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戦略論:売り上げを上げる
売り上げの因数分解
売り上げの上げ方を考えるためには、その目標となる数字、すなわち明確なビジョンが必要であることはすでに述べたが、その上で、売り上げがどのような構成要素で成り立っているのかを知る必要がある。売り上げを分解すると、このような式で表される。
売り上げ=客数×客単価×購入頻度……①
式①を見れば、それはそうだと納得されるだろうし、どうすれば売り上げが上がるかも見えてくることだろう。客数を増やすこと、客単価を上げること、購入頻度を増やすことが、売り上げを上げるための構成要素であることが、この式から一目瞭然となる。
ところが、単純でないことに、客単価が高いと客数が絞られるし、客数が多いと客単価が下がったりもするといったふうに、互いに影響を及ぼし合うため、掛け算としての最大値を見極める必要が出てくる。
さて、この掛け算の3つの要素の中で、最も重要視しなければならないのは客数である。ドラッカーに倣えば「経営とは顧客の創造」なのだから、客数が最重要であることは理解してもらえることだろう。そもそも、客単価という要素も、顧客がなければ意味をなさない。客単価は顧客が支払うものなのである。そういう意味では、優先順位として、まず客数を増やす方法を考え、十分に客数が確保できる段階になってから客単価を上げる工夫をするほうが、成功への近道ではないかと思われる。
では、客数が重要であることがわかったところで、客数を増やす方法を考えるために、さらに小さな要素へと分解してみよう。
客数=既存客+新規客-流出客……②
去年から取り引きのある顧客(既存客)と、今年取り引きを始めた顧客(新規客)の合計から、去年は取り引きしたものの今年はしていない元顧客(流出客)を差し引いた数字が、今現在の客数となる。
新規客というのは、とても分かりやすいもので、今から取り引きが始まる瞬間というのは、明確にわかるものであるし、式②を見ても、新規客が増えているのだから客数が増えていて、つまり式①のとおりに売り上げが上がると思いがちだが、にもかかわらず、売り上げが変わらない、あるいは下がっていることがある。その理由は、流出客が新規客と同数、あるいは上回る数いたからである。
新規客と違って、流出客はカウントしにくい。いつの間にか離れるものであるし、どの時点で流出したのか、どのタイミングで取り引きがなくなったのか、お互いにわからないのである。
「今日を最後に、もう二度とこのお店には来ませんから」
と宣言する顧客は、おそらくひとりもいないのだ。というのも、離れていく理由の多くは、何かが嫌になったというよりは、その店のことを忘れてしまった、というものであるからだ。顧客の側も、自分の意志で流出したとは限らないわけである。
式②からも、新規客を増やすことと、流出客を減らすことは、同じ価値をもたらすと理解してもらえるだろうが、興味を持つかどうかわからない新規客を開拓することよりも、一度は興味を持った流出客を食い止めることのほうが、簡単であるし効率的であることだろう。
ここでは、まず流出客を減らす工夫をし、次いで新規客を集めて客数を増やし、客数が増えれば客単価を上げる、という順序で売り上げアップを図ることを説明する。
さて、客単価については、このように分解することができる。
客単価=商品数×単価……③
そして、式②と式③を式①に代入すると、こういう式になる。
売り上げ=(既存客+新規客-流出客)×(商品数×単価)×購入頻度……④
売り上げの上げ方は、この式④に集約されている。その方法は5つの要素しかないことがわかるだろう。
・新規客を増やす
・流出客を減らす
・商品数を増やす
・単価を上げる
・購入頻度を増やす
では、この5つの方法について、さらに詳しく説明することにしよう。
ただし、すべての状況において、5つの戦略をすべて同時に適用できるとは限らない。どれかひとつの要素を増加させることが、別の要素を減少させる原因になることは多々あるため、それぞれの状況に応じて掛け算としての最大値を見極め、戦略を選択して利用してほしい。
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