参院選の簡単なデータ分析から見えてくること
参院選が終わった。自民党と公明党の連立与党が124議席中の71議席(全議席の57.26%)を獲得した。そしてそれ以外の党や候補者(≒野党側)は53議席(全議席の42.74%)を獲得した。
さて、参院選は都道府県単位の「選挙区」74議席分と、全国一つの「比例代表」50議席分の組み合わせで行われている。つまり、投票者は1票ではなく2票を投じる仕組みだ。
今回の投票率は48.80%ととても低かったが(有権者≒日本国籍の大人は1.06億人弱いるのでその半分も行っていないということ)、そこからさらに白票などの無効票が除かれることになり、選挙区ではおよそ5036万票、比例ではおよそ5007万票が有効な投票となった。
つまり、選挙区の5036万票で74議席を、そして比例の5007万票で50議席を選ぶ仕組みになっている。こうした仕組みのことがわかっていないと現実を見誤るので以下簡単な分析をしてみたい。やったのはNHKの選挙速報サイトから各候補者や政党の得票数をポチポチと打ち込んで分析しただけである。誰にでもできる。
自公の得票率は5割を切っている
まず、シンプルな事実から確認すると、57.26%の議席を獲得した自公の得票率は5割を下回っている。選挙区で47.56%、比例で48.43%だ。
したがってこういうことになる。
・自公:得票率47.99%→議席率57.26%
・その他:得票率52.01%→議席率42.74%
(得票率は選挙区と比例の合計)
つまり、自公の与党2党は半数未満の得票率で6割近くの議席を獲得している。野党はその逆ということだ。得票→議席の転換効率が与党側の方が圧倒的に良い。
主要なところを党別に見てみるとこうなる。
・自民:得票率37.58%→議席率45.97%
・立民:得票率15.94%→議席率13.71%
・公明:得票率10.41%→議席率11.29%
・維新:得票率8.54%→議席率8.06%
・※選挙区での無所属野党統一候補19名:得票率4.95%→議席率7.26%
・共産:得票率8.16%→議席率5.65%
・国民:得票率6.58%→議席率4.84%
・れいわ:得票率2.48%→議席率1.61%
・N国:得票率2.55%→議席率0.81%
・社民:得票率1.23%→議席率0.81%
太字にしたところは得票率より議席率の方が大きい。自民、公明、そして野党が共同で立てた無所属候補たちの3者である。それ以外の政党は転換効率が悪く、要は「もったいない」状態になっている。
なぜこういうことが起きるのか。
得票率と議席率の乖離はなぜ起きるか
比例というのは、その名の通り得票数に比例して議席数を割り振っていく仕組みなので、上で述べたような得票率と議席率の大きな乖離は起きない。こんな感じだ。
自公:得票率48.43%→議席率52.00%
その他:得票率51.57%→議席率48.00%
ということは、乖離は全50議席の比例ではなく、全74議席の選挙区で発生しているわけである。
自公:得票率47.56%→議席率60.81%
その他:得票率52.44%→議席率39.19%
これは選挙区という仕組みがもたらす現象だ。例えば一人しか当選しない選挙区(一人区と言う)では、二番目に多くの票を集めた候補が49%集めたとしても落選する。つまり、得票率49%→議席率0%ということになる。
比例ではこういうことは起きない。得票率が49%であれば49%に近い議席が得られる。
こうした「議席につながらなかった得票」のことを「死票」と呼ぶことがある。つまり、比例は死票が少なく、選挙区は死票が多い。
そして、とても重要なことに、同じ選挙区でも一人しか当選できない「一人区」と二人以上当選できる「複数人区」では死票の出方が全く変わってくる。先ほど一人区で49%を獲得して落選するケースを例に出したが、この同じ人は例えば二人区であれば当選する。
つまり、死票になるかならないかは「選挙区ごとに割り当てられた議席数」に大きく左右される。二人区などの複数人区よりも一人区の方が死票が出やすい。
選挙区の特に一人区で乖離が起きている
では、一人区は選挙区全体のうちのどれくらいを占めるのか。全45選挙区のうち32選挙区が一人区である。そして、実際にここでたくさんの死票が出ている。
・一人区:死票率44.91%
・複数人区:死票率25.23%
結論から言うと、こうした死票の出やすい一人区で自民党は32選挙区中の22選挙区で勝っている。公明党は一人区(と二人区)には候補者を一人も出さずに自民党を支える。逆に、東京を始めとする人口の多い7つの複数人区(すべて三人区以上)には公明党も候補者を立て、そのすべてにおいて議席を獲得している。「選挙戦略」というものを如実に感じさせる結果だ。
こうして見ると、自公連立というのは「一人区で勝つための選挙協力」、つまり「一人区で5割程度の得票を確保するための選挙協力」という意味合いが強いことがよくわかる。選挙後の議会内での連立ということに目が行きがちだが、選挙協力の意味合いは大きい。
いわゆる野党共闘というのは、この自公共闘の裏返しのようなものであり、実際に一人区で野党側が勝った10選挙区のうちの8選挙区が「無所属」という形で出馬している。
要は、選挙区という選挙制度、特に一人区というものがあるからこそ、与党であれ、野党であれ、「選挙協力」、あるいは「党同士の合体」というものをやらざるを得ない状況がもたらされているというわけだ。
<一人区>
・自公:得票率52.76%→議席率68.75%
・その他:得票率47.24%→議席率31.25%
<複数人区>
・自公:得票率44.51%→議席率54.76%
・その他:得票率55.49%→議席率45.24%
これを裏返せば、選挙区だけでなく比例があるからこそ、社民やれいわやN国のような小規模な勢力でも議席を得られるということを意味する。選挙区では勝てない政党でも、得票率に比例して議席を得られる比例の仕組みでは議席を得られる可能性が出てくる。
この上に、「一票の格差」が乗っかって効いてくる
さて、選挙区、特に一人区の存在によって得票率と議席率の乖離が生まれることを見てきたが、これにさらに輪をかけるのが選挙区という仕組みに固有のいわゆる「一票の格差」という問題だ。
これは、簡単に言うと60万人台の有権者に1議席が割り当てられている福井、佐賀、山梨のような選挙区から、200万人近い有権者に1議席が割り当てられている宮城、新潟、神奈川、東京のような選挙区とで「一票の重み」に大きな格差がある、という問題である。例えばこういうことである。
・福井で勝った自民候補者の得票数:195,515票→1議席
・宮城で勝った立民候補者の得票数:474,914票→1議席
これが何を意味するかと言うと、少ない得票数で議席を得られる選挙区において勝てば勝つほど、得票数→議席数の転換効率が良くなるということだ。実際に、先ほどあげた有権者数60万人台の福井、佐賀、山梨の一人区ではすべて自民が勝っており、逆に有権者数190万人台の宮城と新潟では野党側が勝っている。
上に書いた福井と宮城の得票数を比べてもらえばわかるように、2.5倍近い得票数があっても同じ1議席である。「一票が相対的に重い選挙区」に一定の組織基盤があると、より効率的に議席を獲得できることになる。
ちなみにそもそもなぜ福井と宮城の人口が全然違うのに両方1議席なのかということなのだが、要は「都道府県単位で選挙区を設定する」ということと、「選挙区の議席数が74しかない」ということとの間で、無理やり妥協しているだけだ。
74議席という制限の中で、多数の一人区から東京の六人区まで割り振っているからこそ多くの一人区、そして大きな一票の格差が生まれざるを得ない。逆に言えば、より多くの議席=議員数を認めるのであれば、より一票の格差が小さい選挙区割りは可能である。
選挙戦略か制度改革か
長くなったのでまとめる。選挙制度のあり方によって、投票というインプットとと、議席獲得というアウトプットの関係性は大きく変わってくる。目に見えやすい議席率と同じだけの支持率があるわけではない。反対に、議席率よりも支持率の方が高い勢力もたくさんある。
加えるならば、そもそも論、有権者の半数以上が選挙に行っていないということもあり、結果として自公が全有権者の2割強の投票で全議席の6割近くを獲得するということが現実に起きている。
比例という仕組みは、インプットとアウトプットとを比較的なめらかに結びつけるが、選挙区という仕組み、特に一人区の仕組みは二つの関係をかなり歪めた形で結びつける。こうした仕組みのあり方によって得をする人もいれば損をする人もいる。まず事実としてこのことを知っておいたほうが良い。
①現在の参院選の仕組みは、選挙区(74議席)と比例(50議席)の組み合わせになっており、かつそこで得られる議席数が選挙区に偏っている(59.7%)。
②さらに、選挙区の中の一人区の割合がとても大きく(22選挙区/32選挙区)、それが結果として多くの死票を生み出し、得票数と議席数の乖離を帰結している。
③さらに、こうした選挙区のあり方によって大きな「一票の格差」が存在し、こちらも得票数と議席数の乖離を生み出すことになっている。
こうした制度のあり方を前提として「大きく勝つための選挙戦略」を考えるならば、一人区で勝つために「党をくっつけて大きくする」か「選挙協力をして実質的に結合する」ということになる。加えて「一票が重い選挙区」が取れるのならば取れるに越したことはない、ということになる。
選挙結果を見て分かる通り、与党側は、主要政党の党のサイズ、選挙協力の結合の強さ、一票が重い選挙区での強さ、いずれにおいても野党側に優っている。だからこそ、得票数という「実力」以上の議席数を獲得する、という結果になっている。制度のあり方と、その上での戦い方の巧拙、という両面を見る必要がある。
何しろ自民党の比例での得票率は35.37%に過ぎない。その党が全体の45.97%の議席を獲得しているのだ。
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制度に関しては考えるべきことが多い。
比例と選挙区の議席配分はこのバランスでいいのか、選挙区の中に性格のかなり異なる一人区と複数人区が混ざっている形でいいのか、一票の格差を減らすために議席数を増やすかあるいは都道府県単位ではないより広域の選挙区にして複数人区だけにするかした方がいいのではないか、などなど。
いずれにしても、簡単にでも数字の分析をすることで見えてくることがある。直感的な印象とは少し違った感覚も得られるだろう。何より冷静になるためにも数字と向き合うことは大事だと思う。今回は直近の参院選についてやってみたが、衆院選についても似たような視点から分析することはできる。誰にでもできる。
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