見出し画像

あぁ…サイゼよどこへ行く〜わたしのパルマ風スパゲッティ記〜

チーズが変更した後のパルマ風スパゲッティ
よく知るパルマ風スパゲッティ
チーズをたっぷりかけたパルマ風スパゲッティ
復活したパルマ風スパゲッティ

”その”スパゲッティに出会うまでは、私の中ではスパゲッティ=給食に出てくるブヨブヨとした麺だった。甘いケチャップソースに絡まった、すぐ歯で千切れる柔らかいソフト麺。イタリア料理なんて出てこない家庭だったので、それがイタリアの味として刷り込まれた。

その勘違いから解放されたのは、通っていた高校の帰り道にあったサイゼリヤでパルマ風スパゲッティを食べた時だった。

今でさえ見慣れた内装も初めて来店した時は、どこか高級店に入ったのかと思うほどだった。仕切られたテーブルに座り心地のよいソファー席、目を惹くダヴィンチの名画に店内で流れるカンツォーネ(イタリア民謡)。異世界のような空間でとても緊張したことを覚えている。

しかしメニューを見れば、高級感はどこへやら、どのメニューも格安で提供されていた。極めつけはミラノ風ドリア299円。イタリア料理=高級というイメージは完全に払拭され、学生のお小遣いでも豪勢に飲み食いできるのである。

子供の頃はとにかく和食(米はそのまま食べた方が美味しい派)が好きで、バターやチーズの乳製品アンチだった私はドリアという意味不明の料理を避けて、パルマ風スパゲッティにすることにした。エスカルゴとかイカ墨パスタとか意味不明な料理が並ぶ中で安牌を取ることにしたのだ。

それから人生が狂った。
イタリア料理が大好きになったしチーズ嫌いも克服した。
第一にトマトの美味しさに気づいてしまったのがいけない。
トマトの持つ酸味と甘みと青臭さ。それが肉やチーズ、はたまた香辛料と相性が抜群なのだ。

パルマ風スパゲッティはそれらをすべて持ち合わせている。
濃厚だがくどくないトマトソースに塩味の効いたぷりぷりパンツェッタ、コクのあるほろほろとした食感の粉チーズ、そして全体を引き締めるタバスコの辛味と酸味。いわば総合芸術だった。

サイゼに行けば頼むのはパルマ風スパゲッティ。
パスタと肉とトマトがこんなにも効率よく摂取できるメニューはそうそうない。それにパスタを食べ終わってからも美味しい。唐辛子フレークやオリーブオイル、粉チーズを振りかけて余ったソースをフォッカチオに浸して食べると頬っぺたが落ちる。

それなのにパルマ風スパゲッティの歴史というのは劣化・改悪の歴史なのだ。

まず店内からタバスコが消え、よくわからない甘いホットソースに代わってしまった。辛さが欲しいのに中途半端な甘さのある酸っぱいソースになったのだ。これではパスタの味が際立たない。

次にチーズが変わった。雪のようにふんわりとした粉チーズから短冊状に細かくスライスされた意味不明なチーズになった。料理の熱で溶けてくれればいいのにそうでもない。口の中に糊とか粘土の類をそのまま放り込んでいる感じがする。

それからパンツェッタが消えた。パルマ風スパゲッティの要であるパンツェッタがイタリアで豚の病気が流行ったかなんかで輸入が禁止されてしまった。つまりはパルマ風スパゲッティ自体も消滅。ここで私の青春は潰えたといっていい。

しかし2023年パルマ風スパゲッティが突如として復活した。
おかえり私の青春。興奮を抑えられず発売開始日にサイゼに駆け込んだ。
そのために運動までしてお腹を空かせ、過去最高に美味しい状態で食べられるはずだった…

それなのに現実は非情だった。
まず、パルマ風スパゲッティを美味しく食べるための調味料である唐辛子フレークや粉チーズがなくなったと知る。

私は容量用法を守って使っていたのに、ドバドバかけるアホのせいで…といいたいところだが、サイゼは近年コストカット思考なのでお金にならないものは悉く切り捨てられる。幸い粉チーズは有料だ。唐辛子は本当に死んだ。

そんなコストカットの影響はパルマ風スパゲッティにも及んでいた。
まずはパンツェッタ、これが美味しくなくなっていた。
イタリア産から国産パンツェッタに……

このパンツェッタがあんまり美味しくない。脂身が少なく筋張っていて、身のプリプリ感がなく、肉自体の味も感じない。それなのに量が極端に少ない。

従来のパルマ風スパゲッティにはしつこい!と思うくらいにゴロゴロ入っていたパンツェッタが数えてみると6個しか入っていなかった…悲しい…パスタの歯ごたえとパンツェッタの歯ごたえを同時に楽しむのが通だったのにパスタ肉パスタ肉ではなく、パスタパスタパスタ肉なのだ。

それにソースも前より薄くなったというかトマト感が強めで甘みとコクが減った気がする。これだとホットソースや唐辛子フレークにも合わない。

その代わりといってはパスタが多く感じた。パンツェッタがない分なのかもしれないが、ガッツリパスタを食べたい人にはオススメである。というかポモドーロにベーコンちょっと入れましたって感じなのかもしれない…

あぁパルマ風スパゲッティよ、お前は変わってしまった

サイゼリヤはコロナ禍で遠ざかった客足が伸び過去最高益を更新した。
中国などのアジア需要が高いのも原因だろう。そしてコストカットを実現した来期はさらに上がることが予想されている。

今日本は円安や布教、増税の影響で苦しんでいる。
しかしサイゼリヤは輸入が痛手となっても価格を変更することはない。
それは国内事業が営業赤字であってもだ。安く提供するために少しずつクオリティを落としていっているのだ。

パルマ風スパゲッティは記憶の中のパルマ風スパゲッティではもうない
だけれども、これが今の日本経済の味であることは確かだ。
私はサイゼに学生時代の思い出を食べに行っていたのかもしれない。
変わらないものなどどこにもないというのに。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?