スザニの刺し方(ステッチ)〜かぎ針のユルマ(1)
ユルマはいわゆるチェーン・ステッチのこと。中央アジアでは、普通の針で刺す方法と、レース針(細いかぎ針)で刺す方法の両方が見られます。
今回はかぎ針で刺すユルマについて。
かぎ針、ウズベク語ではbigiz
かぎ針をウズベキスタンではbigiz(ビギズ)と呼びます。なお、外国語あるあるで、カタカナではウズベク語の発音は再現できかねます、あしからず。
刺繍枠
さて、刺繍といえば、布を丸い枠にはめて刺すイメージかもしれませんが、中央アジアの人たちは基本的に枠を使わずに刺繍します。
ただし、かぎ針のユルマは別です。枠は、角材を組み合わせた角枠が基本形で、大きさは布の大きさ、作るものの大きさによってさまざまです。角枠の4辺に糸を渡して、あるいは画鋲のようなもので布をピンと張り、多くは床に座って刺繍します。布面は床面と並行です。
なお、日本で刺繍枠として販売されている丸枠も使われているようです。例えば、実見しておりませんが、アフガニスタン北部の人たちが家庭で丸枠を使ってかぎ針のユルマを刺していると聞いたことがあります。さらに、日本ウズベキスタン協会さんの現地講師によるスザニ講座では、径30センチ程の円形刺繍枠を使ってかぎ針刺繍をされたことがありました。
枠の形が角でも丸でも、その役割は布にテンションを持たせること。かぎ針をブスブス刺しますので、布がピンと張っていないと刺しにくいのです。
刺繍に使う糸は絹(シルク)
伝統的には刺繍には絹糸が使われます。と言いながら、ウールも見かけることがあり、19世紀の特定の時期だけは鮮やかな朱色のウール糸がインドからもたらされていたとソ連時代の研究者スーハレワは書いています。実際に19世紀スザニの中には、絹糸と特定の色調のみウール糸を併用した作例があります。
数年前に現地を訪問した際、「古いウールの刺繍は黒い羊の毛を使うために黒糸は欠失してなくなる」のだと説明を聞いたことがありましたが、19世紀のスザニで黒糸欠失部分の黒は絹糸でした。鉄媒染の黒は鉄の影響で傷んでボロボロだけどになるので、こちらが当たってる気がします。
絹糸じゃないスザニ刺繍もある
現代では絹糸ではなく、木綿で刺繍したものもありますので、入手する時はそれが何で作られているのか知った上で価格を見極めなけるべきです。
現代では絹糸やウール糸とは違って、輸入された安価な25番刺繍糸(木綿です)を使う工房もあるようです。独立後に活発化した伝統的な素材とデザインによるスザニの制作から、現代は観光客向けの素材も刺し方も別ものの安価な刺繍が増えてきたようにと感じています。インターネットではインド製スザニが売られていることがあり、スザニってなんだったっけ(?)となりました。しつこいようですが、入手する際にそれが何かわかって買うならそれでいいのだと思いたいです。
かぎ針でユルマを刺す
さて、ようやく本題へ。
布地に図案をペンで描いたら、木枠に布の四辺に糸をかけて張力をかけて張ります。布地を木枠に画鋲で固定したのを見たこともありました。
丸枠の場合も布地にはめます。
布地は床面に平行の状態で刺繍します。刺繍糸を玉留めし、かぎ針で裏側から表側に糸を出してスタートです。糸はループ状になっています。左手は布の下、右手はかぎ針を持って布の上に。表側からかぎ針をループの中に指して、裏側の手で糸をかぎ針に引っかけて表側にループを出すを繰り返すと、チェーンステッチになります。初めは裏側でかぎ針に糸をかけたり、引き上げにくかったりしますが、はっきり言って慣れです。そして、鍛錬しましょう。現地の熟練の方々はミシンと見紛うスピードと音で刺していかれます。
「布地を挟んでくさり編み」している感じです。言葉では説明しにくい、いや、説明下手ですみません。
では、次回はユルマを刺す順番を。またお目にかかりましょう。