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私とビルメン

私はかつて、「ビルメン」という職業に就いていました。

現在もビルメン関連の会社には所属しているのですが、いわゆる「ビルメン」をメインとする業務からは離れており、今になって思うビルメン時代のお話をしてみたいと思います。

今回の記事はビルメンについて深堀りをする内容ではないので、ビルメンの詳細な業務内容については割愛しますが、特にビルメンについて馴染みのない方に向けて、この謎の職業を簡単にご説明させていただきます。

皆さんが現在お住まいのご自宅をご想像ください。一軒家の方もいれば、マンションやアパート、ワンルームのようなコンパクトなお部屋の方もいると思いますが、「家に住む」というだけで何かとやらなくてはならないことは多くありませんか?

例えば、次のような仕事が挙げられます。

  • 部屋の掃除をする

  • 暗くなったら電気をつける

  • 暑いときや寒いときにエアコンをつける

  • 外出するときは戸締まりをする

  • 水道や電気料金などを支払う


これらは小規模な住宅やマンション、アパートであれば、自分一人でも完結できる仕事(=家事)ですが、規模が大きなビルや、総合病院、ショッピングモールなどでは、とても一人で対応できる内容ではありません。

そこでビルメンの出番です。

ビルメンとは、これらビルなどの建物の持ち主であるオーナーさんに雇われた、ビル管理会社の従業員のことを指します。オーナーさんに代わり、建物が快適に維持されるよう、常に監視・巡回・メンテナンスなどを行う、いわば「縁の下の力持ち」の存在なのです。

一般的に、普段これらの建物を利用していて、ビルメンの存在を意識したり、ビルメンの仕事内容に注目するような方は少ないと思いますので、どちらかというと裏方仕事がメインのビルメンですが、私はビルメン時代、この仕事が本当に自分に向いていたなと、今になってつくづく感じます。

その1つ目の理由として、ビルメンの業務内容には「正解がある」ということが挙げられます。

ビルメンの仕事は現場によって多少違いはあるのですが、基本的には、建物のオーナーさんとの契約により、業務内容がはっきり決まっています。例えば、

  • 1週間に1回、水道水の安全検査をする(残留塩素測定)

  • 1ヶ月に1回、空調機のフィルターを清掃する

  • 1ヶ月に1回、電気設備に不備がないか点検をする

  • 2ヶ月に1回、空気の汚れ具合を測定する(空気環境測定)

  • 6ヶ月に1回、排水管の汚れを洗浄する


など、事前に作業スケジュールを組み、現場のマニュアルに従って行う業務がほとんどで、その「正解」を追求する仕事と言えます。

なので、例えば営業マンのように、

先月は売上目標が80%だったけど、今月は120%達成だ!


などといった結果のムラは存在せず、

常に0か100かの世界です。


もちろん、ビルメンと営業マンの仕事は比べるものではありませんし、どちらが正しいとか優れているということもありません。結局は働くその人にとって、どちらがマッチしているかという問題ですが、私は確実にビルメンの方が自分には向いていると感じています。

また、これらビルメンの業務の中には、法律上、必ず行わなければならないものもある、ということも大きいです。

はっきり言うと、ビルメンの仕事は特別難しいものはほとんどありません。「誰にでもできる」と言うと聞こえは悪いのですが、しかしながら、様々な法律により「〇〇ヶ月に1回、必ずやらなければいけませんよ」と決まっていることは非常に大きいです。オーナーさんのさじ加減で、法定業務をビルメンにやらせたり、やらせなかったり、また意図的にやらせないことより、ビルメン会社に支払う費用を安く抑えようとしても、法律がそれを許しません。法が味方についているというのは、安心感が違うと思います。

そして、業務によっては、担当するビルメンが特定の資格を持っていないと行えないものもあります。

その一部を例に挙げると、

  1. 二級ボイラー技士

  2. 乙種4類危険物取扱者

  3. 第三種冷凍機械責任者

  4. 第二種電気工事士

  5. 消防設備士(1類~7類)

  6. 建築物環境衛生管理技術者

  7. 第三種電気主任技術者


などがあり、特に「1~4」に関しては、通称「ビルメン4点セット」と呼ばれ、ビルメンとして仕事をするなら必ず揃えておきたい基本的な資格と言われています。

つまり、誰にでもできる簡単な仕事であると思われるビルメンにも、実は一定のハードルがあるのです。安易な気持ちでビルメンを目指す無資格者に対し、真剣にビルメン業界に入りたいと目指す人にとっては、真面目に勉強して資格を取得しビルメンとして採用されやすくなるため、努力が報われやすい世界とも言えます。特に「ビルメン4点セット」や「消防設備士」に関しては、真面目に努力さえすれば、基礎知識がなくても誰にでも取得できる資格ですので、そこまで尻込みする必要もありません。

私自身、特別勉強が好きなわけではありませんが、人並みには努力できる方だと思いますので、先述の資格も、7の「第三種電気主任技術者」以外は全て取得しています(電気主任技術者は本当に難しい……泣)会社によっては、資格保有者には資格手当を支給してくれることもありますので、取っておいて損になることは一つもないと思います。

こういった、私のような人間にとってはメリットだらけのビルメンですが、私にとって唯一のデメリットを挙げるとするならば、

給料が安い。


これ一択です。

もちろん会社にもよる部分はありますが、ビルメン業界自体そんなに稼げません。年収で400万円を超える会社はかなり稀な存在と言えるでしょう。なぜなら、先程も書かせていただいた通り、建物のオーナーさんと、ビルメンが所属するビルメン会社との間では、ビルメンにどんな業務をさせるのか、その内容があらかじめ決められており、それにより管理費も固定されてしまっているからです。

先程の営業マンの例で言うと、

今月は会社の売上が200%を超えたから、特別ボーナスを支給します!


といったようなことはなく、あくまでも決まった管理費の中からビルメンの給料が割り当てられるため、月々の給料が大きく上がったり、ボーナスを期待したりといったことは、まず考えない方がいいでしょう。もちろん、最低賃金のアルバイトをするよりは稼げる会社がほとんどですが、ビルメンとして食べていくことにより、


日本の平均年収には及ばない。


という現実は覚悟しておく必要があります。

私は、仕事の適性やストレスの少なさと、給料の低さを天秤にかけたうえで、最終的に収入を充実させるため、ビルメンの仕事から離れる選択をしましたが、実のところ、今になってこの決断を後悔しています。

恥ずかしながら、私は「人生はお金ではない」というのは綺麗事だと思っていたのですが、これは本当のことでした。もちろんこういった考え方は人それぞれですし、私と違った意見の方を否定するつもりはこれっぽっちもありません。しかし、多くの時間と精神を削ってある程度のお金を稼ぐことよりも、私は、多少お金に余裕はなかったとしても、のびのびと自分の適性を活かしストレスの少ない生活を送る方が、はるかに幸せだったことを、今になって痛感しています。

現在私は、いわゆる「ビルメン会社」とは違った企業に籍を置いていますが、仕事でいろいろなことが重なり、うつを発症してしまいました。現在は休職中で、自分を見つめなおす時間をたくさんいただくことができ、結果的には良い経験だと思っています。

これから先、自分の未来がどうなるのかは全くわかりませんが、将来的にはもう一度ビルメンを目指してみたいと思っています。手にしていたときには当たり前に感じていたビルメン時代の日々を、今はとても愛おしく思うのはとてもわがままなことだとは重々承知しているのですが、私が譲れないのはただ一つだけ。

後悔のない人生を歩みたい。

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