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患者からみた緑内障治療・線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)その5【チューブシャント術編】

最終手段の提案

8月終わりの日。7月中旬から本格化した僕の緑内障手術は終わりが見えません。7月末はレクトミー後なんとか退院していましたが、8月末は病室で迎えることになり、気分は暗澹としていました。家では妻が子供ふたりのワンオペと仕事を必死にこなしています。なんとかしたいものの、この高眼圧・パラセンのループから抜け出せなければ退院もできません。
夕方の診察。担当医のI先生から、予想していなかった提案がありました。
「原さん、明日夕方、S(院長先生)の執刀で、アーメドバルブを挿入しようと思います。」
ステロイドが使えず、ブレブを再建しても再癒着の可能性が高い。レクトミーをリトライするのではなく、別のアプローチをとろうという提案でした。夏の終わりに、ようやく希望の光が見えました。

チューブシャント手術

緑内障のチューブシャント手術、それは日本の保険診療で受けられる観血的手術(出血を伴う手術のこと)のうち、「最終手段」として用いられる方法です。公的医療保険の対象となっているのは、2011年に認可されたバルベルトと、2014年に認可されたアーメドバルブの2種類です。

両者とも基本的な仕組みは共通しており、眼の奥にシリコン製でプレートのついたチューブを留置し(なのでインプラント手術の一種です)、片方を前房または硝子体内に、もう片方を眼外に差し込みます。前房または硝子体内の房水はチューブを伝って眼外に排出され、周辺の組織に自然吸収されます。ブレブのように眼内に存在していたものが露出しないので、術後感染症などの合併症リスクが低い手術である一方、歴史が浅いため長期的な安全性は今後にゆだねられることになります。バルベルトとアーメドでは、以下のような違いがあります。

  • バルベルトの方が術後眼圧が低めである。

  • アーメドには調整弁があり低眼圧の場合にはチューブに房水が流れないので、調整弁のないバルベルトに比べて低眼圧合併症リスクが低い。

  • バルベルトの方がプレートサイズが大きいため、眼球運動障害が相対的に起きやすい。

アメリカでは既に手術の第一選択肢になりつつあると聞いていますが、日本の緑内障診療ガイドラインでは、なお初回手術においてはチューブシャントではなくレクトミーを行うことが弱く推奨されています。チューブシャント手術は、レクトミー不成功事例や、結膜の状況が悪くレクトミー適応にならない事例などに限定して行われています。

最後の手術


4月のロトミーからスタートして4度目の手術。レクトミーに比べて侵襲度の高い手術であるため、今回は点眼麻酔・テノン嚢下麻酔に加え、不安を軽減させるセルシンの点滴も行われました。滴下が始まり1~2分で効果が出始めたら、手術の開始です。
まず、出血の残る眼内を丁寧に洗浄。その後、アーメドバルブの挿入です。7月のレクトミーで眼の上方耳側という標準的な挿入位置は使用していたため、今回の挿入位置は眼の下側になりました。痛みもほとんどなく1時間ほどで終了。術後ベッドで病室に移動し、しばらくの安静。ようやく、高眼圧とパラセンのループから抜け出した瞬間でした。

おわりに:今後のこと

おかげさまで、術後10日が過ぎ、眼圧も正常値に戻りました。とはいえ、難治眼・重症例です。これからどうなるかはまだまだ予断を許しません。
国内で保険診療でできる外科手術は、チューブシャントまでです。術眼の状況によっては複数個の挿入も可能ですが、レクトミー済の僕の場合、どうなるかはなんともいえません。まだ42才なので、今後シビアな状況が訪れるのかも知れません。患者としては、医療知識をアップデートしつつ、できる治療を納得の上受け続け、少しでも長く自分の眼で見える状態を維持したいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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