男子5000m10000mでの日本人選手の12分台&26分台の可能性について(記録の男女差についての考察から)

シューズの進化によって記録の向上が目覚ましいですね。女子女子マラソンの世界記録が、遂に2時間10分を切りました。10年くらい前の時代であれば、2時間10分を切る日本人ランナーは年間に数名でした。ちなみに昨年までのこの10年間で、どのくらい記録に変化があったのか調べてみると、

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2023 7人  43人 140人 242人
2022 6人  51人 120人 208人
2021 0人  45人 104人 197人
2020 5人   46人 114人 198人
2019 3人 31人 118人 218人
2018 1人 11人 74人 164人
2017 2人 14人 68人 151人
2016 0人 6人 52人 139人
2015 0人 5人 44人 132人
2014 0人 6人 51人 126人

こんな感じです。

NIKEの最初のBreakinng2が行われたのが2017年でした。記録の変化を見ても、厚底カーボンシューズが世に出始めたのが2017年だったなというのが分かります。以後、サブ10をする日本人ランナーは続々と増え、気になったのでその下の層の記録も調べてみたのですが、当然のようにサブ15やサブ20の人数も格段に増えています。市民ランナーと言われる人が20年前や15年前に比べるとかなり増えて、さらには趣味の範疇とはいえ一生懸命に走る人も増えて本当にレベルが上がったなぁと思いますが、レベル向上の理由は走る人が増えただけではなく、やはり一番の理由はシューズテクノロジーの進化でしょう。

衝撃的な世界記録が出たのでマラソンのことに触れましたが、今回書きたいのはマラソンの話ではなく、トラックの日本人男子の5000mと10000mの日本記録についての話です。
今週末に八王子ロングディスタンスが行われるなかで、5000mの方はなくなってしまったようですが、10000mの方は26分台に向けてチャレンジしていくようです。
考えとしての結論から最初に述べますと、そう遠くない未来に5000mは12分50~55くらい、10000mは26分45~50秒くらいまでは行くのではないか、いや、行けるはずと思っています。

何故そう考えるのかという理由ですが、その考察として、中長距離走の記録の男女差について先に触れてみたいと思います。
私の同世代の女子選手に福士加代子さんがいました。彼女はトラックでも駅伝でも圧倒的に速くて強くて、何度も世界大会で走っている姿を観て、その速さに興味を持ちました。とはいえ、実際に一緒に走ったりするわけではないので、男子選手の記録と比べてみて彼女の速さを計ろうと考えました。
福士さんのトラックのPBを見てみますと、
3000m 8'44"40 (2002年)
5000m 14'53"22(2005年)
10000m 30'51"81(2002年)
ちなみにハーフマラソンは1.07'26(2006年)

これに当時の男子の日本記録を比べてみます。全て高岡寿成さんの記録でしたが、
3000m 7'41"87
5000m 13'13"40
10000m 27'35"09

ハーフの日本記録は2000年に高橋健一さんが1.00'30、2007年に佐藤敦之さんが1.00'25で走っています。
補足として男子の5000に関しては、2007年に松宮さんが13’13"20という記録で日本記録を更新して、2013年には佐藤悠基選手が13'13"60で当時日本歴代3位で走っています。10000mの方では、2015年に村山紘太選手が27’29"69、同レースで鎧坂哲哉選手が27'29"74で当時の日本歴代1位2位で走りました。女子の方の補足としては、福士さんが30分51秒で走る数か月前に、渋井陽子さんが30'48"89の当時の日本記録を出しています。
こうして見ると、お気づきでしょうか?男女の差は、3000mでおよそ60秒差、5000mで約100秒、10000mですと約200秒です。つまり、1000mあたり20秒の差と言ってもよさそうに見えます。ハーフマラソンで見てみるとハーフは約21100mですので、420秒差となるはずで、420秒というと7分です。当時のハーフの日本記録を比べますとやはり7分差です。ちなみにこの男女差の1000mにつき20秒差の考えがどこまで当てはまるか見てみると、1500mでも当時の記録には当てはまりました。小林祐梨子さんの4'07"86と小林史和さんの3'37”42です。1000mで20秒差なので1500mなら500m10秒を足して、30秒差でピッタリです。もう一つ短い800mまで見てみますと800mだと16秒差になるはずですが、まぁまぁ当てはまっていると言えるのではないでしょうか。800mについてはここでは割愛しますが、気になる方は調べてみてください。長い方のマラソンで比べてみると、ハーフで7分差なのでマラソンは14分差となりますが、女子の当時の日本記録は2001年~2005年の間に3人の選手によって2時間19分台がマークされました。男子の日本記録は1999年に犬伏さんが2.06'57、2000年に藤田敦史さんが2.06'51、高岡さんが2002年に2.06’16と5分台まであと一歩のところでしたが、だいたい1kmあたり20秒くらいの差であるというのは、そんなに外れてはないと思います。(今の世界記録の男女差だと、この20秒差の話は使えなくなってきてそうですが、日本人の中では使えそうなので話を進めます)

マラソンの記録を押し上げてくれたテクノロジーはトラックスパイクにも搭載されて、トラックでも記録が更新されました。
どれくらい違うものか、これも記録の変化を追ってみました。
ここでは、もっとも多くの選手が試合に出ていそうな高校生カテゴリーの5000mの記録を見てみました。
2014年から2023年までの10年間の、その年の高校ランキング(留学生を除く)1位、10位、25位、50位、100位の記録を比較してみました。

高校生5000m記録推移 2014~2023年

拘らずにざっくり作ったので、メモリの位置や縦軸の数字の見にくさはご容赦ください。(秒に直して作っているので、840秒が14分00秒です)
5000の記録をこうして見てみると、1位の記録は2020年以降は飛びぬけるようになってしまって外れ値な感じですが、10位25位50位100位とそれぞれを比較すると、2017年以前と2020年以降を比べてみると14分00秒くらいで走った高校生は約10人だったのが約25人に、その下の層の14分10秒前後の人数も25人程度から約50人に、約50人だった14分20切りの人数は100名を超えました。2018~2019年は、まだ厚底カーボンシューズでトラックレースに出られていたりで過渡期でしたが、反発性に優れたカーボンプレート入りのスパイクが十分に行きわたったであろう2020年〜2023年の平均記録と、それ以前の2014年~2017年までの平均記録をそれぞれ比べてみると、1位は13分49秒から13分29秒に、10位は14分00秒→13分54秒、25位は14分12秒→13分59秒、50位は14分17秒→14分07秒、100位は14分26秒→14分15秒となりました。記録のコンマ以下は省いて出している数字なのでピッタリ正確な数字ではないですが、それぞれの記録の向上の平均値は12秒です。高校生は2017年以前よりも5000mで12秒速く走れるようになっていると、ざっくり考えても間違ってはないと思います。社会人に目を向けても、2024年の日本選手権の出場ラインが13分30秒まで引き上がったことを考えても、やはりそのくらいの数字に大きな違いはなさそうです。

色々と材料が出たところで、本題の考察です。
この数年で女子5000m10000mでは、田中希実選手と新谷仁美選手によって大きく記録が更新されました。(5000m14分29秒18、10000m30分20秒44)
先に述べた男女差1000mあたり約20秒の話でいくと、男子5000mは12分49秒、10000mは27分00秒となります。そんな単純な話ではないことは重々承知ですが、記録の比較でいくとそういう風に見えるということです。田中選手に関しては、何度も日本選手権で3種目に出場してそれぞれ優勝や入賞をしていて、つまり数日間で3種目を全力で走ってもその負荷に耐えられ、かつ勝てるような強度で練習をしているはずで、14分29秒という数字がそうであるように、その練習内容は想像を絶します。新谷選手の30分20秒ですが、たしか3000m以降は単独走でした。普通に考えると、同程度のレベルの選手と競り合ったり引き合ったりしながら走ったほうが記録は良くなると考えられるので、あの時の新谷選手のパフォーマンスレベルとしては30分10秒を切れるところに達していたと考えても言い過ぎではないように思います。
どちらの選手も常人には考えられないくらいのトレーニングを消化していると思いますので、だから男子も12分49秒と26分台が出せると言い切れるわけではないですが、可能性としては大いにあるのではないかということです。特に2015年の大迫選手の13分08秒で止まっている男子5000mの方は、レースメンバーや気象条件などが整えば、すぐにでも更新されそうに思います。(今回の八王子LDから5000mがなくなって残念ですが…)

男子で言えば1500mと10000mで大きく記録が更新されていますので、5000mに関しては時間の問題かと思います。あとは誰が破るのか、どのくらい記録が更新されるのか。簡単ではないと思いますが、故障に気を付けつつ、しっかり期分けもしたうえでハードトレーニングを消化できた選手が出てきたら、12分55秒前後まで行ったとしても不思議じゃないように思います。




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