おかえり医療、ただいま地域
その日、4時間で4,400人もの住民が地方の小さな病院に足を運んだ。
おくすりや治療ではなく、楽しいひと時を求めて。
願うのは、大盛況ではなく病気でなくても病院に行くという文化
昨年2,200人という地方病院主催のイベントとしては異例の参加者数を記録した「希望の丘マルシェ」が、さらに地域への想いを込めて2024年9月29日にVol.2として開催された。
外来もなく入院のほとんどが高齢者である掛川東病院に、たくさんの子どもの笑顔が舞った。「あの病院は、入ったら死ぬまで出られない」というかつてのイメージは、ばつが悪そうに逃げ去るしかなかった。
どんなに言葉をならべても、地域共生は訪れない
暦の上で春になる頃、すでに9月のマルシェの出店候補者への声掛けは始まっていた。普段から当院とつながりのある方に想いを伝えていく。
行政や地域の方々からたくさんの応援をいただく中、院内では課題も多かった。
「いつもの仕事だけでも大変なのに、地域のことよりも先にやることがあるでしょ?」
マルシェ開催にあたり、職員の理解、マンパワーの捻出、駐車場の問題、運営費用の工面など、できない理由はいくらでも見つけられた。
昼休憩時間にカツカレーを病院から振る舞い、地域活動を病院が実施する意義を、有志で職員に伝える機会を設けた。4回の開催で約120名の方に参加いただき、少しずつ地域に眼を向ける仲間が増えた。
ステージ設営は、どうしても予算が足りずに諦めざるを得ない状況であった。土井酒造さんへ挨拶に伺った際に、日本酒ケースを運ぶパレットを重ねたらステージになるのでは??とひらめく。すぐにお願いしたところ快諾いただき、夢のステージが誕生することとなった。
みんな大好き顔出しパネルは、三浦製材さんに基礎を作っていただき、新卒セラピストが絵を描いてくれた。ステージの背景パネル製作も、最年少ドクターが材料調達からデザイン、ペイントまで夜な夜な創作活動に没頭してくれた。
このハンドメイド感が、地域のつながり促進にはぴったりである。
今回のマルシェでは、AIでオリジナルダンス曲を創り、仲間のダンサーに振り付けをしてもらい、当日参加者と一緒に踊ることができた。今まで大きな企業でしかできなかったことが、個人でも可能となり、たくさんのチャレンジがこれからも生まれるだろう。
地域共生。言葉で言うのは簡単だが、地域の暮らしに触れ、ひとりひとりと対話をするには、病院の中でも外でも行動するしかない。
多視点で場をつくるという大切さ
また、マルシェ運営が属人的にならないように、病院では地域つながり推進委員会の各メンバーが半年前から奮闘した。昨年に続き入社2年の職員がリーダーを務め、毎日病院内外を走りまわった。
病棟に残って働く職員を含め、関わるひとみんなが楽しめるマルシェをいろんな視点で模索した。世代、障害の有無、国籍、ジェンダーに関わらず、お互いを認め、同じ場所で交流できる場所づくり。
地域で暮らしを支え合う。そんな文化醸成を手伝うにあたり、このマルシェ運営は非常に大きなものとなった。病院がハブになり、いろんな人を巻き込みながら、地域課題に取り組み、少しでも望む明日を切り開いていく。
多くの参加者で盛り上がる中、病院の中ではいつもと変わらぬ医療を提供し続けた。多くはない職員数で防災訓練するはしご車を患者さんに見てもらったり、利用者と車椅子で会場を案内した。病院を守るスタッフがいるから地域に飛び出すことができる。
プロボノで参加したフリーランスチームが病院内で働くスタッフ向けにハンドケアブースを設けてくれた。いろんな視点があったから、より多くの人に思いが届いた。
医療と地域のつながり
多くの出展者や協賛者、行政や連携医療機関とともに、大きな事故もなくマルシェを開催できたことを本当に嬉しく思う。
少子高齢化、医療費不足から医療や介護の現場は、想像以上に厳しい。当院でも看護師不足に直面する中、それでも地域のニーズに向き合っている。
・自分の体についてちょっと考えてみる。
・ご近所さんは元気かな?
・たまにはみんなでご飯を食べよう。
・地区で困っている人がいないか話を聞いてみる。
そんな小さな地域のつながりが、まちの医療を支えていく。
病気になったらいく病院。
ではなくて、病気になる前から遊びに行く病院。
一緒に自分らしい暮らしを考えてくれる病院。
そんな病院の「希望の丘マルシェ」の話でした。