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黒目のでかいOさん


これはヤってない話だが、一応エピソードトークとして成仏させるために書こうと思う。たいしたことではないので誰にも話したことすらない。

アメリカで育ったやつってのはやっぱり男も女も少し違う。

ある会社に勤めていたときのことだ。

年の瀬、忘年会が開かれていて、俺たちは部長や役員などを含めて、男性陣で組体操をさせられていた。2000年代に組体操。マジでひどい。しかもその時おれは右肩に膿が溜まってしまっていて、会社に隣接する病院で切開手術を受けたばかりで、組体操なんてやるべきじゃない。まさに肩に負担がかかる。というかその前に組体操を忘年会でやるとか地獄すぎるだろ。企画したやつ全員死ねばいいのに。生きるセンスねぇよ。

体が比較的大きい俺は、一番下になって、案の定、手術で切開した部位に上の誰かの手が乗ってきて、肩に猛烈な痛みが走って耐えきれなくなった俺がバランスを崩し、見事に上の全員が落ち、組体操は崩れた。

こう書いていると、本当に今が幸せだと感じる。

完全な幸福などないとしても、つまり相対的に、昔よりも幸福であればいいのだ。
人と比較するよりも、過去の自分と比較する。がんばらなかったパラレルワールドの自分と比較して、「まぁ完全な幸福じゃないし、そんなものは存在しないけど、昔や、がんばらなかった選択をした自分よりも今の方がきっとましだ」と消去法的に幸福を感じることも大人の所作の一つなのではないかね。

いずれにせよ、クソのような一次会が終わり、役員たちと別れ、20人ぐらいで二次会に行ったんだ。二次会はバグースみたいなところで、すでに酔っ払っていたからまだよかったものの、20人ほどの大して仲良くも認め合ってもいない人たちとビリヤードだのダーツだのをやるのはなかなかに大変というか、これも今考えると、いまはそんなことやらなくていいんだから本当にラクだぜ。今は自由と引き換えに孤独に感じることが多いが、孤独が自由に前提条件であるとも言える。

2人ずつでチームを組んで、3チームぐらいでダーツをしてたんだ。
おれはダーツは得意でも苦手でもなくて、まぁたまに真ん中近くに入ったらラッキーてなもんで、あの円周の細いところに入れられるような技術など到底持っていなかった。

だからその日、おれの投げたダーツが、あのど真ん中の赤いところに入ったり、細いところ(3倍?)に何度も入ったのはただの偶然なんだ。入れようとすらしていない、狙ってすらいないんだそもそも。酔ってたし、肩も痛いしな。

でもその時にチームを組んでいた隣の部署のOさん(おれより6歳ぐらい下の女性)は狂喜乱舞した。Oさんは小学校高学年から大学までアメリカに住んでいたという、まぁ文化圏的には9割方アメリカ人の女の子だった。ツンとした顔をしていて、けっこうその組織の中では目立っていたし、狙っている人も多いと聞いた。同時に、よく既婚者と不倫するという噂も聞いていた。

Oさんは黒目をでかく見せるカラーコンタクトレンズを付けていて、見つめられるとおれはなんとなく怖くて苦手だった。あれは多分、遠目から見て黒目がデカくなって綺麗に見えるんだろうと思う。バレリーナとかサーカスのメイクみたいなもんでさ。あれ近くで見るとほんと爬虫類みたいで怖いよ。あれ付けてる女子、辞めた方がいい。

ともあれそのOさんは、おれが適当に投げて圧勝したダーツの試合のあとに行ったカラオケで、座るおれに馬乗りになってきた。「さっきはカッコよかったよ」と耳元で囁いてキスしようとしてくる。いや、あのダーツの精度は完全に偶然なわけだし、おれが結婚していることは会社の同僚にとうぜん認識されているわけで、その同僚たちがおれたちを見ているわけです。ストリップバーのプライベートダンスみたいに跨ってくる彼女を前に、アメリカで育ったやつはすげぇなと思った。リスク感覚よりもその場のノリや感情が勝ってしまうのかね。

それから一ヶ月ぐらい、会社内のSlackみたいなコミュニケーションツール(何使ってたか忘れた)で、熱烈なラブコールを受け続けたが、おれは社内恋愛だけは絶対にしないと決めているので、友人関係を維持しながらうまく避け続け、彼女の熱が静まるのを待った。隣の部署だし、業務的にも絡むので、距離感を適切に取るのがけっこう難しかった。

社内恋愛ってあんなに恥ずかしいことなくないか?まず、セックスしよう、って言って断られたらどうするつもりなの?翌日からどんな顔をしてその人と対峙するのだろう。おれはそれはとても恥ずかしい。セックスしたらしたで、自分をネタに社内の女子たちが話しているのを想像すると耐えられない。

「あいつちんこ臭かった」とか「下手だった」とか言われると思ったら転職を検討するしかない。

会社を辞めたあとにセックスしたことは何度かある。それが正しい工程だと思っている。

けど、Oさんとはその後もヤらなかったな。爬虫類の目が怖かったし、そもそも知っている人たちの前で馬乗りになってくる女なんて好きになれねぇ。

おれはアメリカンより日本人の方が好きだな。

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