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ワンメーターじゃないけれど

孝子:倍賞千恵子
稲村(タクシー運転手):渡辺いっけい

(雪がちらつく薄暗い空港のバス乗り場。孝子は黒いコートを着て、少し大きめの旅行鞄と、白い菊の花束を持っている。寒そうに肩をすくめている。他の乗客もまばらで、皆疲れた表情。アナウンスが流れている。「…市内方面行きのバスは、ただいま遅延しております…ご利用のお客様は、今しばらくお待ちください…」風の音。)

孝子:(独り言、小さくため息。白い息)本当に寒い…バス、まだかしら。早く帰りたい…(菊の花束を抱きしめる)

(そこに一台のタクシーがゆっくりと近づいてくる。運転手の稲村が窓を開けて孝子に声をかける。少し甲高い、しかしどこか温かみのある声。)

稲村:お客さん、どちらまで? 市内方面ですか?

孝子:ええ、市内までなんですけど…バスを待っているんです。遅れてるみたいで。

稲村:この寒空の下、バス待ちも大変でしょう。それに、そのお荷物と花束…もしよければ、市内まで半額でお送りしますよ。

孝子:えっ? 半額ですか? でも…そんな…

稲村:ワンメーターじゃないけれど、今日は特別サービスです。それに…(花束を見て)…大切な方とお別れだったんですね。

孝子:(目を伏せて)…はい…妹が…

稲村:…それは…お気の毒でした。心よりお悔やみ申し上げます。こんな寒い中、バスを待たせるのも忍びなくて。どうです? 少しでも暖まって、ゆっくりお帰りになりませんか?

(孝子は少し迷う。逡巡する表情。再びアナウンス。「…市内方面行きのバスは、大幅な遅延が見込まれます…代替輸送の手配を行っておりますが、運行開始まで時間を要する見込みです…」)

孝子:(意を決して)…では…お願いします。

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