わたしが切りとった棚田のショートストーリー【冬-春編】
たけしくんと結婚するまで、冬の田んぼに足を踏み入れたことはなかった。
冬の田んぼでたけしくんは何をしていたのか?
少しずつ、わたしも知ることになった。
たけしくんは、田んぼに住む生き物たちのフィールドを整えていた。
しんっとした静寂の中、
冬の日差しに映し出される棚田はなんとも言えず美しい。
田んぼの中を歩くと、そこはしっかりと固く、新鮮な感覚。
鳥の鳴き声をバックに、畦を補修するためのスコップの音や、鍬の音がリズムを奏でる。
田んぼに水を入れるまで
その準備をしているたけしくんは大変そうだけど
側で見てるだけのわたしには、その風景と時間がとても心地よく感じられる。
自分のリズムと一体になって、自分自身がクリアになっていくのではないだろうかと思う。
2月に田んぼに水が入ったら、舞台が整いましたよという合図。
待ってましたとばかりに
卵を産みにくるアカガエル。
水の中で飛び跳ねるトビムシの姿。
目に見えなかった生き物たちから
目に見える生き物たちへとバトンが渡されて
静かだった田んぼが春に向かって
少しづつ動き出していく。
そして新緑の季節、
生き物たちと協力して最高の舞台が用意され
いよいよ主役のおでまし!
ひとりでこの舞台に立つまでに
イネの本質に添って、
イネ本来の姿を最大限に引き出すように
健やかに育てられた苗。
固い土の中に、自分自身でしっかりと根を張っていく…
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no till rice farming“tanada”winter-spring
(夏-秋へと続く)