショックが起こるまでの間、日銀により、バブル経済崩壊後、ゼロ金利政策が継続的に実行されてきた。つまり、日本においては、銀行などの金融機関が、日銀から、全くの無利子で、お金を大量に借りることを可能にした、これまでの金融のセオリーからは、全く、考えられない、矛盾した、金融政策を、日銀が、実行継続してきたのである。
その影響によって、当時は、銀行からの融資が、受けやすくなることが期待されたが、金融機関は、それまでの不良債権処理の問題の呪縛から完全に脱することができずに、資金の貸出基準を、高く設定したままでの営業方針を崩すことはなかった。
そのため、銀行自体の収益化が難しくなり、銀行の主な収入源は、個人の住宅ローンや、個人ローン、投資信託の販売、個人保険の営業などに、シフトすることになっていった。そして、様々な手数料収入をも、収入源とするようになった。
日本の政策金利自体が、ゼロであることで、お金の持つエネルギーは、ほぼ、消滅した状態となり、日本経済は、経済成長そのものを奪われることになる。
そのようなことで、日銀は、金融機関に貸し出したお金からの金利を得ることが全くできないことで、日銀は、国債の償還金や、利足を、主な収入源とするしかなかった。
つまり、国の収入源が、大きく断たれたことで、日本の国家の収入は、税収に大きく依存するしかなかったために、日本の財務省が、プライマリーバランスの維持を大きく主張する結果を、招くようになったのである。
そして、日銀が、ゼロ金利政策を採ったことで、日本国家の収入が激減する結果をもたらしたことで、プライマリーバランスの維持を目指したならば、日本国家の経済成長そのものを奪う結果をもたらすことは、当たり前のことである。
なぜならば、収入が少ない上に、プライマリーバランスの維持を目指していたならば、日本国家が、投資資金不足に陥り、日本国家そのものが、経済成長を目指した投資行為が、不可能になるためである。
日本が、そのような状態になっていた矢先に、起こったのが、リーマンショックであり、株価の大幅な下落が、日本を直撃したのであった。
そのため、日本の大企業は、株価の大幅な下落に悩まされることになり、収益悪化の懸念から、派遣労働者の首切りに、一斉に走った。
そして、アメリカと中国を先頭にして、世界的な、金融緩和が行われるようになり、日本円が大幅に上昇する結果を招くことになったのである。
当時は、日本の巨大企業である、トヨタやホンダが、アメリカでの、エアバッグ問題で、大きく叩かれた影響から赤字に転落し、日本の国は、国家の税収の大幅減にも悩まされるようになったために、日本国家は、新たな税収のターゲットとして、国民から、大きな税収を得るために、消費税率を上げたくて、たまらなかったはずであり、その結果として、当時の民主党政権は、消費税増税の道を突き進むしか、国家の収入を確保する方法が、全く、なかったのだと思われる。
しかし、日本円の高騰によって、日本国家にとっては、国内需要の大幅な増加から、税収増の又と無い、チャンスになるはずだったが、日本の巨大企業の海外での失敗が重なり、その税収増のチャンスが、泡と消えたのである。
そのようなことから、日本の国家は、財務省からプライマリーバランスの維持を強要されていたために、国民からの消費税の増税を選択して税収の確保をせざるを得なかったのである。
しかし、その結果、日本経済は、混乱状態に陥っていくことになる。
そして、民主党が、選挙で敗北して、再び、自民党が政権を獲ることになったが、当時の自民党の安倍首相は、アベノミクスと言われた経済政策の実行に移った。そして、アベノミクスの3本の矢といわれた、①大胆な金融政策、②機動的な財政政策、③民間投資を喚起する成長戦略のうち、最初の2本の矢は、放たれたが、最後の1本である、民間投資を喚起する成長戦略としたことが、うまく機能しなかっために、アベノミクスは、結局のところ、うまくいかなかったとされてはいるが、それは本当だろうか?と、私は、疑問に思うことになったのである。
なぜならば、最初の①の、大胆な金融政策によって、マイナス金利を導入したことで、お金の価値をマイナスにしたことで、その結果、日本経済は、マイナス成長にまで、実際に、落ち込むことになったのであり、また、異次元緩和策という金融政策も、マイナス金利と同時並行して行われたために、お金自体は、世の中に多く出回ったが、個人の収入増加や個人消費の増加には、全く、繋がらず、大企業の内部留保に、全て消えただけで、日本の経済成長自体にも、全く、繋がらなかったのであるから、私が疑問に思うのは、当然のことである。
そして、もう一つ、③の民間投資を喚起する成長戦略が、うまくいかなかったのではなく、日本の国、自らが、大胆な、公共の福祉のための投資を、実行すれば良かったものを、民間に、その投資を、任せっきりにしたために、アベノミクスは、完全に、失敗に終わったのである。
また、自民党政権時には、2度の消費税増税が、強行された影響によって、個人消費自体が、全く上向かなかったこともある。
そのようなことから、アベノミクスは、日本経済を、全く、回復にも、結びつけられずに、失敗に終わることになったのである。
その、アベノミクスの失敗によって、日本は、デフレの影響、つまり、デフレマインドから、完全に抜け出すことができないのであって、その、もっともな原因は、お金の価値をマイナスにまで下げたマイナス金利政策の実行によって、お金自体のエネルギーを、減るエネルギーへと、お金の持つエネルギーそのものを、180度、変えてしまったことと、お金の信用的価値を大きく下げるだけの効果しか無かった、異次元緩和策の実行によって、物価は大きく上昇したが、このようなアベノミクスの失敗によって、日本国民の懐が、大きく貧困状態にまで陥っているために、個人消費が、全く伴わないのは、当然のことであり、その影響から、物価を、思うほどまで上昇させられないことが、デフレマインドから、中々、完全には抜け出せない、最もな、理由になっているのである。