東大に提出の博士論文に書かなかった思考過程:修士編
「博士論文」と聞いて何を思い浮かべる?
博士論文などの学術論文では、可能な限りこれまでの科学の発展を踏まえてその文脈の中に著者の研究成果を位置付ける努力がなされる。
ということで分野ごとに程度の違いこそあれ、論文での論旨の展開は個人が研究結果に至った経緯とは必ずしも一致するわけではないし、一致しなくても論文として何ら問題はない。こういうことは研究者コミュニティーではよく知られているはずだと思うけど、事情はともかく公の場で話されることはあまりない気がする。ちなみに僕の場合は一致しないことが多い。
ということで、大学院で研究をしたことがない方はそういう事情に触れる機会が限りなく少ないだろう。ということで、論理的な必然性は全くないけど、博士論文に書かなかった思考過程を書いてみるか、という気になったので、以下思いつくままに。
注) その当時の思考過程を備忘録的に書くので、「説明足りないし訳わからん」、「そんなの当たり前」、「それ意味ない」とか思う方もいるかもしれませんが、敢えて全く気にせず書く、というコンテンツになります。"通常の”研究に関しては可能な限りそうならないように努力することになっています。下で出てくる"ボス"は当時の指導教員で調べればすぐ出てくるはずだけど、万が一検索で変に上位に来てもあれなので今のところここでは名前は明示しません。
修士課程1年目
大学院選びの時から生物にぼやーっと興味を持っていた。だけどぼやーっとし過ぎて思考停止する。とりあえず生物は多体系なので、多体系の扱いに慣れよういうことで、研究室の先輩のやっていた、粉体の破壊パターンとかコロイド系のパターンとかの実験結果とシミュレーションや解析論文とか読み始め、関連するガラスの論文も読み始める。粉体のシミュレーションやってみたり、コロイド系の解析計算に手をつけるけど、すぐにどこに向かうのか見えず手が止まる。ガラスと関連して、ボスにGriffith相の話を聞いて、希釈bond Isingのシミュレーション始める。けどどこに向かうのか見えずまた手が止まる。次にきれいな絵のついたrandom field Isingの論文を紹介してもらって、またシミュレーションすると、読んでたガラス論文の振る舞いに似てる気がする。なので、その似てる感をはっきりさせるため、いろいろ設定を変えてシミュレーションすると、あ、そっくりじゃんと。先行研究を調べるとそういうことを言ってる論文ないな、と。これが研究ってことかと思う。
修士課程2年目
とりあえず研究っぽいことになったようのでとりあえず論文を書いてみようと。多分英語で論文を書くなんで大変だから、できるだけ早くそういうのはやったほうがいいはずだと。案の定、論文ってどう書くかよくわからん!ということになる。僕が書いた原稿を見てボスにいろいろ言ってもらうも、よくわからんなーと思いながらボスの修正を入れていくと、それっぽくなるので、なるほどそういうもんなのかと。最初の雑誌はrejectだけど、次は結構あっさり通って、なるほどこういう感じかと。シミュレーションをやったので、次は解析計算できればという流れに。全結合Kuramotoモデルクラスでも似たような振る舞い見えるかと思ったらやっぱり見えたので、さてこれをどう解析できるのかな。とりあえずその時に読んでいた論文を真似しながら、経路積分で書いてそれぞれの素子の位相を平均位相から展開、鞍点法から出てきた運動方程式を数値的に見るとシミュレーションで見たのとほぼ一緒になる。その振る舞いは特異摂動で計算できるはずとボスが言うので、該当論文とボスの過去の未発表ノートのやり方を勉強する。なんか似たようなセッティングだからできそうだなと唸ってると、Reimannの拡散係数表示のパラメータ特異性を調べればいいとわかる。でもそこの積分がどう振る舞うかわからんのでとりあえず数値的に評価するとシミュレーションの異常性と一致することが学会数日前の深夜というか朝方にわかる。理論研究ってこう言う感じなのか、と。シミュレーションの結果みるだけより、わかった感あるからこういう研究ができるといいなとか。
上のようなことを考えている途中の修士課程2年目初めに、研究以外のこともいろいろ考えたりした後に、結局博士課程に進むことにしたので、博士過程編に続く。
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