海外レポート:TSW(テクノロジー&サービスワールド)2018 in ラスベガス
こんにちは! Customer Success Japanを運営する弘子ラザヴィです。
10月15~17日、米国ラスベガスで開催されたTSWに参加しました! 初めてのTSWでしたが、想像以上に学びがあり、沢山の人と出会い、ビジネスへの成果もあって大満足。来年も絶対こよう!と決心しました。
私なりの発見トップ3をご紹介します。
はじめに:TSWって何?
日本では無名のTSW(Technology & Service World)ですが、米国ではテクノロジー企業ないしサービス企業で働く人で知らない人はいないカンファレンスです。
TSIA(Technology Services Industry Association)社主催で年に2度、春はサンディエゴ、秋はラスベガスで開催されます。対象はテクノロジー企業ないしサービス企業で、生まれたてスタートアップから、IBMやGEという伝統的大企業までさまざまな顔ぶれの数千人が集まります。
ソリューション会社主催のカンファレンスではないため、参加企業や展示企業の偏りがなく、プロダクトの売り込みプレゼンもなく、Dreamforce的なお祭り的熱狂もなく、とても中立かつ真面目にテクノロジー&サービス産業の展望を議論する(人たちが出会う)場です。
初参加した所感は、職位レイヤーの高い人が多い!でした。平たくいうと、体形的にも髪型的にも貫禄あるテクノロジーなおじ様ばかり(笑)。ビジネススーツな人が多く、シリコンバレーに多数生息するデニム&Tシャツな若者は見かけませんでした。参加費が定価30万円、ラスベガスの宿泊と移動を考えれば40-50万ですから、ターゲットは経営層なのが明快です。
意外だったのは女性が少ないこと。スピーカー約200名うち女性 35名(18%)、キーノートスピーカーに女性はいませんでした。参加者の女性比率も1-2割、雰囲気も “テクノロジー”な人たちの印象です。ちなみに、カスタマーサクセスの世界最大カンファレンス Pulse は参加者含め女性は4-5割、割と華やかな人の多い印象で、キーノートにも必ずカッコいい女性が複数登場します。
発見1)ビッグ C:カスタマーセントリックな企業文化の重要性があらゆる場で強調される
「ビッグC、スモールC」「2つのCの大きいほう」という表現を今回初めて耳にしました。以下の超シンプルなTSIA独自フレームワークのことです。
TSIAのカスタマーサクセス・プラクティス責任者 フィルさんのセッションに参加した時のことでした。
同プレゼンでは2つのCが説明無しで議論されていて少し焦りましたが、後から聞いて合点しました。
要は「ビッグC」は全社レベルで実現するカスタマーサクセスの「C」。即ち、全社員のマインドセットに染み込んだカスタマーセントリックな企業文化や、全社で実現する組織能力としてのカスタマーサクセス機能、そして組織横断な業務プロセスを指します。
一方「スモールC」は、カスタマーサクセスチームのレベル、またはカスタマサクセスマネジャー1人ひとりのレベルでの役割と責任、そして個々の業務レベルのカスタマーサクセスの「C」です。
どちらも非常に大切な上で、「ビッグCの成功無くして、スモールCの成功は絶対あり得ない」が重要なポイントです。ですので、この「2つのC」と言う時は必ず ビッグC の重要性を説く話が続きます。
ここまでが前書きです… 汗。
このサイト(Customer Success Japan)でも、カスタマーサクセスはカスタマーセントリックなマインドセットそのもの、という記事を紹介している通り、ビッグC という概念自体は特段目新しくありません。
私にとって驚きを伴った発見は、幅広くテクノロジー&サービス事業をカバーする割と堅めなTSIA社が、カスタマーセントリックな “文化(ソフトイシュー)” の重要性を、独自フレームワークを生み出してまで強調している点でした。
以下はフィルさんが同プレゼンで引用した Amazon CEO ジェフ・ベゾスの言葉です。
私なりに訳すとこんな感じ:
“カスタマーオブセッション:競合優位、プロダクト優位、テクノロジー優位… 他にもいろいろ、自社事業の強みの拠り所を考える選択肢は数多くある。けれど僕の中では「狂ってると言われるレベルで、カスタマーにとって無くてはならない存在になることを考える(Obsessive Customer focus)」ことこそが、創業初日(デイ・ワン)から1ミリも揺るがない自信をもって事業展開できる唯一の選択肢なのだ “
このように、彼らが ビッグC と言う時は、カスタマーセントリックな企業文化、即ち、カスタマーにとってそれ無しでは仕事/生活が成り立たない無くてはならない存在になること、を究極の目的に据えて社員一人ひとりが行動する、そういう企業文化が何より大事、という想いが込められています。
今回のTSWでは、フィルさんのプレゼンに限らず数多くのセッションで同じメッセージを繰り返し耳にしました。
何より、企業文化そのものをテーマとしたセッションがTSWにあること自体が新鮮な驚きでした。
上記はカスタマーサクセス界で有名なシスコの デビッド・サカモトさん(トップストラテジスト100名の1人)のセッションで、ズバリ「カルチャー:成功するアダプション戦略の秘訣」。カルチャーの重要性、醸成のステップ論と、シスコでの経験を紹介されました。
他にも SAPやマイクロソフトなど、大企業のスピーカーさんほど企業文化の重要性を力説されていました。
更に感動したのはカンファレンス終了後に届いたメールでした。毎回の恒例で、2日目の100近いセッションの中から参加者評価に基づく人気トップ5セッション(キーノート除く)の発表があります。
なんと今回の1位は・・・
カスタマーサクセス: 会社全体で取り組むべき活動
Customer Success: An Entire Company Effort
カスタマーサクセスが1位なのが驚き、加えて「全社挙げて推進したカスタマーサクセスの成功事例」を紹介するセッションが人気No1 なのがとても印象的でした。
このようにテクノロジー&サービス業界という幅広な世界の中で、利益ある成長を目指す人にとり「カスタマーセントリックな企業文化は超重要」は米国でも強調し尽くせない点なのだ、が改めて目うろこな嬉しい発見でした。
発見2)エンプロイーサクセス:ピープルイシューがメイントピックとして語られ始めた
2つ目もソフトイシューです。ただし「組織文化」は割とCEOイシューなのに対し、「エンプロイーサクセス/エンゲージメント」はもっとHR/ピープルイシューであり、そのレベルのソフトイシューまでTSWで議論が始まったか! が正直な驚きでした。
もちろんカスタマーサクセスの世界でも、カスタマーと直接接点をもつエンプロイー(即ち、カスタマーサクセスマネジャー)に焦点をあて、エンプロイーサクセスとカスタマーサクセスは両輪である、という議論はあります(参考「サクセスリーダーインタビュー: キャサリン・ブラックモア氏 Oracle」)。個人的にはとても関心を寄せている領域です。
一方、トピックスコープの幅広いTSWで、今回は「エンプロイーサクセス/エンゲージメント」がプレキーノートで語られ、続く分科会でも同関連トピックが7セッションもあるなど、本当に想定外に多かったのが驚きでした。具体的には以下の通り:
プレキーノート:
・Employee Engagement in the Era of Talent Wars
分科会:
・10 Critical Elements of an Employee Engagement Program
・Panel Discussion: Innovative Approach to Improve Employee Engagement
・Evolving the Support Employee Experience
・Employee Engagement: Passion Can’t Be Found in Your Head, It Lives in Your Heart
・A Journey from Transactional Product-Focused Engagements to Long-Team Workforce Development Programs
・Impact of Highly Engaged and Emotionally Connected Employees on a LAER Effective Company
・Case Study: Engaged Employees: Engage Your Customers
加えて、前述の人気トップ5セッションの堂々4位に分科会「10 Critical Elements of an Employee Engagement Program」がランクインしたのです!
同セッションは、TSIAの実施したリサーチ結果と、それに基づく彼らの提言がその内容でした。具体的な5つの提言は以下の通り:
1. 優秀な人材の争奪戦(Talent war)が始まっている。有能な人材に参画してもらい活躍し続けてもらうには、かつてなく激しい争奪戦が強いられると覚悟せよ
2. ミレニアル世代は伝統的な「雇用者 – 被雇用者」価値観に違和感をもっている。私たちは、採用・リテンションの考え方を根本的にバージョンアップしなければならない
3. 将来どんどん参画してほしい若く優秀な人材が、私たちとは全く違う新しい考え方や価値感をもっていることを決して無視してはいけない。もし無視したなら、会社はやがて競争力を失うと思え
4. 若く優秀な人材のニーズに対し会社がどう応じられるかを正面から考え、必要な個別イニシアチブを推進せよ
5. 進歩は常に HR /シニアリーダーシップへ共有せよ
… どうですか? なかなか核心をついた議論ですよね?!
この議論を聞いて個人的に思ったこと。それは、TSWは、AI技術など、プロダクトやサービスの進化を牽引するテクノロジーの話、そしてそんなテクノロジーを使ってどんな儲かるビジネスをするかという話に嬉々とするおじ様たち向けのカンファレンスですが、「テクノロジー」と「ビジネス」を議論すればするほど、結局は「人」の話に戻ってくる。戦略や方法論を議論するほど、それを実行する人の育成・動機付けの議論が必須になる、というバランス問題かな、ということでした。
ほっておくと最新の技術動向やビジネス展望、戦略論の話が先行しがちですが、決して「人」の話を忘れてはいけない、デジタル時代の新しいバランスへ急速シフトを遂げねばならない、というTSIAのメッセージのように感じました。
発見3)バーチカルリープ:利益ある成長を目指す企業戦略に貢献するカスタマーサクセスの戦術が議論されている
バーチカル(Vertical)という言葉は日本語であまり使われませんが、米国では頻繁に耳にします。特に今回のTSWでは熱い論点の1つでした。
バーチカルの直訳は「垂直」。垂直線(Vertical lines)とか垂直統合(Vertical integration)など、”たて” イメージがパッと浮かぶ言葉です。しかし「バーチカル市場(Vertical Market)」というと “たて” と少し違う意味になり、更にややこしいのは通常「市場」が省略されて単に「バーチカル」と言われる点です。
バーチカル市場とは、その世界にしか存在しない特有のニーズをもつ特定分野に限定された市場のことで、限定するがゆえ基本的にニッチ市場です。具体的には、保険、銀行、病院、運輸、航空、宿泊など特有ニーズをもつ分野のそこにしかないニーズに特化したプロダクト/サービス市場で、例えば、病院向けの電子カルテ管理サービス市場とか、ホテルの予約管理サービス市場などです。
今回のTSWでは「バーチカルリープ」という言葉を耳タコで聞きました。「バーチカル市場へ出ていくことで飛躍(リープ)する」で、基本的に理想の方向とされます。
「ニッチ市場へ進出して飛躍的に成長・・・できるのか?」と一瞬混乱する概念ですが、その裏にはTSIAのGo-To-Market 戦略フレームワークに基づく固いロジックが存在する(のを知っている必要がある)ため、初参加者には少々ハードル高いです。
今ここで「バーチカルリープ」の詳細説明はしませんが、個人的所感を補足すると、Amazonがいよいよ病院(バーチカル市場)へ進出するという今年のニュースはTSIAのバーチカルリープ論の勢いを補強しただろうと思いました。
ここからが発見3の本題です… 笑。
バーチカルリープが目指す理想の方向だとの前提で、そのバーチカルリープにカスタマーサクセスが貢献する具体的な方法が議論されていた!のが今回とても新鮮な発見でした。
バーチカルリープは「戦略」であり、戦略にそって「組織能力」を考える必要があるので、組織能力としてのカスタマーサクセスに貢献余地が大なのは理屈で納得です。しかし重要な点は、その具体的な方法論がTSWで議論されている、要は米国ではもうそれが実践フェーズに突入しているということです。
前述のフィルさんは、プレゼンの半分の時間を割いて「カスタマーサクセスはバーチカルリープに貢献せよ!」と主張していました。
そのポイントを以下にご紹介します:
(1) バーチカルカスタマーの成果に繋がるアクションをカスタマーサクセス手順書に盛り込め
(2) カスタマーセグメンテーションの分類軸に「バーチカル」を採用せよ
(3) 組織全体がバーチカルへ足並み揃えるような、カスタマーセントリックな企業文化を醸成せよ
(4) ターゲットとするバーチカル市場での経験と知見が豊富な人材を採用せよ
(5) バーチカルなカスタマーへはカスタマーサクセスを有料で提供するサービス戦略をもて
(6) ヘルススコア1.0(チャーン防止)やヘルススコア2.0(収益拡大)はさっさと卒業し、ヘルススコア3.0(カスタマーの成果)を導入せよ
ここで1つ1つの説明は割愛しますが、どれもとても興味深くて奥深い内容でした!
発見ポイントに戻すと、3つ目の目ウロコな、でも危機感・恐怖感を伴う発見は、テクノロジー企業ないしサービス企業の戦略としてのバーチカルリープ自体をまだほとんど議論してない日本に対し、米国では既に同戦略の議論が十分交わされ、それを是とした上で、その戦略を実行する組織能力としてのカスタマーサクセスの戦術論が議論されている点でした。
最後に:多様性&職位の高い人たちが集まる場は最高に刺激的
テクノロジー&サービスとスコープが広いため、サブカテゴリーが設定されてます。それを見ると本当に多様な専門をもつ人たちが集まるカンファレンスなのが分かります。
サブカテゴリー:
・カスタマーサクセス
・サポートサービス
・フィールドサービス
・マネージドサービス(Managed Services)
・プロフェッショナルサービス(Professional Services)
・教育サービス(Education Services)
・定期収益オファリング(Service Revenue Generation)
・収益拡大(Expand Selling)
・産業機器(Industrial Equipment)
・ヘルスケア(Healthcare)
多様なカテゴリーをカバーするため、分科会は同時に10セッションが並行して進行します。迷わないよう(それでも超迷いますが…)、各セッションにカテゴリータグがついていてフィルターをかけられます。それを見ると、カテゴリー特化な分科会がある一方、複数カテゴリーをまたぐアンブレラテーマの分科会もあり、どちらもそれぞれ示唆深いです。
このようにテーマは幅広な一方、参加者の職位は高めに均質です。各人の課題意識と責任のレベルが高い似た者同士、声掛けしてもハズレが少ないため(笑)、皆さん驚くほど積極的に時間目いっぱいネットワーキングしていました。
セッションの合間や朝食・昼食・ハッピーアワーの展示ルームでは当然のこと、エスカレータで隣に立った人、偶然横に座った人、ドア待ちで隣に立った人、とにかくどんどん話しかけます(かけられます 笑)。セッションのプレゼン内容だけでなく、そもそもどういう人・会社が来ていて、彼らがどんな課題・チャレンジを抱えてるのか、などの最新の口コミ情報を精力的に入手しようとしている様子です。
個人的に嬉しかったのは、気になっていたソリューション会社の展示ブースで偶然話しかけた女性がなんと同社の創業者(後から知った)で、直後のセッション参加中に彼女へメールしたところ、人を紹介してくれる即レスが届き、その日のうちに3日後のフォロー会議の日程調整まで完了した…. このスピード感!
正直、カスタマーサクセスな人間(私)として米国の目玉カンファレンスは Pulse なのですが、TSWは Pulseと色々な意味で異なり、個人的には「こっちの方がずっと好きかも…!!!」なカンファレンスでした(笑)。
というのも Pulseは最初から最後までカスタマーサクセス一色で、あそこにもここにも見知った顔のカスタマーサクセス仲間がつどい、お祭り/エンタメ要素が山盛り、楽しい “ホーム感” 溢れるマストイベントです。
TSWは、カスタマーサクセスが多様テーマの中の1つで、逆に普段知りあう機会の少ない人たち、それも職位高い人たちと出会える貴重な機会、コンテンツも異分野との混じり合いからの化学反応・目うろこ発見があり、知的に楽しくとても刺激的なカンファレンスです。
少し残念だったのは、今回最後まで日本人に一人も出会えなかったこと。こんな素晴らしいカンファレンス、ぜひ日本からも参加者が増えるといいなあと思いました。
ここまで読んで下さりどうも有難うございます!もしご興味をもたれたなら、ぜひ一度参加してみてください。来年ラスベガスでお目にかかりましょう!
(以上)
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