不確実性に向き合う働き方「あなたの夏休みの宿題は?」
目標に向けて「わからないこと」を減らしていくのが仕事
もし、何か目標があってそれを実現したいとき、たとえば、総理大臣になりたいとか思ったとき、総理大臣になる方法や総理大臣がどんな仕事かわからないとなると、次の行動は「わからないから、諦める」ではなくて、「総理大臣の仕事を調べる」「総理大臣になる方法を調べる」となるはずです。
このように何かに取り組むとき、常に「次の行動が何か」がわかれば、少しなりとも前に進むはず。でも、何かを実現するにあたって「正解がわからない」だから、「何もしない」
そうではなくて、「わからないということがわかった」ということは確実な一歩で、その発見をもとに次に進むことこそが重要だったりします。
なにせ、今の時代はコンピュータが溢れ安くなりました。仕事だと思ってたことは、どんどんソフトウェアによって効率化・代替されます。だから、二度も三度も同じ「わかりきった」ことを繰り返すことは少ないのです。人間に残された仕事はどうしても「わからないこと」になります。
この「わからないこと」を減らす「思考と行動のありよう」こそが「実現の技術」である〈エンジニアリング〉という言葉の真の意味だと気がつきました。
拙著「エンジニアリング組織論への招待」はこのような当たり前のことから出発し、エンジニアリングという言葉を再定義して、心理学・社会学・経営学・組織学・情報システム学などのセオリーに対して統一的なストーリーラインをつけたビジネス書でもあり、システム開発のための技術書でもあるというちょっと変わった本です。
ありがたいことに、ビジネス書の大賞と技術書の大賞を1冊の本でいただくことができた史上初めての本になりました。
わからないこと(不確実性)に向き合うのは怖い
わからないことをわかるようにするなんて、当たり前のことです。
しかし、よくよく自分や周囲の人々を観察してみると「不確実なこと=わからないこと」に向き合って、「わかるように」取り組むことができなくなるような仕掛けが人の脳に組み込まれていることにも気がつきます。
たとえば、野生動物を考えてみます。何か自分を脅かすかもしれない「わからないもの」が突然目の前に現れたらどうするでしょうか。シマウマのような草食動物であれば、一目散に逃げ出すでしょうし、ライオンのような肉食動物であれば、大きく吠えて威嚇するかもしれません。
これは実は人間でも一緒なのです。人も「わからないもの」、「不確実なもの」からは「逃避」か「闘争」をしようとします。職場でも見ることはありませんか。新しいものを忌避して、なにかとできない理由を探して止めようとしたり、突然怒り出したりする人を。
動物としての脳がそうなっているのだから仕方のないことでもあります。
では、どうやってこのわからないものに立ち向かうのがよいのでしょう。どうしたら、わからないものに怯えず、目標に向かっていく組織を作れるのでしょうか。僕の組織論の出発点はそこのあります。
「わからないこと」から取り掛かる「夏休みの宿題」理論
たとえば、仕事を「タスクを完了すること」ととらえるのではなく「わからないことを減らすこと」ととらえると、それだけで物事の優先順位は変わってきます。それを学生時代の夏休みの宿題を例に「不確実性」に注目する仕事の進め方を考えてみます。
毎年、僕は夏休みの初めから簡単そうな宿題からどんどんとこなしていきました。最初は良かったのですが、最後の方に「自由研究」や「苦手な教科の宿題」「美術の課題」のようにどのくらい時間がかかるのか、わからないような宿題が残ってしまうことになります。そうすると、宿題は終わるのか、終わらないのか、いつになれば宿題を気にせずに遊ぶことができるのかが読めなくなり、後半は友達遊んでいてもなんだか宿題が気がかりで憂鬱でした。
ある年から少し考え方を変えました。いつも最後に残ってしまうような課題から先に取り組むことにしたのです。最初は大変でしたが、それによって、夏休みのいつくらいから、何も気にせず遊べるのかというのが、夏休みが進むごとにはっきりとしてきて、鬱々とした思いを抱えずに済むようになったのです。
これは今考えると、「不確実性」というキーワードで説明をすることができます。
自由研究や苦手な教科の宿題のように、どのくらいでおわるか読みづらいものは、不確実性の高い宿題と言えます。時間が読みづらいものは、実際に「やってみる」とどのくらいで終わるのか見えて来ます。実際に行動を取ることで、不確実性が減り、スケジュールの予測の精度が上がるのです。
逆に、不確実性の低い宿題、たとえば、得意教科のドリルなどを先に手がける場合、不確実性の高い宿題だけが手元に残ります。タスク量は少なくなっているのに、不確実性は高いままなので、いつまでに終わるのか読みにくく、夏休みを楽しむ時間が減ってしまいます。だから、夏休みの後半を楽しめなかったのです。
でも、不思議と最初に「不確実性の高い=わからないもの」に取り組むのはすごく怖いとも感じました。無意識に避けてしまっていたのです。やってみると案外大したこともないことも多いのですが。
目の前の仕事でタスク量がある時ほど「やりたくないこと」からは自然と目をそらしてしまいます。たとえば、早めにちょっと嫌な同僚と話をつけておけばいいことなども後ろ倒しにしてしまったりしませんか。
そういったものを見つめ直して、自分の仕事がうまく進むかを決定づけるような「不確実性」に目を向けて、一番大きなものから、どうしたらそれがわかるのかを考えて取り掛かると仕事は案外スムーズに運びます。放置してしまうと、あとから問題が発生して、もっと嫌な思いをします。
うまくいかないプロジェクトというのは、そういう無意識に不確実性から逃げたことによって起きるものです。
だから、いつも僕は仕事をする時に考えるのは、今の仕事で取り掛かるべき「一番わからないもの」は何だろうという問いでした。それはきっと、わかっていて少し向き合いたくないことなのです。
みなさんの引っかかっている夏休みの宿題は何ですか。それに向き合えば、少しだけ物事が進むはずなのです。
本記事は、「いい感じに働くアドベントカレンダー2019」 の8日目の記事です。その他の投稿者はこちらの面々です。
エンジニアリングと組織の関係について、より多くのビジネスパーソンに知っていただきたいという思いで投稿しております!