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美術館に行くのは。

最近また美術館も動き出して、制限はあるけれど展示を見に行くことができて嬉しいです。

思えば何で美術館に行くんだろう。子供の時は親に連れられて行ったことはあるけど、古臭かったりよく意味も分からなくて、テンションが上がる場所じゃなかった。

18歳の時に東京に出てきてからも、友人は現代アートなるものの展示に行ったりしてたけど、自分には関係ないと思って気にしてなかったのに。

20歳にもなり服飾の専門学校を卒業して、絵やアートなるものでやっていこうと思っていた時に、何から始めたらいいかと考えていたら、友人がたまたま見つけてくれて勧められたのが美術館の看視員のアルバイトでした。

1日中絵だったり作品の横にいて、絵に触っちゃいそうだったり、困ってる人がいたら説明したり案内する仕事。静かな時間も多くて退屈な仕事だったけど、作品に向き合える時間もあるし、バイト仲間は美術やアートに関心がある人が多くて、そこでの出会いのおかげで、色んな知識がついたし貴重な経験がたくさんありました。おかげで美術やアートへの距離は縮んだと思います。

その頃にやっと、多くのレジェンド作家の作品を見て、感銘や憧れを抱けるまで自分が理解できてきて、自然と美術館に足を運ぶことが増えました。当時は何に出会えるか分からないから、片っ端から行ってました。京都に初めて美術館目的で行った時は、早朝に着いて、翌日の最終で帰るまでの丸2日間で40件の美術館、ギャラリー、お寺や文化施設に行ったりしました。(本当に見切ったかは今も分からないですw)

音楽や映画やお笑いとかに、リラックスや楽しみ、自分の常識を覆してくれる何かを求めることもあります。でも同じ目線で見たいと思ってたせいか、美術のようなものに関しては、好き嫌いとまた別で、自分と違う人間はどう生きてどう感じて、どう目に見える形にしてるんだろうと、世界、歴史問わず興味を持つようになりました。人が作った人のための世界の中で皆どう考えてるんだろうと、作品を通じて一つの出会いのように、美術館をよく回りました。

そんな美術館での看視員のアルバイトをしていた時の話です。

「具体派」という戦後の前衛芸術を代表する吉原治良率いる、白髪一雄、元永定正、田中敦子さんら自分も好きな作家さんを擁するグループの展示の時でした。当時の潮流に逆らうように、社会へのアンチテーゼや意識の改革を訴えるような、絵画、立体、体験型やイベント性に溢れたパンクな作品を多く生み出したグループです。

一時代を席巻した前衛団体の大回顧展という事もあり、既知の方も興味があっただけの方も初めて見た方も、これは一体?とテーマやコンセプトを知るまで理解が難しい作品もある展示でした。

その展示の第1室にいた時の事です。

中年の、紳士的な、品のある男性が自分を見ています。

作品ではなく、自分を見ています。

自分をマジマジと見ながらゆっくり近づいてきます。

あまりにも視線を感じたので、何かお困りなのかと視線を返すと、

「あなたは作品ですか?」

と声をかけられました。

「えっ?」

と自分は何をおっしゃってるか分かりませんでした。

「えっ?」

と数秒考えを巡らせお客様が何を言いたいのかどうにか気づき、

「あっ自分はただの看視員です...すいません...」

と答えると、

「あっそうなんですね!あなたの容姿に意味があるのかなと、つい...。これは失礼しました...」

と返され、鑑賞に戻られました。

当時の自分はスキンヘッドでツルツル頭、眉毛も薄くしていて、真夏の展示でしたが、体質的に色白、スーツ着用の仕事だったので、友達に勧められたセットアップ20万円するハイブランドの仕立てのスーツを着ていました。(当時はこれが自分に合っていると思っていました。)

確かに前衛グループの何が出てくるか分からない作品群を期待していたお客さんにとって、一般の日常では見かけない出で立ちで、壁際で静止している自分の姿が、当時の作者の意思を体現する作品なのではと思わせてしまったようです。(確かにお客さんは自分を見ながら説明書きのキャプションがないか自分の後ろの壁をキョロキョロ見ていたのを今も覚えています)

お互いとても恥ずかしい感じでその場は挨拶だけして終わりましたが、

あとあと考えると、お客さんは自分に理解できない「何か」がそこにあるんだと期待して、楽しみにして来場されたんだなと思いました。

かの「具体派」の回顧展、自分の知らない作品があるのかな、どんな作品に、どんな考えに、どんなビジュアルに、どんな体験に出会えるだろうと、心躍らせてきたのかなと感じました。

おや、理解できないビジュアルがある。これにはどんなコンセプトが?と思ってくれたのかなと思うと、期待には応えれなかったけど、

美術館を楽しんでる、いい美術を待ってる人がいると思うと、自分も美術に生きがいを見出された身として嬉しくなりました。

さてさてそんな自分も、どんな出会いがあるかと楽しみに、また美術館に足を運びたいと思います。

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