ピピ | 中国隔離day13
中国で隔離されているといった旨の投稿をインスタグラムにアップすると、程なくして中国人の友人数名から連絡が来た。
私は仕事やダンスバトルで中国には何度も行ったことがあり、友達もたくさんいたのに中国に来ることを誰1人として伝えていなかったのだ。
以前のnoteを読んでいただければわかる通り、渡航直前は呑気にメッセージできるような心境ではなかったから仕方ないが、逆の立場になって考えると、外国人の友達が日本に来ているのに私になんの連絡もくれなかったら「一本ぐらい電話くれよなぁ!」と思うはずである。私は彼らに全くなんの連絡もしてなかったことを少し反省した。
みんな口を揃えて「困ったことがあったら助けになるから頼ってくれ」と言ってくれ、番組で必要になりそうな中国の文化についての知識を教えてくれた者もいた。外国にもこうして私を気遣ってくれる人がいることを私は非常に嬉しく思った。
ピピという少年も、Instagramを見てすぐにメッセージをくれた。
彼はキッズのロックダンサーで、数年前から私のレッスンを何度か受けてくれている。とても素直で、勉強熱心な男の子である。既にダンスはめちゃくちゃ上手いし、バトルでも活躍している上、中国では有名な先生に習っているので、私から一体何を学ぼうとしているのかさっぱり謎だが、私のことを「ティーチャー」と呼んで何かと慕ってくれている。
彼はもうすぐ学校の試験があるらしく、今はその勉強が忙しいらしい。
試験が終わるまではダンスも思いっきりできないというので、ここはいっちょ、ティーチャーらしくやる気の出るような応援メッセージでも送ってやろうか。と、私は精一杯ピピを励ました。これもティーチャーの務めというもんである。
これには、「ティーチャー…!!有難う!!ティーチャーのメッセージのおかげで、僕、頑張れるよ!!」と言った感激の返信が来るだろう。「ふふ、これぐらい当たり前さ。なんてったって、私は君の"ティーチャー"なんだからね…。」と、まだ返信が来ないうちから私は台風の如く先輩風を吹き散らかしていた。
と思いきや、彼の返信は「うん頑張るよ。」と言った具合で、何ともあっさりしたものだった。
更に、「ティーチャーの方こそ、番組頑張ってね。番組でいい結果を残せることを楽しみにしてるよ!リラックスしてね。あなたは最高だよ。中国をたのしんでね。」といった100点満点中150点はあげたくなるようなメッセージが送られてきた。
ティーチャーはあんたの方だよ…。と私は胸を打たれた。
先程までティーチャー面して先輩風をビュンビュンに吹かせていた私は、実はとても緊張していることや、このような大会に出場するのは初めてなので非常に不安であることを情けなくもポロポロと打ち明け、このだいぶと歳下の少年に逆に励ましてもらったのであった。
次に彼に会うときはタピオカドリンクの一杯でもご馳走してやりたいと思うが、その前に逆にご馳走されてしまうような、そんな気もする。
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23:00ごろダンスの練習を終え、今日は結構いい練習ができたんちゃうかと私は清々しい気持ちでシャワーを浴びていた。
シャワーを終え、ケータイを見るとホテルからwechatでメッセージが入っていた。
「すみません、何か飛び跳ねてスポーツをしていますか?」
私は一瞬で練習中の自分の足音が下の階の部屋に響き渡っていたことを察した。
「ダンスをしていました。」なんて言えば下の階に響くほど1人で踊り狂っている怪しい女だと思われかねないので、「すみません、スポーツをしていました。」と、咄嗟にスポーティな女子を装った。
下の階の住人からうるさくて眠れないと苦情が来たので、夜間は運動を控えるようにと注意されてしまった。私ももう2週間ほど隔離されている身なので、ずっと閉じ込められている部屋が騒音に悩まされることの煩わしさは痛いほど理解できる。
ただでさえストレスが溜まりやすい隔離生活で、夜にドタバタと何やら大暴れしている女に睡眠を妨害された下の階の住人のことを思うと、非常に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
東京の自宅ではあまり音を立てぬよう気をつけて暮らしているけど、ここではいくらでもドタバタできるぜ、ヒャッホー!!と喜んでいた自分を恥じた。第一、ダンスが上手い人というのは足音がそこまでドタバタしていないものだ。結構いいダンスできたぜ。と思っていた自分についても大いに恥じた。
もうすでに虫除けスプレーやシャワーヘッドの破損、水の購入の件でホテルには散々ゴチャゴチャと言ってきたので、もう迷惑はかけまい。と誓っていたのにおそらく一番迷惑であろう騒音をぶちかましてしまった。
このホテルでの隔離もあと2日ほどで終了だが、チェックアウトの時に「こいつがあのゴチャゴチャうるさい上にドタバタ大暴れしていた女か…」という視線を向けられることを思うと既に憂鬱である。
できる限りの愛想を振りまいてホテルを後にすることを誓ったのであった。