ショーウィンドウの向こう側
タグを裏返して値札を見る勇気さえ湧いてこない高級ブランド。ただ眺めて造形の美しさに見惚れるだけのショーウィンドウの向こう側。なぜ手が届くなんて思ってしまったのだろう。穴が開くのは財布ではなく心。
風通しが良くて春風が心地よく吹き抜けていくならばまた幾分か救いはあるのだけれど、潮風が生乾きの傷口に滲みて痛みが増すだけ。無機質な真空にさらして乾かしたいのに、温かく湿った情の空気がいつまでもじゅくじゅくとかさぶたを造らせない。
唐突に涙がぽろぼろと流れ出せば言葉がなくてもこの気持ちが伝わるだろうに、涙栓は固く締められて作り笑顔は免許皆伝、ひきつるならば悟られるだろうに、秘めぬくことが巧すぎて、あぁ。
ショーウィンドウの向こう側、見惚れていればよかったのになぜ踏み込んでしまったのだろう。後悔を丸めて心の穴に投げ入れたら、かつん、からん、カラン、と空しい音を立てながら落ちて消えていって、空から石が降ってきて額(ひたい)をかすめていった。
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