GDXはデジタル時代の公務員の姿勢を問い直す
「Next Generation Government(NGG)」発刊から約1年半経って、黒鳥社が「GDX」という7万字にわたる無料冊子を編集、配布を開始した。本冊子はPDFでも行政情報システム研究所のサイトからダウンロード可能だ。
DXとは何か。それはユーザー中心にサービスを提供することであるということが色んな角度から書かれている。行政における「ユーザー」とは当然行政サービスを受ける市民であるが、デジタル化によって業務のあり方が変わる行政職員自身もユーザーの一部である。
サービスのデジタル化は、ユーザーとの接点となるインターフェースの使いやすさや、ユーザーの体験自体を負担が少なく、また使いたいと思うものに改善していくことが求められる。インターネットを通じたスマホ、タブレット、PCなどのデバイスの前では全てのサービスはフラットに並べて比較されることになる。そうなった時に使いやすさこそが最大の競争領域なのだ。
こうしたサービスの使いやすさに公務員が思いを砕けるようになるには、日々の雑務から解放され、市民の立場に立って考える時間が確保できなければ無理である。そのためにはまずデジタル化によって公務員自身の効率を高め、市民のことを考えられる時間を作ることだ。そしてそのためには組織のあり方自体を変えるということが必要になってくる。そのチェンジマネジメントをどのように進めるべきか、というのが本冊子においても大きなテーマになっている。
NGGではもっと先のデジタル化が進んだ世界が描かれていたのに対して、GDXでは、そこに至るために行政組織がどう変わるべきなのかが描かれているのだ。その内容は自分が学んだこととも共通しており、これまで考えてきたことや実践しようとしてきたことともリンクする。
また、英国のGDSが現在求心力を失いつつある背景として既存の官僚組織によるGDSに対する態度の変容と予算プロセスの問題が挙げられている。各省庁でデジタル化推進組織が立ち上がってきた結果、そこに予算を配分する仕組みが進み、GDSの存在に対する懐疑論が立ち上がってきたということだ。デンマーク、スウェーデン、フィンランド、カナダなどは財務省の傘下にデジタル化推進組織が置かれている。
行政のデジタル化を効率的に進めるには全体最適を考えたアーキテクチャとそれに合わせた予算配分が重要となる。本書では北欧諸国を中心に財務省の下にデジタル化推進組織を置いたことを1つの成功要因としているが、予算と紐づいたシステムガバナンスはデジタル化推進組織が明確な戦略を持って行うことが重要になるだろう。日本でもこの点が実現できるかが、デジタル庁が正しい形で機能するのかの鍵を握る。
無料でこれだけのボリュームのものが公開されていることも、デジタル化における重要なコンセプトの1つであるオープンソースの考え方を、本冊子自体が示していると思われる。関心のある人はぜひ一読してみてほしい。
引き続きご関心あればサポートをお願いします!