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映画『オデッセイ』から勇気をもらう!

今回から不定期に、映画紹介をするコラムのような連載を始めてみようと思っています。こども学部の「歴史入門」や「アメリカの生活と文化」という科目で、映画を使って文化や歴史を講義している教員、岩本裕子(ひろこ)による、映画コラムをお楽しみ下さい。
2016年6月14日(https://www.urawa.ac.jp/staff/iwamoto/the-martian/)の記事を転載しています。


期待しないで映画館へ行き、予想外の感動

今年(2016年)2月に公開された映画『オデッセイ』を映画館で観ましたか?すでにDVDも発売されているようですので、未見の方はぜひご覧になってみて下さい。「『オデッセイ』観た?とてもいいから観に行って!」と言い続けてきたので、このようなコラムを書き始めることになりました。

アメリカ合衆国でも、こうした「口コミ」で人気が出て、多くの人たちが観た結果、アカデミー賞で沢山の賞の候補になった作品です。

地球と火星が2年2ヶ月ぶりにもっとも接近すると言われた5月31日夜に「スーパー・マーズ」を見ましたか?関東地方は厚い雲に覆われたので、なかなか見ることは難しかったですね。どうも‘Super Mars’という表現は、英語では使われていないようなので、「和製語」かもしれません。

太陽系では地球のお隣の惑星である火星には、タコのような風貌の火星人がいる、と思われてきました。前世紀公開のティム・バートン監督作品『マーズ・アタック!』(Mars Attack! 1996年)では、しっかりタコの風情の火星人を観ることができました。その「火星人」を意味する The Martian を原題とする、アンディ・ウィアーの小説が翻訳されて『火星の人』という邦題で出版されました。本学図書館にも所蔵されていますので、どうぞ借りて読んでみて下さい。力と勇気をもらえますよ!

日本語のすばらしさが生かされた邦題『オデッセイ』

(C)2015 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved

この小説が映画化され、『オデッセイ』という邦題で公開されたのでした。『オデッセイ』とは、高校世界史の教科書では「ギリシャ文化一覧表 文学」の表で、ホメロスの作品の一つ『オデュッセイア』とだけ書かれていて、暗記した人も多いことでしょう。『広辞苑』には、「『イリアス』とともにホメロス作と伝えられる古代ギリシャの長編叙事詩。トロイア戦争から凱旋の途中、オデュッセウスが遭った10年間の漂泊と、不在中、妃ペネロペに求愛した男たちに対する報復とを述べる。オデッセー」という説明がなされています。

つまり、10年かかったものの、出かけた男が故郷に帰ってくる、と言う話で、このタイトルだけで、火星に取り残された主人公は、無事に帰還するであろうことは容易に想像できるのです。ここ20年以上、ハリウッド映画の原題をそのままカタカナにするような邦題が続き、日本語のすばらしさが全く生かされていないことが多く、残念に思ってきましたが、今回はカタカナの邦題ながら、「あっぱれ!」をあげたくなる題名でした。

『オデッセイ』は2015年のアメリカ合衆国のSF映画で、リドリー・スコット監督作品です。火星に一人置き去りにされた宇宙飛行士、マーク・ワトニーを演じるのは、マット・デイモンで、彼の生存をかけた孤独な奮闘と、彼を救いだそうとする周囲の努力を描いた2時間半に及ぶ作品です。

実際は3時間半だったそうで、1時間分縮めたので、理系に興味を持つ人たちにはわかりづらかったことを、知りました。今回、このコラムを書くために、ネット情報を確認しましたが、興味深い『オデッセイ』解説や、その解説での多くの人たちのやりとりも読むことができました。宇宙学の専門家や、理系に長けた人たちのやりとりは大変勉強になりました。ここでは、それらに言及する余裕はありませんので、理系の興味は、ネット上で満足させてください。

歴史事実に基づく映画を中心に見続けて、映画に関する本を4冊書いてきた筆者にとって、SF作品はほとんど視野に入ることはなく、観ることも少ない領域でした。最初に「全く期待しないで映画館へ行き」と書いたのは、こうした理由でした。

ジャガイモの偉大さ

火星で生き延びる(サバイバル)様子を、様々な理系の知識はなくても、楽しんで見ることができ、「人間はジャガイモだけで生きられるのだ」と感心したものでした。ジャガイモは16世紀にアメリカ大陸から初めて、スペインに渡り、フランス、ドイツへと広がり、ヨーロッパの人たちの食料となってきました。フランス語では「ポム・ド・テール」(大地のリンゴ)と呼びます。「フレンチ・フライ」と呼ばれる揚げジャガイモは、フランス人がステーキの付け合わせに使うメニューです。ジャガイモはどのように調理してもビタミンCが損なわれないという利点を生かして、フライにしているのでしょう。

1840年代にアイルランドで起きた「ジャガイモ飢饉」が多くのアイルランド人たちをアメリカ合衆国へ移民させたことは、世界史の教科書にも出てきますし、私の歴史入門でも講義しています。最初の移民から四代あとの1961年に、カトリック教徒で唯一の大統領を輩出したのが、ケネディ家でした。余談ながら、アイルランド系アメリカ人の講義では、映画『タイタニック』の三等船室の場面を見せています。

”I got him!”

映画『オデッセイ』の話に戻りましょう。なんとも感激的なのは、クライマックスのマーク・ワトニー救出場面です。原作にはないそうですが、ヘルメス号の女性船長ルイスが救出に向かいます。火星探査宇宙船でありながら、水星を意味する「ヘルメス」(Hermes)と名付けるとは・・・。ヘルメスとは、ギリシャ神話に登場する旅や商売を司る神の名前で、水星の英語名でもあります。同じ神のことをローマ神話では、マーキュリー(Mercury)と呼びます。アメリカ合衆国の一人乗り宇宙船は、マーキュリーと名付けられていました。

(C)2015 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved

さて、この女性船長ルイス役のジェシカ・チャステインのために作られた場面とも言われていますが、このクライマックス場面で、大いに感激して実は、かく言う筆者は久々に号泣してしまいました。宇宙空間でワトニー飛行士を捕まえるために、手に汗握る救出場面でした。ついにワトニーを捉えたときのルイス船長の”I got him!” の台詞は、今でも耳に残っています。思わず拍手したくなるほど、感激しました。

史入門の初講義では、女子大生たちに「女性として誇り高い、勇気をもらえる場面だったよ!」と説明したのでした。このジェシカ・チャステインという女優は、映画『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』(2012年)では、人種差別を受ける黒人女性家政婦に、好意的な態度を示す白人女性の役柄で、アカデミー賞助演女優賞候補となりました。また、翌年の『ゼロ・ダーク・サーティ』では、オサマ・ヴィン・ラディンを確保するCIA職員を演じて、主演女優賞候補にもなりました。役柄によって見事に演じ分けるこの女優は、ルイス船長を淡々と理性的に演じながらも、仲間を置き去りにしてきたことに悩む心の葛藤を演じていました。

DVD鑑賞では2Dなので不可能なのですが、この映画を劇場で4Dで観たという学生からは、「大砂嵐の場面では、砂のような臭いがしたり、霧の場面では霧を実感できた」ことを聞きました。映画も進化したものです。3Dの眼鏡をかけることが苦手な私は、2Dばかりを選んで観ています。

いつもは読書をしない人たちも・・・
いつもは映画を見ない人たちも・・・

(C)2015 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved

この映画紹介を読んで下さったみなさんが、映画『オデッセイ』を見て、ワトニー宇宙飛行士が一人残された火星で、ときに大地の遠方を眺めて、物思いにふける場面を見て、彼が何を考えているのか想像してほしいと思うのです。一年半という長い間、決してあきらめずたった一人で生き残る、その勇気と知恵を確認してほしいのです。

前述したネット情報検索で、次のような叙述を見つけました。「映画のエピローグはとても良かったですが、それでも原作の最後の一文のほうが私は感動しました。原作の最後の箇所だけでも読むことをおすすめします」と。

いつもは読書をしない人たちも、原作の最後の一文を読んでみてください。いつもは映画を見ない人たちも、映画を全部観てみましょう。あなたに「勇気」をくれることだけは間違いありません。心に栄養をくれ、心を元気にしてくれる、「さあ、私も頑張ろう!」と思わせてくれる映画『オデッセイ』を紹介しました。では、また次回!

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